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パンツを脱ぎたまえ! 【パンツォヌゥゲ異世界物語】  作者: ゆむ
第一章 呼ばれていない救世主
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12 再出発

「誰か良い作戦はありますか?」


 歩きながら、碓氷優喜は念のために訊く。


「作戦とかじゃないけど、台車とかリヤカーみたいなのって無いのかな。ちょっと高くても、今後もやるなら有った方が良くない? 毎日あのウサギ担いで歩くのは正直キツイんだけど……」


 鈴木こだまの提案に、賛成の声が多数上がる。


「売ってるお店とか、組合に戻って聞いた方が早いのかな?」

「ほかに意見はありますか? なければ戻って聞きましょう。」


 これでもこのチームは話し合いが機能している。加藤聖以外に特に発言する者はおらず、来た道を引き返していくこととなった。



「あれ? どうしたの?」


『イナミネA』を追いかけていた楓が、引き返してきた彼らに遭遇して素っ頓狂な声を上げる。


「ちょっと組合で訊きたいことがあってね。」


 聖が答え、楓も一緒に引き返していく。


「そっちはどうしたのですか?」

「あ、えっと、私もウサギ狩に参加させてください。」


 突如頭を下げる。


「できればチームで動いてほしいのですが。あ、でもうち一人余裕あるんでしたっけ。チーム移籍します? それも組合に言わなきゃダメなのかな?」


 優喜が話していると、駿、雄介それにメシアの女子陣がやってくる。


「あれ?」

「どしたの?」

「ちょっと、纏まりがなさ過ぎじゃないですか?」


 驚いて顔を見合わせる面々に、優喜は呆れたように言う。


「俺たちもウサギ狩に入れてください。」

「……チーム編成しなおしますかね。」


 優喜は呟くように言うのだった。



「では、イナミネBのリーダーやる人いますか?」

「Bなんだ?」

「はい、村田さん。他に誰か立候補いますか?」

「え? 今のちが……」

「いないようなので、村田さんリーダーで。」


 優喜は強引に決めて歩き出す。


「別に良いじゃないですか。さっさと登録行きますよ。」


 楓はガックリと肩を落とし、その後に続く。


「すみません、チーム編成変えたいんですけど。」


 組合に入ると優喜が受付で申し出て、楓を引っ張る。


「あの、メシアを抜けて新しいチームを作りたいんですが。」

「なんだって?」


 楓の言葉に、司がやってくる。


「あなた達に愛想が尽きたそうです。」


 優喜がキッパリ言ってやる。


「ちょ…… どういうことだ? 話し合いを」

「するだけ無駄です。考えが合わない人をチームに入れて、それでどうするんです? 揉めるだけじゃないですかそんなの。何のために同じチームであろうとするのですか?」

「みんな仲良くやろうって言っているんだ。それの何が悪いんだ?」

「悪いに決まっているでしょう? 無理をして仲良くするよう要求しているんだから。」

「仲良くした方が良いに決まっているじゃないか!」

「いいえ、決まっていません。あなたの主張は間違っています。考えの合わない人は別々にやった方が上手く行くのです。それは既に立証されています。」

「いや、しかし、それは!」

「ほら、それですよ。何故、あなたは自分の主張を押し通そうとするのですか? 俺の言うことを百パーセント全部聞け。それがあなたの言う話し合いですか? そんなものするだけ無駄でしょう。決裂するだけです。」

「そんなことは言っていないし、そんなつもりも無い。」

「では、譲歩し、妥協してください。自分の意見を引っ込めてみてください。私の言う、無理して仲良くしないで別々にやった方が良い。これが正しいものとして話を進めてみてください。」


 なんという恐ろしい詭弁だ。たぶんこれ、本人も詭弁だと分かってやっている。


「何故黙るのです? 話し合いをするんじゃないのですか?」


 追い打ちをかける。もう、これで詰みだろう。


「そちらに話が無いならこれで終わりですね。チームを分けましょう。」


 司は不満げに睨むが、優喜は気にせずに話を進めていく。


「ということで、こちらの七人がメシアを抜けて新しいチームを作るということで。」


 受付の男に笑顔で言うと、新規パーティ用の申請用紙を受け取る。


「名前どうしよう?」


 用紙を受け取り、楓が訊く。


「ムラタで良いんじゃない?」

「いや、それは勘弁して。」

「じゃあ、カエデで。」

「うむぅ。他になんかない?」

「Bで。」

「カエデで良いです……」


 中島翔子の発案で『カエデ』に決まり、楓が必要事項を記入していく。

 用紙と全員のプレートを提出し、一分ほどで手続きが完了する。


「では行きましょうか。って、そうじゃない。」


 優喜は自分で言って、自分でツッコむ。


「あの、すみません、ちょっと聞きたいんですけど。荷物いっぱい載せて運ぶやつ、あれ、何所で売っているんでしょうか?」


 優喜は紙に書いて説明する。こちらの言葉で何と言えば通じるのかが分からないようだ。


「ああ、人力の荷車ですか。それならカトゥムルス木工のが安心ですね。ええと、場所は、屋台広場から西に行って……」


 店の名前と道をメモすると、優喜たちは礼をして組合を出て行く。司たちは遣り切れない表情でそれをただ見ていた。


 カトゥムルス木工への道順はメモするほどのこともなかった。大きく看板が出ておりかなり目立つのだ。

 優喜が中に入ってみると、誰もいない。カウンターの上にノッカーのような物が有るので、優喜はそれを叩いてみる。


「はーい。」


 奥から少年が出てきた。


「人力の荷車が欲しいのですが、幾らくらいになるのでしょうか?」

「ええと、大きさはどれくらいのですか?」

「ウサギが何匹か、じゃ分からないか。七匹載るくらい。」

「それなら一番小さなタイプで良いですね。銀貨七十枚です。」

「手持ちのお金が無いのですが、物で支払うことはできないですか? 具体的に言うとこの紙です! この紙で荷車一つ売ってください!」

「あの、ちょっと待ってください。親方ぁぁ!」


 優喜のいきなりの要求に、少年は困惑した表情で奥に消えて行った。


「あ? 紙で払うだって?」


 髪を短く刈り込んだ四十過ぎくらいの男が姿を見せるなり言った。


「はい。この紙九十八枚で、一番小さいタイプの荷車を二台作って頂けませんか?」


 何か増えてる。親方は紙を受け取って眺めながらニヤリと笑って言った。


「確かに上等なもんのようだし、百九十六枚なら良いぞ。」

「分かりました。それでお願いします。で、荷車はいつできますか?」


 優喜はあっさり笑顔で即決した。


「な、い、良いのか?」


 親方は紙と優喜を見比べながら言う。


「はい、構いません。今更ダメって言わないですよね?」

「……分かった。一番小さいタイプの荷車を二つだな? それくらいなら昼くらいには出来る。」

「お代は先ですか?」

「ああ、先に頼む。」


 完全に押し切った優喜は、紙を十四枚ずつ数えてテーブルの上に重ねていく。


「これでお願いします。お昼くらいにまた来ます。」



『イナミネA』と『カエデ』は合同で、町の西の畑でウサギを探す。今日は昨日よりも人数が増えた分だけ町寄りに探索範囲を拡げている。

 そして、意外にも昨日狩ったあたりで、新たな足跡と糞が見つかっていた。


「ここらのウサギって、どんだけいるんだよ。」

「そういえば、殖えすぎって言ってたよね。」

「俺たちは助かるけど、農家の人は大変だな。」


 駿と雄介が喋りながらあぜ道を回り込んでいく。


「おらー! ウサギ―! 出てこいや―!」


 優喜の合図で叫びながら足を踏み鳴らす追い込み部隊。驚いたウサギが優喜達の待ち受ける方へと飛び出して、突如開いた穴に落ちる。優喜の放った土魔法だ。

 直前で止まったウサギに野村 千鶴(ちづる)が放った水の槍が直撃し、さらに後ろのウサギには茜が放った水の弾が襲い掛かる。

 穴に落ちた三匹のウサギに投石と魔法で止めを刺し、穴を元に戻すと全員がウサギから目を背けて溜息を吐く。


「一匹に四人ずつで行きますよ。背の高い人、二人が後ろ足の方を。で、後ろ向きに足を持って担ぎ上げます。そしたら、残り二人が前足を持ってこう、自分の肩の上に。」


 優喜の指示で、四人チームを組んでウサギを担ぐと町に向かって歩き出す。


「これくらいなら何とかなるかな。」

「ああ、よく昨日一人で持って帰ったよなこれ。」

「これ、納品したらご飯だよね?」

「私たち昨日はお昼も屋台だったから、今日はゆっくり座って食べたいな。」


 みんな余裕があるようで、雑談を口にしながら歩いていく。

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