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パンツを脱ぎたまえ! 【パンツォヌゥゲ異世界物語】  作者: ゆむ
第一章 呼ばれていない救世主
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16 雨降って仕事お休み

 ウサギは南の畑の方にもいっぱいいた。みんな慣れてきたのと、そして徐々にだが魔法の発動成功率が上がってきていて、狩はスムーズに進む。

 畑に入り込んでいるウサギをどんどんと狩っていき、荷車が容量いっぱいになると畑の外側のウサギを探しながら引き返していく。そこからは人が担いで運んでいく分である。最終的に二十三匹のウサギを狩って組合に戻った。


「まだた。まだ終わらんよ!」


 碓氷優喜が声を掛けるのに先んじて鈴木こだまが叫ぶ。次はまだ行ったことのない東側に行ってみようということで、歩調を早めて東の門を出る。

 畑の東の端を南下しながらウサギを探すが思ったよりも見つからず、七匹だけ狩って時間となり帰路に着く。


「今日はいっぱい狩ったので、いっぱい食べて英気を養いましょう。一人銅貨四十までいっちゃうよ!」


 それでも控えめである。昨夜は銅貨三十枚以内だったところから比べると、大幅アップしてはいるのだが。

 カエデ、穿石、メシアもそれに倣い、みんな喜んで肉にかぶりつく。


「はい。それでは第二回反省会を行いたいと思います。拍手。」


 誰も拍手しない。優喜はこれで人徳が無い。


「お金の話から行きます。全体残額銀貨百九十一枚くらい。うち、Aが銀貨六十七枚、メシア二十二枚、穿石六十二枚、カエデ三十九枚です。面倒なので銅貨は省略です。蓄えはまだまだ全然足りません。雨などで仕事を休んだり、怪我や病気をして神殿で治療を受けたりしたら、すぐになくなってしまう額しかありません。」

「加藤と山口で治療魔法使えるだろ?」


 堀川幸一が言う。治療してもらった本人が忘れるはずもない。


「レベル一の治療魔法は、皮膚にできた軽い傷しか治せません。」

「どういうこと?」

「深い傷を治すには、高いレベルの治療魔法が必要ということです。今の私たちには無理です。」

「たしか、骨折とか内臓の傷だとレベル四くらいが必要って言ってたよ。」


 加藤聖が補足する。


「ということで、みなさん、くれぐれも怪我や病気にはご注意ください。」


 さすがに怪我をしたい人はいない。口々に同意の声が上がる。


「今後ですが、もう暫くはこの調子でお金を稼ぎたいと思います。で、近いうちにお金の使い道の方向性、優先順位を決めたいと思いますので、みなさん考えておいてください。で、ウサギ狩と魔法の練習以外に何か他にやりたいことがある人いますか?」

「他にってどんな?」


 村田楓が首を傾げて訊く。


「私は何にも思いつかないのですが、逆に、何でこれやらないの? って思っているようなことがあれば、言って欲しいなと。」


 手を挙げて森下幸之助が発言する。


「んっとさ、いつも結構高い金払って泊まってるじゃん? 家とか借りたら安く済ませられたりしないの?」


 おお! と声が上がるが、優喜の顔は暗い。


「家は借りれても、ベッドが無いですよ。毛布に包まって石の床に寝るのは、結構きつそうな気がしますが。みんなそれで良いって言うなら借家とか探してみますけど。」

「藁とか干し草を敷き詰めてとか……」

「それ、今の時期に売ってるのかな? だって、今春ですよ? あれって、普通に考えたら夏から秋に穫れる物ですよねえ。まあ、それも一応探してみましょうか。」

「なかなか上手くいかないね。」

「現実は厳しいのです。残念ながら。マンガや小説みたいにはいきませんよ……」


 がっかりしたような寺島理恵に、優喜は諦めを口にする。


「他に何かありますか? 無ければ今日はこれで終わりにしたいと思います。」


 反省会が終わると、みんな部屋に引き上げてベッドに潜り込んだ。



 連日のハードワークで体がきついようで、翌日は午前中は魔法の練習、午後から軽く二十二匹を狩って、さらに魔法の練習に励むことにした。少しずつだが、魔法陣を書ける者が増えてきている。

 さらに翌日は朝から全員で狩りをして、四十匹のウサギを仕留めていた。あと一匹で、一人一匹達成である。


 そして。

 その翌日は朝から雨が降っていた。

 宿の女将に聞いてみると、この辺りでは雨は長続きせず、普通なら半日もせず、長くても一日で止むという。相談するまでもなく全員一致で、外での活動内容はお休みにして、屋内で魔法の練習をすることになった。

 とはいっても、宿の中で攻撃魔法を放つ練習をするわけにもいかず、魔法陣を書く練習か、詠唱を覚えるくらいである。

 みんなが必死で詠唱を覚えようとしているのを見て、理恵はポツリと言う。


「詠唱ってさ、多少間違えても、噛んでも普通に魔法って使えるからあんまり頑張って覚えなくて良いんじゃないかな。」

「へ?」

「省略したりもするよね。」


 さらに茜が言う。


「あまり固定観念を抱かない方が良いですよ。魔法もそうですが、色々と。物理化学法則も違いそうだし。」


 優喜がさらっと言う。


「そうなの?」

「なんとなく似ている感じもするんですけどね。でも、植物は図鑑ですら見たことないものばかりだし、動物だって、角の生えた巨大ウサギとか、巨大なイタチとか、緑色のクマとか、もう何だそれって感じですよ。」

「似ているところもあるけれど、同じじゃない、か。」


 理恵が難しい顔をしながら言う。


「ちょっと違います。せいぜいが、似ている、なんです。同じではありません。マクロでは似ていても、ミクロで見ると全然違うかも知れませんよ。」

「さすが、理系は言うことが違うね。」


 優喜は学校の勉強はどの教科もできるが、以前より理屈っぽく、理系の方が得意らしい。中学のころから彼を知る工藤淳は理系だと信じて疑わないようだ。


「ただし、自然の法則は違っても、人間の作り出した理論は共通する。ということも重要です。」


 理解ができていなさそうな周囲の面々。


「数学は同じ、ってことですよ。十四進数ですけどね。それでも、方程式の形は変わらないですよ。二次方程式は二次方程式だし、図形問題や確率の問題も同じです。」


 みんな揃って嫌そうな顔をする。


「魔法とかあるファンタジーみたいなとこで数学の話? 勘弁してほしいなあ。魔法の話に戻そうよ。」


 理恵が愚痴を言う。


「魔法陣も、色々と興味深いですよ。」


 優喜は話を魔法に戻すと、魔法陣を幾つか並べる。


「これらが何の魔法か分かりますか?」


 優喜の質問に理恵が答えていく。


「火の弾丸、これは水、それと石飛礫。」

「どこを見てそう判断しました?」


 優喜の質問に、理恵は答えに窮する。


「もしかして、全部丸ごと覚えてます?」


 頷く理恵。


「こうして重ねてみると分かります。」


 そう言って並べた魔法陣を重ねる。


「ほら、同じ部分と違うところがあるでしょう? おそらくこの部分が『礫』を示すんですよ。」


 優喜が共通している部分を示しながら言う。


「属性と機能を繋げて中核にして、それをコントロールをする部分で囲んでいく。レベルの低い魔法は比較的単純なので分かりやすいです。色々な魔法陣を比べて見てみると良いですよ。」


 優喜の言葉に、みんなでノートを広げて魔法陣の確認をする。


 昼になっても雨は止まない。宿の食堂は、昼食はやっていないと言う。女将に聞くと、屋台は雨でもやってるから、買ってこいとのことだ。


「仕方ありませんねえ。折り畳み傘を持ってる人、買い出し行きますよ。」


 五人が傘を出すと優喜は魔法陣を書く。手をかざして詠唱すると頭上に光の盾が出現した。


「光の魔法?」

「そうですよ。どうにも強度が低いから戦闘には使えないですが、傘くらいにはなるでしょう。では、行きますよ。」


 今日の昼食は優喜の一存で、一人一個のパンと一本の串焼である。というか、傘を差しながら手に持って帰れる量がそれが精いっぱいだったのだが。


「今日は働いていないし、これだけです。もっと食べたい人は、自分で買ってください。」


 食べ終わると、魔法陣を書く練習をするよう言い残して、優喜は一人で出かけて行った。

 色々な店を回って、欲しいものの値段の調査である。

 手拭い一枚銀貨数枚、石鹸が一個で銀貨四枚ほど。銀貨七十枚程度で安い服なら上から下まで揃うようだ。剣や槍は金貨一枚を下回ることはない。ナイフは銀貨四十九枚程度からある。

 雑貨屋で聞いたところ、不動産は商業組合で取り扱っているとのことだ。賃貸も意外とあるらしく、5LKの一軒家で一ヶ月の家賃が金貨二枚半ということだ。一日あたりだと、銀貨八枚と百四十七枚。四人で済むと割に合わないが、五人以上であれば元が取れる。

 トイレがどうなっているのか聞くと、下水道に繋がっているらしい。そして、上水道は無く、井戸は外の共同の物を使用するのが通常だと言う。

 さらに、干し草や藁は何所で帰るかを聞くと、この時期に売っているわけないだろうと怒られた。

 ならばと、毛布を売っている店を聞いて、商業組合を後にする。

 さらにハンター組合に顔を出して、仕事を確認する。変わりばえの無い内容に落胆しつつ、珍しく遭った七級ハンターに挨拶をした。


 ウォブステアと名乗った新米ハンターはまだ十四歳だという。この辺りの国では十四歳で成人となり、正式に職に就ける。

 彼も一ヶ月ほど前にハンターになったばかりなのだそうだ。


「良かったら、一緒のパーティーでやりませんか?」


 ウォブステアは優喜を勧誘する。


「一応、大所帯のリーダーをやっていますからねえ。」


 優喜はそう言って断ると、ウォブステアは笑いだした。


「ああ、もしかしてあのボンボンパーティーですか?」


 ウォブステアはかなり失礼な言い方をする。


「たぶん、それですね。」


 優喜は腹を立てるでもなく、苦笑しながら言う。


「出来の悪いのもいますが、優秀な人もいるんですよ。」


 澄まして言う優喜を値踏みするように見ながらウォブステアは色々と聞いてくる。


「いつもどんな仕事をしてるの? 稼ぎは? 君はどんなことができるの?」

「薬草を採りに行く人もいますが、私は専らウサギ狩ですね。みんなで一日に四十くらい狩ってますよ。メンバーの殆どは魔導士です。みんな半人前ですが。」

「魔導士? どんな魔法を?」

「一番簡単なやつですよ。」


 言って優喜は魔法陣を並び立てる。

 騒つく周囲を余所に、優喜は短い詠唱をしてそのうちの一つを発動する。


「それのどこが簡単な魔法だよ! 光の盾って、そうそう使える奴はいねえぞ!」


 横から声が上がる。


「私のはできそこないですよ。」


 そう言って、優喜は光の盾を力いっぱい殴りつけると、盾は高い音を響かせてあっさりと砕け散った。


「役に立たねえ。」


 ウォブステアぽつりと言う。


「雨よけに使ったり、敵の動きを一瞬止めるくらいはできますよ。便利なものです。」


 何か周りのハンターたちが頭を抱えている。やはり傘代わりに使うのはオカシイのだ。


「美味しいお仕事もなさそうだし、私は今日は宿で魔法の練習でもしていますよ。」

「おう。もうちょっとマシな盾を出せるようになっておけよ!」


 ハンター組合から帰っていく優喜に、先輩達は励ましているんだか莫迦にしているんだかよく分からない言葉で見送った。

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