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三国志の世界に転生した章

 その武将の名前を図書館の資料で見つけた時は衝撃だった。何せ中国の漢王朝末期、いわゆる三国志の時代の武将なのにほとんど俺と一緒の名前であったからだ。「関索かんさく」。言わずと知れた蜀の名将、関羽の息子の一人である。

 俺の名は「せき 索人さくと」。だから一文字抜けば全く同じ名になる。不思議な偶然もあるものだが、歴史マニアの俺としてはうれしい発見だ。歴史は良い。実在した英雄達が戦場を駆け、戦術、兵法、権謀、蛮勇、己の持つ全てをもって帝国の運命を決する。これほど魅力的な物語が他にあろうか。通っている高校では歴史部に所属し、放課後は同じ歴史ジャンキーの友人らと共に戦のシミュレーションに明け暮れる毎日だ。今週のテーマは「三国志演義において蜀が天下統一するためのシミュレーション」だ。

 だが俺の専門は古代ローマ史であり、三国志はそれほど詳しくない。もちろん、三国志の漫画やゲームくらいは触れたことはあるが、きちんとした勉強はしたことがない。そんな訳で今日は俺の住んでいる県で一番大きな図書館にきて、三国志関係の資料を読み漁っている時に、「関索」という武将を見つけたのだ。

 しかし、すぐに落胆することになる。資料によれば、関索はどの文献にも名前が見当たらず、後世の人間によって創作された架空の人物だというのだ。

「せっかく俺とそっくりな名前の武将がいたっていうのに、架空の人なんてがっかりだな」

 そう思い、ため息をついた。すると、

「無念だ。この命、名を残すことなく、こんなところで終わろうとは……」

 男の声が響いた。

 驚いて周りを見渡すが、部屋にいるのは俺一人。あとは司書のおばちゃんが居眠りをしているだけだ。

 確かに声がしたはずだ。若い男の声だった。

 不思議に思いながらも資料に目を戻すと、急に眠気が襲ってきた。瞼が勝手に閉じてゆく。昨日はしっかり眠ったはずなのに、なんでだろう。そう思いながら、俺の意識は深い深い眠りの底に落ちていった。




「あれ?」

 目を覚ますと。広い花畑が広がっていた。色とりどりの花が咲き乱れ、チュンチュンと小鳥の声が聞こえる。近くを流れる小川には透明な水がさらさらと心地よい音を立てながら流れている。桃源郷とはきっとこういう場所を言うのだろう。

 しかし、そんなことよりも目下の問題がある。

「ここどこよ?」

 思わず声が漏れる。

 さっきまで俺は図書館で三国志の資料を読んでいたはずだ。なんでこんなところで寝てた?俺の住む街にはこんな公園はなかったはずだ。

とりあえず起き上がろうと思いもう一度驚く。和服のような服を着ている。学校帰りに図書館に立ち寄ったから、高校の制服を着ていたはずなのに。鮮やかな緑色のゆったりとした和服に金の刺繍の入った赤い帯。いや、これは和服ではない。古代中国の着物、「漢服」だ。なぜ俺はこんな服を着てこんな場所にいる?

「おいおい、マジでここはどこなんだよ。夢遊病か何かで変なとこ来ちゃったか? それともこれが神隠しってヤツか?」

 冗談交じりでつぶやいたが流石に不安になる。とりあえず今いる場所を確認しなければ。スマホを取り出して地図アプリを起動する。が、

「圏外⁉ それどころか電波すら入らねーじゃねーか」

 スマートフォンの画面には無情にも圏外とだけ表示され、GPSでの場所確認どころか、電話で助けを呼ぶことすらできなかった。

 事の深刻さをじわじわと実感してきた。不安で心臓の鼓動が早くなっているのがわかる。落ち着け。一回、深呼吸しろ。4秒間かけて息を吸い、ゆっくりと吐く。それを何回か繰り返した。

「よし、落ち着いたよな、俺。冷静になれたよな、俺」

言い聞かせるように呟く。こういう時、どうすればいいか。山で遭難した時は、そこから動かないほうがいいと聞いたことがある。でも図書館で居眠りしてて、起きたら山の中にいた時はどうすればいいんだ?

 とりあえず花畑の周辺を歩いてみた。が、花畑の向こうには森が広がっているだけで、周辺にはコンビニどころか民家の一つすらない。どこかに道路はないかと耳を澄ませても自動車のエンジン音すらしない。どこかもわからない山の中、この静かな花畑にたった一人で取り残されているというのが今俺が置かれた状況だ。考えれば考えるほどわけがわからない。

「どーなってんだよ!」

 どうしようもなくなり、天を仰ぎ、大声で叫んだ。

「おい、声がしたぞ。誰かいるみたいだ」

 森の向こうから男の低いしゃがれた声が聞こえてきた。

 人だ! 人がいる!

 助かった。これでなんとか家に帰れる。

「おーい! 助けてくれ! 遭難しちゃったんだ! おーい!」

 声のする方向に必死で助けを求める。

 助かった。家に帰ったら、まずは温かいコーヒーを飲もう。それからソファーに寝ころび、昨日冷蔵庫に入れておいたコーヒーゼリーを食べて、録画しておいた戦国大河ドラマをゆっくりと見よう。

そんなことを思っていると、森の中から声の主達が現れた。

 が、様子がおかしい。

 現れたのは3人組の男たちだった。全員汚いボロボロの浴衣のような服を身にまとっていて、手には刀が握られている。どうみても普通の恰好ではない。近くで時代劇の撮影でもやっているのだろうか。一瞬気圧されてしまったが、とりあえずこの人達に帰り道を教えてもらわなければならない。

「助かりました、ありがとうございます。ここがどこかわからなくって困っていたんです。みなさんが来てくれなければどうなっていたことか」

 そういうと、3人組は一瞬キョトンとした顔をしてお互いに顔を見合わせた後、

「ギャハハハハハ!」

 と、汚い声で大きく笑った。

 俺がわけもわからず呆然としていると、ようやく笑いが収まった3人が口を開いた。

「俺達を見て「助かりました、ありがとう」なんて言った奴はお前が初めてだ!」

「違えねえ。大概の奴は「命だけは助けて下さい」って命乞いを始めるのによ」

「おめえには俺達が一体何に見えてるんだ?」

 とりあえずひとしきり悩むが、ばっちりはまる答えはでない。

「ええと、救助に来てくれたレスキューの人……?」

「レスキュー? なんだそりゃ。どう見たって俺達は山賊だろうが!」

 山賊? 山賊だって? 平成の日本に山賊なんているわけないだろう。海賊ならソマリア海峡あたりにいると聞いたことがある。

 ああそっか。たしか今週はハロウィン。ということは、そういうコスプレの人たちか。すっかり山賊になりきっちゃっているな。だけどこっちはマジに遭難しているんだ。早いとこわかる道まで案内してもらわないと。

「悪いけど俺、ホントに困ってるんだ。山賊ごっこもいいけど、助け――」

 言い終える前に、俺の頬の真横を勢いよく刀が通り過ぎていく。

「へ?」

「山賊「ごっこ」だって? 兄ちゃん。ふざけるのもいい加減にしないと大変なことになるぜ」

 頬に冷たいものが流れた。汗か。違う。血だ。頬を刀がかすめたのだ。俺が小道具だと思っていた刀は、本物だった。山賊を名乗る男の一人が俺の頬に刀を突きつけて言った。

「おめえ俺達をなめてんのか」

「いえ、全然なめてなんかいません。ハイ!」

「俺達が「ごっこ」じゃないことがわかったか?」

「はい、わかりました!」

「よし、わかったんなら金目のもん全部出せ。それに高そうな着物着てるじゃねえか。それも全部脱げ。売りゃあ結構な金になりそうだ」

「はい、脱ぎます! 脱がせていただきます!」

 刀を突き付けられたままで、来ている着物を全部脱ぎ、真っ裸になって両手を上げて抵抗の意志がないことを示す。刀を突き付けた山賊は俺が指輪や宝石を隠し持っていないか確認して言った。

「よし、それでいい。せっかくの着物だ。血がついちゃ売り物にならねえからな。」

「え? それ、どういう……」

「どうもこうもねえ。山賊に襲われて生きて帰れるとでも思ってたのかよ」

「ちょっと待って! 殺さないで頼むから! なにも殺さなくも!」

「お前本当にバカだな。お前を生きて返したら俺達の居場所が役人に知られちまうだろうが。獲物は殺すに限るってな」

 別の山賊が呆れたように言う。

「そういう訳だ。恨むんなら俺達に見つかって大喜びしてた自分の間抜けさを恨むんだな」

山賊たちは楽しそうに下卑た大声で笑った。

 俺、本当に殺されるのか。こんなわけのわからない状況で。込み上げてきた涙で視界がぼやけた瞬間、

「そうだな。恨むのなら後ろを取られても気付かない自分の間抜けさだな」

 少女の声がした。

「な……!」

 一刀両断。山賊が後ろを振り向くと同時に白刃が山賊の体を切り裂く。俺に刀を突き付けていた山賊は袈裟懸けに切られ、真っ二つになり地面に倒れた。

「所詮山賊、この程度か。準備運動にすらならん」

 呆然と立ち尽くす俺の前で、白刃の主が不満げに剣に付いた血を振り払うと、長く黒髪のポニーテールが揺れた。女の子だ。年齢は俺と同じ位、17、8才ほどだろうか。すらりとした長身に切れ長の目。美しい少女だが、身に纏った男物の漢服の上に胸当てと小手を着け、女武者といった出で立ちだ。

「てめえ、何モンだ! 殺されてえのか!」

 一人の山賊が激昂するが、少女は全く意に介さないように山賊を見据えて言った。

「殺されたのはそちらのはずだが」

「なんだと!」

「それに私の名はお前たちに名乗るほど安い名ではない。むぅ、だがやはり嫌なものか」

「あぁ?」

「自分を殺す人間の名前も知らずに死んでいくのは」

「何だとテメエ。ナメた事ぬかしてんじゃねえぞ!」

「教えておいてやる。我が名は鮑三娘ほうさんじょう。これで安心して地獄へ行けるな」

「ぶっ殺してやるクソ女ァ!」

「遅い」

山賊が刀を振りかぶった時には鮑三娘ほうさんじょうと名乗った少女はすでに剣を真一文字に振り終えていた。山賊の体からゴトリ、と首が落ちた。

「ああああ! テメエ、よくも二人を!」

 最期に一人残された山賊が半狂乱で叫ぶ。

「そう騒ぐな。安心しろ。お前を殺すのは私じゃない」

「ああ⁉」

「おいお前」

 鮑三娘ほうさんじょうは俺の方を向いて言った。

「へ? 俺?」

「そうだお前だ。ボーっとしてるんじゃあない。ほれ」

 鮑三娘ほうさんじょうは持っている剣を俺に投げ渡した。

 慌てて受け取るが、その重さによろめく。剣とはつまり金属の塊だ。重いと聞いてはいたが、聞くのと実際持つのとは大違いだ。それを見て鮑三娘ほうさんじょうは「うむ」と満足そうにうなずく。

「これでようやく対等だな」

「いや、君、俺を助けてくれたんじゃないの?」

「助けてやったではないか。丸腰のお前一人に武器を持った山賊3人。これではとても対等の勝負とは言えぬ。だから1対1になるように頭数を減らし、同じように武器をもたせてやった」

「一回ちょっと待って」

「なんだ?」

「もしかしてコレ、俺が自分で戦う流れなの?」

「当たり前だろう」

「無理無理無理。戦ったことなんてないから。俺、剣持ったの今日が初めてなんだよ? 体育の成績だっていつも2だっつーの! 自慢じゃないがハンドボール投げ7メートルしか飛ばないもやし野郎が俺なの! こんな強そうな山賊に勝てるわけないじゃん! 殺されるから! そりゃもう鮮やかに殺されるから!」

「泣き言言うんじゃない。こんな時代だ。その様じゃ今日を生き延びたとして遠くないうちに死ぬ。それに見ろ」

「何をよ」

「あちらさんは随分とやる気だぞ」

「え?」

 見ると、目を血走らせた盗賊が刀を抜いてブンブンと素振りをしている。

「おい女! 本当にこいつに勝ったら俺は見逃してくれるんだろうな」

「ああ。約束する」

「よし。これで安心してこいつをぶっ殺せるぜ。この女には勝てそうにないが、こいつなら簡単にぶっ殺せそうだ」

「では二人とも、準備はよいな。これより勝負を始める!」

はじまりの第一章です。現在続きも書いておりますので、感想、批評をお待ちしております!

※追記 長いようでしたので章を分けました。おもしろく、読みやすくを心がけ、精進したいです。

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