永遠の契約を君と(七)
フリージアの目から涙が溢れる。
「あなたは悪魔でしょう?“魂を得るもの”の筈なのに、なぜ私の転生を望むのですか?」
だがブルーエルにはその涙を拭うことはできない。そして、慰めるために髪を撫でることもできない。
「私はあなたとともに魔界へ行くのだと思ったから、ずっとそばにいれると、だから……それなのに……」
触れられないから、こんなに近くにいるのに、彼女が悲しんでいても何もできない。
もどかしい思いにブルーエルは拳をきつく握った。
「ごめん、でも僕もディウス様に聞くまで知らなかったんだ。だから僕は、君には今生で見られなかった未来を見て欲しい。ねぇ……生まれ変わっておいで、フリージア」
たった16で命を落としたフリージア。
彼女が見るべきだった未来は、世界は一体どんなものだったのだろう。
年頃になったら好きな人ができて、その人と結ばれ添い遂げたかもしれない。
子どもも産んで、歳を取ったら孫に囲まれ天寿を全うしたかも知れない。
薬剤師として大成して人の世界で後に偉人と称えられたかもしれない。
あるいは姫巫女としてカヌアン教の再興を果たしたかもしれない。
人間の持つ可能性は無限に広がっていて、天から人を護る役目を与えられた天使や、試練を与えるために作られた悪魔たちとって人間だけに与えられているそれはとても羨ましいものだ。
(天使で無くなって、いまさらこんな気持ちになるなんてな……)
元は天使だったブルーエルにとって、いつの間にかフリージアは試練を与えるべきではなく、手助けをし見護るべき存在になっていた。
堕天してから久しく忘れていた、人への慈愛の気持ちにブルーエルは自嘲気味に笑った。
その慈愛の気持ちに恋心が潜んでいるのは、純粋な天使には戻れないことを知っているからこそ感じ取れたことだ。
「君は生まれ変わるべきだと、僕はそう思うし、そう望んでもいる。魔界へ来ることはできないから、君ほどの力があれば天界へ行く道もあるよ。ガルシアが連れて行ってくれる。ねぇフリージア、君はどうしたい?」
「天界に行くのは嫌です……それに転生も嫌。だって転生したら私は私で無くなってしまう。それに、あなたのことを忘れてしまうなんて耐えられません!」
「忘れないよ」
「何故そんな風に言えるのです?!」
フリージアはブルーエルの言葉を即座に否定し、首を振って、まるで駄々っ子のように叫んだ。