第101話 屋敷 1
「ギーラ 良いですか? ここからは私達だけで歩いて行きましょう」
ローズメルファが初めの頃より大きく綺麗に雪化粧が見えるカラールン山脈を背景にした廃墟の村を見ながら話す
「んっ どうして?」
ギーラはローズメルファを見て聞く
「念の為と言いますか 馬車屋のお兄さんはもうここで町に引き返して貰った方が何となくなのですが良い様に思えますから」
「ふ~ん 分かった それじゃあここで馬車を止めてもらって俺達降ろしてもらって町に引き返すように言うね」
「はい そうして下さい ギーラ」
「馬車屋さん 俺達ここで降りるんで馬車を止めてもらえますか?」
ギーラは馬と客車を連結させている部分の小さな小窓を開けて顔だけ出して御者台に座る馬車屋の従業員に言う
「あっ はいっ 分かりました」
馬車屋の従業員はギーラの声を聞くと馬達のスピードを落としてしばらくして完全に馬車が止まる
「うん ここまでで大丈夫なので また迎えに来て下さいね」
ギーラは客車から降りて馬車屋の従業員の横まで歩いて言って話す その間に他の相棒達が荷物を降ろして準備をする
「分かりました それではまた来ますね お怪我など無いように気を付けて下さいね」
馬車屋の従業員はそう言うとギーラ達の荷物を降ろした事を確認して身軽になった馬車で進んで来た道を颯爽に戻って行った シルキャドは馬達が見えなくなるまで両手をブンブン振って見送っていた
「ローズメルファ どうしてここで降りたの?」
ギーラは自分の荷物を背負い装備などを確認しながら聞く
「えええ 私の勘なのですが この先は空気が変わっていて馬車屋のお兄さんではこの先に進むのは少しだけ危険だと思いましたから」
ローズメルファはギーラを見ながら話す
「なるほど そうなのね 女の勘かな~ それじゃあトラとオトギ何か臭いで分かる?」
ギーラはローズメルファの言葉に何となく頷いてトラとオトギに聞く
「ウン ムラノナカ トクニ ナニモ ニオワナイ」
「ハイ チノニオイモ フルイ アタラシイ ナイ」
トラとオトギは2人共問題無しとギーラに言う
「分かった ありがとう トラ オトギ」
「ニャ それじゃあニャ そろそろ行くのかニャ ギーラ?」
シルキャドは馬の見送りも終わってギーラの横に来ていて聞く
「うん そうしよう 一応みんな分かってると思うけど警戒だけは忘れないでね それじゃあ行こう」
ギーラがそう言うと先頭にトラとオトギが並んで歩きその後ろをギーラとシルキャドが続いて最後尾にローズメルファが歩くフォーメーションで荒れた道を警戒しながら進んで行く しばらく進むと廃墟になる前は門だと思われるボロボロな木製の入り口を通り村の中に足をギーラ達は踏み入れる 村の中はとても狭く入り口の所から村全体が分かるぐらいの広さで数えるほどしかない木製の建物や村を囲っていた柵あらゆる物が破壊されて腐り昔の原型を留めておらず人や生き物の気配は何も感じない だがギーラ達は廃墟で殆んどの物は壊れ腐り朽ち果てているが村の真ん中の場所で建てられている一つだけ何の被害も受けておらず周囲の惨状とは真逆で大きな3階建ての屋敷に目を奪われる
「あれが今回の依頼の誰も戻って来ない屋敷やね」
ギーラは違和感がありすぎる事を感じながら言う
「あらあら 凄く分かりやすいのですわね 危険でワクワクな予感が止まりませんわ うふふ」
ローズメルファもテンションが上がり屋敷を見ながら話す
「ニャ あの屋敷はニャ どう見ても怪しいニャ 怪しすぎるニャ」
シルキャドも警戒しながら屋敷を見ている トラとオトギは両腕に装備している武器を胸の前で交差させて両足を少し大きく広げて何がおきても対処できる体勢で身構えている
「あの屋敷を調べる前にまず村の中の他の建物を調べよう」
ギーラはそう言い屋敷を警戒しながら他の場所を調べる 屋敷以外の場所は先に来た冒険者達が漁ったのかモンスターが好き勝手したのか分からないが持ち帰れる物は何も無く他の建物の内部も外から見ていた想像通りで壊れ腐り朽ち果てていた
「屋敷以外は調べたけど ただの時間が経って何も残っていない他の廃墟と変わらないね」
「そうですわね 後はあの屋敷を調べるだけですわ」
「ニャ どうするニャ 屋敷に入る時はニャ 扉をコンコンとニャ ノックしてみるかニャ?」
「う~ん 扉をノックするのはどうかなシルキャド 他の建物を調べていた時に屋敷の方も見ていたけど入り口はあそこの正面の一つで 他の入り口は見つけて無いからね 屋敷の中に入るならあの扉からになるね」
「そうですわね とりあえず屋敷の扉の前まで行きましょうか?」
「うん そうしよう」
ギーラが頷いて答えてから村の中央に立っている大きな屋敷の前にギーラ達は移動する 屋敷を正面から改めて見ると扉の前には5段ぐらいの扉に続く階段があり屋敷は横に広がり大きな窓や小さな窓はいくつか発見するがカーテンで塞がれており中の状況はまったく分からない 屋敷の色は全体で黒っぽくて外から見るだけでは人の気配も中の状態も感じる事は出来ない
「ニャ ギーラ あの大きな窓からは入れないのかニャ?」
シルキャドは屋敷の大きな窓の2階部分の一つを指差しながら突然ギーラに言う
「う~ん どうかな? まずは正面の扉を調べようかな それでどうしても扉から入れなかったらシルキャドの窓から入る提案も考えよう」
「ニャ そうなのかニャ ならしょうがないニャ」
「それじゃあ 扉を調べるからみんな警戒していてね」
ギーラはそう言い先頭で歩き出し扉の前の階段を片足ずつ警戒しながら罠や違和感を探り階段を上って屋敷の扉の前に立つ 屋敷の扉も黒っぽくて建物全体の色と似ていて奇妙に色合いはあっている 扉にはノブが付いていて握って回すと扉が開くシステムで扉の上の部分には牛の顔をモチーフにした口から鉄製の輪を咥えていてその鉄の部分を持って扉に叩きつけると呼び鈴みたいに合図が出来る物まで屋敷の扉には付いている
「さて これからどうするかやね」
ギーラは扉を観察してから言う
「そうですわね 普通に扉に付いているノブを握って回すのも良いでしょうし シルキャドが先程言っていましたが扉を手でノックするかこのドアノッカーの鉄製の輪を握って合図をするか大きな声を出して誰かが扉を開けて下さるのを待つか それかこの扉を乱暴ですが蹴破って屋敷の中に入るかですわね どれに致しますギーラ? 私はどのパターンでも賛成ですわ」
ローズメルファも扉を調べてからギーラに最後は笑いかけてから話す
「ニャ そんなにパターンがニャ あるんだニャ 私はニャ ノブを回す事とニャ 扉コンコンしかニャ 気付かなかったニャ~」
シルキャドはローズメルファを見て驚いて話す
「「「ソウダナ トビラヲケヤブル イイナ」」」
トラとオトギは警戒を解かずに万全の構えのままハモリギーラに言う
「まあ俺達はこの屋敷に歓迎されて来た訳じゃ無いしそれに遊びに来た訳でも無いしね そりゃ勿論宣戦布告の意味も込めて蹴破るでしょう」
ギーラはそう言った瞬間に右足を屋敷の扉に思いっきり叩きつけていた