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④ 

 夏のホラー参加作品です。4話完結で、一時間毎に1話投稿しました。

 宜しくお願いします。

 一人で観覧車に乗るのだ。



 大体、女は、一緒にドリームランドに来た人達と観覧車に乗るか、他の客に相乗りさせてもらっていた。しかし、一年ほど前からぱったりとそれが無くなった。ドリームランドに行こうと言う人が居なくなったのだ。

 女はぼんやりと不思議に思ったが、一人でもやることは同じなので気にしないことにした。それから一人でドリームランドに来ている。朝も昼も夜も。


 閑散としたドリームランドに女が一人歩いていく。そこらじゅうにいるキャストとスタッフからの視線ももう気にならない。例え他に人っ子一人お客がいなくても。


 観覧車に乗る。


 女は毎回「出して」と叫び、泣き、大騒ぎして、その度に同じスタッフに助け出される。黒髪の、大学生で、スタッフのアルバイトをしている男に。


 顔見知りになって、少し話すようになって、時々うんざりされるけれど、黒髪のスタッフは必ず女を助けてくれるのだ。もう限界だという時「大丈夫ですか?」と扉を開けてくれる黒髪のスタッフ。どんなに苦しくて辛くても、その声を聴くと楽になる。そして女は、徐々に高い所が平気になってきた。・・・まだ大騒ぎするとしても。


 ここからの景色は、何か懐かしい。

 何か、****そう。


 脂汗を滲ませて、手足を縮めて小さくなりながら、女は観覧車の外を臨む。西日で遠くの何かがキラッと反射している。

 

 何かが女の中で引っ掛かった。乱れる呼吸を飲み込んで、身を乗り出す。落としたカケラを探すように。強化ガラスに額と両手をついて外を凝視する。


 空をゆったり横切る鳥。

 道をのんびり走る車。

 晴れていて端の端まで見渡せる、

 よくできたジオラマを見ているような眺め。


 沸き上がる焦燥。


 頭が痛くなってきた。手も足も震えている。確かめる為(・・・・・)に観覧車に(・・・・・)乗っていた(・・・・・)ことを思い出した。


 いつから、何を忘れているのか。



 どうして、こんなに辛いのか。



 頂点を折り返し、地上が近付いてくる。締め付けられる胸に、女はシャツの胸元を握りしめる。キラッ、キラッとした黄色い反射光に目が眩む。自然と観覧車の乗降口に視線が動いた。


 

 ()がいた。


 ドクンと血が沸騰する。



 ニタニタと、来る、来る、来る、来る、来る、来る、来る、来る、逃げて、逃げて、逃げて、 私 、逃げて!! 



 目の前に、見えたのは・・・




 

 どこ?

 



 怖い、痛い、


「出して・・い、や。出たくない、いや、嫌。怖いの、あいつがいる!」


 目が回る。回る。ゆっくりと。高く、低く。また私は出られない。


 男が、待ち構えている。



 いやだ、いやだあああああああああああああ


「出して・・・・」


 頭を膝に埋めて丸くなる女。



 ごとん。



 顔を上げると、いつの間にか、同じゴンドラに男が乗っていた。男が扉側で、女は出られない。


「来ないで」


 西日が男の手元をギラギラ反射している。眩しい。


「もう、いや」


「出して!」


「ここから出して!」



 女の脳裏に閃く、懐かしい風景。ストン、と何かが女の中で堕ちた。



「帰り、たいの・・・」



 女は表情をなくす。ぽろりと零れ落ちる涙。

 ほんの鼻先で、口を歪ませて嗤う男。


 ギラギラ、ギラギラとナイフが目を眩ませる。



 絶望。





がぁん!

がぁん! がつっ! がつっ!


「おいっ!」


 黒髪のスタッフが、扉を蹴って「錆がついて、かてぇな!」と悪態を付いている。


 スタッフが勢いよく扉を開けた反動で、嗤う男はゴンドラ乗り場に転げ出る。女は、ゴンドラの座席に固まったまま動けない。


「うわ、っと」


 転がりながらナイフ片手に嗤う気持ち悪い男を、思わず踏みつけた黒髪のスタッフ。すると霧のように男は掻き消えた。


「・・・消えた・・・?」


「誰も居ないよ」


呆然とする女に、淡々と応える黒髪のスタッフ。


「男が、・・・私は・・・」


「居ないんだ、誰も」


「・・・・・」


「何度も言うけど、いつだってここから出ていいし、故郷に帰ってもいい。もう、怖い奴は居ないんだよ。判ったか?」


 はらはらと静かに泣く女の腕をとり、観覧車から連れ出して、ゆっくりとドリームキャッスルに案内する黒髪のスタッフ。





*****************





 ドリームキャッスルは『珍しいものを蒐集(しゅうしゅう)する富豪の建てた白亜の城。主の亡き今も、ナニかが居る』というコンセプトで作られたパニックハウスだが、今は未使用だった城上部を改築して宿泊施設も併設されている。


 「お城に泊まってみたい」という奇特な客向けに作られたその部屋の一つに、女を案内した。


 そして女を置いて部屋から出る、黒髪のスタッフ。


「おい、幽霊ホイホイ」


 ふかふかした絨毯の敷かれた豪奢な廊下で、黒髪のスタッフに話しかける小柄な少年。首には赤白チェックのハンカチを結んでいる。


「・・・んだよ、市松(いちまつ)


「なあ、ココ、再営業が始まったら客を泊める部屋にすんだろ?」


「ああ。いいだろ、一人や二人」


「・・・いい訳ねー・・・ん、あり、か?」


「ありだろ。噂の『観覧車の声』は無くなって、新しく『キャッスルに女の霊』が出るって言われても」


 拷問部屋の鬼とかぶんじゃねぇの?と、少年はぶつぶつ言いながら顎を掻く。


「でも、ま、そーゆーのが売りだもんなあ。ここの遊園地」


「だろ」


 裏野ドリームランドは、普通じゃないもの・・・つまり、妖怪や幽霊が出ることを売りにしている。しかし演出をやり過ぎた(妖怪が調子に乗った)ことと、キャスト(妖怪)の教育不足と、就労希望(妖怪・幽霊)がありすぎ(が集まりすぎ)て休園せざるをえなくなった。世間では演出が事実のように浸透し、それらが原因で閉園したと思われている。


 休園してから一年、雇用の(勝手に)条件を細かく(住み着かない様)決めて、施設の見直しやスタッフ・キャストの再教育(しつけ)に勤しんできた。もう暫くしたら、裏野ドリームランドは再開園するのだ。


「んで、あの女はなんなの? 住み着いてた『観覧車の声』の主だよな?」


「ストーカーに職場で刺されて死んだ女」


 前に名前教えてくれたからググった、と黒髪のスタッフ。死んだ自覚がなくて、人に取り憑いてさ迷ってるうちに、帰る家が分からなくなったんだと、と微かに瞳を揺らす。


「はあ・・・難儀だなあ。人間なのにそんなのが見えちまうお前も」


「妖怪にいわれたかぁないね」


「・・・だな」


 その後、再開園でお披露目になるキャッスルの地下拷問部屋に繋いだ鬼の様子や、他のスタッフやキャストの仕上がり具合を確かめ合う二人。


「あ、観覧車の扉、サビてんぞ。整備に言っといて」


「観覧車?・・・狐担当だわ。アイツら気紛れだからなぁ~。なんかあると妖術ですぐ誤魔化そうとするし・・・」


「飯の稲荷抜くか」


 裏野ドリームランドは、経営トップが化け狸で、関係者がほぼ妖怪だ。だからか、幽霊も集まりやすいらしい。気ままな職員(妖怪)を纏める二人には悩みが尽きないようだ。


 ふ、と息をつく少年。


「・・・はやく逝けるといいな、女」


「だな」







 ドリームキャッスルの塔上部を改築した、ちょっと豪華なホテルのような部屋には、見晴らしのよい窓がある。


 女の故郷に似た、観覧車からみえるものと同じ風景。



 窓辺に佇む女は、優しく微笑んでいた。









 最後までありがとうございました。

 自作品のスピンオフです。(小声)


 もうひとつ、『遊園地へ行こうよ ~裏野ドリームランド~』も同じ世界観で書いてます。

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