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初めての嫁ができる章

※最初に投稿した小説が長かったので分割したものです。

鮑員外ほういんがいが手を叩くと、ドアを開け、一人の少女が部屋に入ってきた。

「お呼びでしょうか、父上」

「関索様、これが娘の鮑三娘ほうさんじょうです。お気に召しますでしょうか。関索様の妻にしていただければ光栄にございます」

「ですから父上、私は私に勝った男としか結婚しないと常々申して……あっ!」

 その少女と顔を合わせて驚いた。

「お前、さっき山の中にいた軟弱者!」

「お前こそ、さっき俺を山に置いてけぼりにした変な女!」

「変な女とはなんだ! 山賊から助けてやったではないか」

「そりゃそうだったけど、最後に一人残して勝負とかいらないから!」

 俺達が互いに混乱していると、

「おやおや、二人はどこかであったことがあるのかな? お互いをよく知っているようだ。結婚するのにこれほどいいことはない。」

「関索、美しい人と結婚できて良かったですね。母はうれしいですよ。関羽様もきっとお喜びになるでしょう」

 鮑員外ほういんがいも母上も微笑ましく俺達を見ながら言った。何言ってんだこいつら。お前らには俺達が仲睦まじい二人に見えるのか。

 鮑三娘ほうさんじょうは「結婚」という言葉を聞いて更に声を大きくする。

「父上、何を言っておられるのです! 私はこのような軟弱者の妻になどなりませぬ! 私は私に勝った男としか結婚しないと申しているではございませぬか!」

「だまらっしゃい! 申し訳ありません関索様。このバカ娘は器量はいいのですが、このような事ばかり言っていて、親としてもほとほと手を焼いているのです。今まで何人もの、名家の貴族や武人が娘に結婚を申し込んできたのですが、この調子で求婚してきた男に勝負を挑み、片っ端からぶちのめして、負けたことがありませぬ。つい1週間前に50連勝の大記録を達成したところでございます。しかしこの子もちょうど今年で17才。いい加減よい夫を見つけないと行き遅れて一生独り身なのかと私も心配していたところでした」

 おいオッサン。その話、婚期を逃しそうな美人だけど超おてんばな娘を俺に押し付けようとしているだけに聞こえるんだが。

「調子のいい事をおっしゃっているが、私には父上の下心がわかりますぞ。あの関羽様のご子息と私が結婚すれば、父上は関羽様の一族に名を連ねることになりましょう。関羽様の一族となれば、皆が父上に一目置き、商売が有利になるだけでなく、一国の領主にすらなれる可能性もある。まさしく政略結婚ではありませぬか! 私はそのような結婚など絶対にしませぬ!」

「バ、バカ! 何をいうか! そのような下心など、ち、父にある訳がなかろう!」

 下心アリアリじゃねえか。オッサン動揺しすぎだろう。

「おいお前ら。勝手に盛り上がってんじゃねえ」

 俺は完全に蚊帳の外にされていたが、二人の親子げんかに割って入る。

「なんだ軟弱者」

 じろりと鮑三娘ほうさんじょうが俺を見る。

「オッサンに下心があろうが何だっていいんだよ。この時代の結婚がそういう意味を持つってのは知ってるし、鮑三娘ほうさんじょうが政略結婚なんて冗談じゃないって気持ちもよくわかる。でもな、俺が気に食わねえのは話が俺抜きで進みまくってるってことだ。いいか、俺にだって結婚する相手を選ぶ権利ってもんがあるんだよ。こんなはねっ返り娘と結婚なんぞまっぴらゴメンだ。けどな、鮑三娘ほうさんじょう。お前さっきから人の事を軟弱者軟弱者ってバカにしやがって。そんなもんやってみなければわかんねえだろうが。俺にだって男の意地ってもんがあんだよ。勝負だ鮑三娘ほうさんじょう。俺がお前よりも強いってことを証明してやる」

「ほう、言うじゃないか。証明して見せろ、軟弱者」

「また軟弱者って言いやがった! いい度胸だ。表へ出ろ!」

 鮑三娘ほうさんじょうと俺は木剣を持って庭に出た。母上と胡金定こきんていも少し離れたところから俺達を心配そうに見つめている。

「準備は良いか、関索殿」

「いつでもいいぜ。かかってきな」

「いざ、勝負!」

 鮑三娘ほうさんじょうの声がビリビリと大気を震わせる。すごい気合だ。鮑三娘ほうさんじょうが木剣を上段に構える。俺も体の動くまま、木剣を中段に構えるが、攻め込もうにも隙がない。うかつに飛び込んだら斬られると肉体が言っている。

「どうした? 来ないのか?」

 鮑三娘ほうさんじょうは不敵に笑う。

「そう焦るなよ。まだ始まったばかりだろ?」

 軽口を返すが、手にはじっとりと汗が滲んでいた。鮑三娘ほうさんじょうの放つ圧力に押しつぶされそうになる。が、俺だって勝算なくこの勝負を挑んだわけじゃない。もし俺の仮説が正しく、今の俺の肉体が関索のものであれば、母上のいうように10年もの間武術の修業を積んでいることになる。今の俺はかなり強いはずだ。だから1対1での鮑三娘ほうさんじょうとの勝負であればきっと勝てるはず。そう踏んで勝負を挑んだ。もし俺の仮説が間違っていたとしたら、無様に負けるしかない。

「来ないのならこちらから行くぞッ!」

 鮑三娘ほうさんじょうが一気に距離を詰め、木剣を振り下ろす。およそ女とは思えぬ速さだ。

「危っ!」

 下がっては鮑三娘ほうさんじょうの思うつぼだ。逆に懐に飛び込みながら、その一撃をどうにか木剣で受け止め、つばぜり合いになる。

「よくぞ我が一撃を受け止めた! 褒めてやるぞ!」

「そりゃどうも! 今度はこっちからいくぞ!」

 つばぜり合いの力比べなら体重の勝るこちらが有利だ。木剣を下から突き上げるようにして押し付け、木剣を振るうための腕の空間を与えない。たまらず鮑三娘ほうさんじょうが後ろに引いた。

「ここだ!」

 鮑三娘ほうさんじょうの足が地面を離れたその瞬間を逃さない。俺も引きながら頭に木剣を打ち込む。しかし鮑三娘ほうさんじょうは俺の渾身の引きうちを地面を転がって避けた。鮑三娘ほうさんじょうはその勢いのまま俺の右足を蹴り払い、俺も地面に転がる。

「食らえ!」

 鮑三娘ほうさんじょうは地面に膝をついた体制のまま突きを繰り出す。

「うおっ!」

 間一髪。俺は体をのけぞらせてこれを躱す。しかし、体制を崩された。まずい、距離をとらねば。庭の土を掴み、鮑三娘ほうさんじょうの目を狙って投げつける。鮑三娘ほうさんじょうはこれを片方の手で防ぐ。

 今のうちだ。鮑三娘ほうさんじょうが木剣を構える前に、急いで起き上がって距離をとり、中段に構えた。鮑三娘ほうさんじょうも袖に次いだ土を払い、再び上段に構える。

鮑三娘ほうさんじょう、ナカナカやるな」

「関索殿もな。キレイな型だけの武術ではない。戦場で生き残るための、泥臭いが実践的な武術だ」

 仕切り直しだ。さっきは危なかった。だがさっきの戦いの中で確信した。この肉体は俺の肉体ではない。関索の肉体だ。もし俺の肉体だったなら、最初の一撃を受けることすらできずにやられていただろう。だが計算外が一つ。この女、強い。関索の肉体をもってしても楽に勝てる相手ではない。求婚者に50連勝はまんざら嘘でもないらしい。

 木剣の切っ先を揺らし、相手を牽制しながらリズムをとる。タイミングを見計らい、鮑三娘ほうさんじょうの喉元をめがけて突く。鮑三娘ほうさんじょうは反応し身をひねって躱しながら剣を振り下ろす。

 かかった。この突きはフェイントだ。重心はしっかり残してある。振り下ろされた木剣を受けると木剣同士がぶつかり合う乾いた音が響く。右手を木剣から離し、鮑三娘ほうさんじょうの顔に向けてパンチを放つ。このタイミング、絶対に避けられないはずだ。が、鮑三娘ほうさんじょうはパンチを避けず、逆に頭突きを放って、俺のパンチを額で受けた。これではダメージは通らない。何て女だ。この一瞬でここまで反応するか。

拳の痛みにパンチを引くと、鮑三娘ほうさんじょうは俺の下腹部めがけて前蹴りを放つ。俺はそれを膝を上げてガードし、後ろに下がった。鮑三娘ほうさんじょうも蹴り反動で俺から距離をとる。

 再度仕切り直し。剣を構える。しかし、どう攻めたものか。パワーは俺が上だが、スピードは鮑三娘ほうさんじょうが上だ。それに、攻撃への反応速度が尋常ではない。勝つにはどうしたらいい。一か八か、あの手を使ってみるか。

「関索殿、謝っておこう。軟弱者などと言って悪かった。お主は立派な武人だ。私と戦ってここまで渡り合ったのは関索殿が初めてだ」

「ああ、ありがとさん。お前もマジで強えよ。だが、そろそろきめさせてもらうぜ」

 木剣を構えた俺達の間の空気に、今にも破裂せんばかりの緊張が走る。お互い、構えたまま動かない。いや、動けない。下手に動こうものなら、その瞬間に勝負が決まる。どれだけの時間そうしていたのだろう。

 俺は不意に中段に構えた剣を下ろし、「あれ?」と、鮑三娘ほうさんじょうの後ろに視線を送った。

「どうした?」

 鮑三娘ほうさんじょうもつられて後ろを見る。が、何もない。

「何もないではないか」

 そう言って顔を戻した鮑三娘ほうさんじょうの眼前には俺の木剣が突きつけられていた。

「俺の勝ちってことでいいよね」

「貴様……!だまし討ちとは卑怯だぞ!」

「卑怯じゃねえよ。真剣勝負の最中、不意に視線をそらして相手の油断を誘う。ボクシングのフェイントテクニックの一つだ。この時代で言えば兵法ってやつだな。」

「しかし、このような……!」

「真正面からぶつかるだけが勝負じゃないんだよ。地形、心理、環境、科学。ありとあらゆるものを利用して戦うのが勝負だ。特に、この時代に行われる勝負はな。で、もう一度聞く。この状況、俺の勝ちでいいよね?」

「ぐっ……! この私が負けたというのか……?」

「これでわかったか。いいか、俺は軟弱者なんかじゃあない。さっきの山じゃいきなりあんな状況だったからカッコ悪いとこを見せちまったが、本気をだせばこんなもんよ!」

「わかった。私も武人だ。認めよう。私の負けだ」

「お? 意外と潔いじゃん! さて、気分もスッキリしたところで、部屋に戻って汗を拭こう。一勝負したら体が汗だくだ」

「はい、関索様……」

 鮑三娘ほうさんじょうは頬を赤らめて言った。

「いきなりしおらしくなったなオイ。一回負けたぐらいでそんなにへこむなよ。「様」付けとかしなくていいって。実際、セコイ手を使ったのは認めるしね」

「そういうわけにはいきません。私はもう、関索様の妻なのですから」

「……? はい? よく聞こえなかった。もう一回言って?」

「はい、申し上げます。私は関索様の妻なのですから」

「イヤイヤイヤイヤ。ないないない。いや、今の勝負はそういうのナシの勝負だから」

 俺は全力で首と手を横に振る。この娘何言ってんの?

「申し上げたはずです。私は、私に勝った者の妻になると。そして、関索様は私との勝負に勝ちました。つまり、私が勝負に負けた瞬間から私は関索様の妻となったのでございます」

「俺、全然そんなつもりなかったんだけど。お前にバカにされてムカついたから勝負しただけで……」

「私は、関索様の妻として、ふさわしい女ではございませぬか」

 鮑三娘ほうさんじょうは今にも泣きだしそうな顔をしている、

「いやだからそういう訳じゃ――」

「関索ッ‼」

 後ろから大声が響いた。ビクッとして振り返ると、母上が鬼の形相で俺をにらんでいる。

「お前は女の子に恥をかかせるつもりですかッ! 母はお前をそんな風に育てたつもりはありませんよ! 私も鮑三娘ほうさんじょう殿の言葉ははっきりと聞きました。一度吐いた言葉を違えるのは義に背くことになります。お前も男ならきっちりと責任を取りなさい!」

「いいんです、お義母様。私のようなじゃじゃ馬は関索様の妻となるには不釣合いでございます」

「そんなことはありません! あなたのような強く、美しい人を妻にもらえて関索は幸せ者ですよ!」

 母上はよよと泣き崩れ落ちる鮑三娘ほうさんじょうを抱きかかえ、必死に慰めている。おい鮑三娘ほうさんじょう。どさくさ紛れにお義母様とか言ってんじゃねえ。ていうか何なんだこの状況は。そういえば俺の本当の親父が昔、夫婦喧嘩をした時遠い目をして言ってたっけ。「いいかい、索人。嫁と姑が同盟を結んだら、夫はもう抵抗できないんだ。言いなりになるしかないんだ」って。あの時はよくわからなかったけど、父ちゃんが教えてくれたのはこういうことだったんだね。

「ああもうわかったから! 俺も鮑三娘ほうさんじょうちゃんみたいなカワイイ嫁さん欲しいと思っていたとこなの! 鮑三娘ほうさんじょうちゃん、ぜひ俺と結婚してほしい!」

「それは、本当でございますか」

「もちろん本当さ! 俺は毎朝鮑三娘ほうさんじょうちゃんが作ったお味噌汁が飲みたいなあ!」

「お味噌汁というのはよくわかりませぬが、鮑三娘ほうさんじょうはうれしゅうございます。関索様、ふつつか者でございますが、妻として、末永くよろしくお願い申し上げます」

 そういうと鮑三娘ほうさんじょうは深々と頭を下げた。

「それでこそ男です関索! 素敵な方と結婚できてよかったですね」

「ありがとうございます関索様、胡金定こきんてい様。今夜は二人の結婚を祝して宴ですな!」

 母上と鮑員外ほういんがいは大喜びだ。

 こうなってしまっては腹をくくるしかない。外堀は全て埋められた。鮑三娘ほうさんじょうの夫となるしかない。まあ、こいつも黙ってれば美人だし、いいとするか。

三国志の関羽の息子に転生したら、嫁ができた。


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