永遠の契約を君と(十)
ブルーエルの両手に収まり輝く魂はもう何も言わない。
「終わりましたか?」
不意に声をかけられ、振り返るとそこにはディウスとガルシアがいた。
ディウスの腕にはいつのまにか用意していたのか、バスケットが抱えられ、そこには薬草が溢れるほど詰められている。
「はい」
「後悔はないな?」
「あぁ」
ガルシアの問いに頷くと、ブルーエルはその魂を大事に両手で持ち、川べりまで進んだ。
腰を屈めると透き通った水面に魂を抱えたブルーエルの姿が写っている。
「痛ッ……」
ちくりとフリージアに付けられた契約の印が痛んだ。また痛むそこは、フリージアの抵抗を表しているかのようだ。
「大好きだよ、フリージア。いつかの生でまた会おう。僕はずっと待っているから。そして必ず君をみつけてみせる」
ためらうことなく、ブルーエルはそっと星の中に流れる川に身をかがめて魂を乗せた。
フリージアの白く光り輝く魂はブルーエルの手の中からせせらぎに乗ってあっという間に行ってしまった。
ブルーエルは立ち上がって川の流れを眺めた。
フリージアの魂がレテの川を抜けて魂の海に行き、人の世界に生まれてくるのを待っているから。
きっと探すから。
生まれ変わっても魂の本質は変わらないから、きっと見つけられる。
そんな確信めいたものがあるのは、彼女は魂の契約に基づいて繋がったたった一人のブルーエルの主人だからだろう。
時間の制約から外れている、人ではない存在にとって時の流れなどあっという間だ。
「でもお前、俺たち天界の奴らと違って人間との契約なしに人間界には留まれないだろ?」
「大丈夫ですよ。私のところで仕事を手伝ってもらいますから」
ディウスによるともう申請は上に通してあるという。
ブルーエルもこのまま魔界には戻らずに人の世界で過ごすことになりそうだ。
地獄の管理は鏡の道を通ればフリージアの元にいた時と同じようにできる。
「こき使われるぞ。大丈夫か?」
「ディウス様のお役に立てるなんて光栄なことだ」
からかうように言うガルシアに平然として返すと、ディウスは笑みを深くした。
「誰かさんと違って、素直ですね」
そして嫌味たっぷりに隣に立つ天使に言う。
「つか俺天使だし。“悪魔”の言うこと聞かないの当たり前だし」
そう、ディウスに向かって唇を尖らせるガルシアにブルーエルは苦笑して、フリージアの魂が進んで行った川の向こうに目をむけた。
(今生のことは忘れた方がいい。きっと見つけるよ。たとえ人の世の時間で何十年、何百年とかかっても。必ず)
もう見えなくなったフリージアの魂に想いを馳せて、ブルーエルは彼女に付けられた痕にそっと触れた。
永遠の契約を結んだ証の痕に。




