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不穏な出会い (挿絵有)

 もう秋も中頃になり、寒々しい木枯らしが時折吹くようになってきた。


 庭にある姫リンゴも赤く熟してきて、餌の少なくなった小鳥たちがこぞって木の実をついばみに来ている。


 フリージアが言った通り、あれから森では街で暮らしていた頃よりも平穏に過ごしていた。


 家に鍵をかけたフリージアは厚手の外套を羽織り、木枯らしに冷えた手をこすり合わせてほぅっと白い息を吐いた。


挿絵(By みてみん)

 今日はこれから街に行くのだ。


 いろいろな道具や食材を買い出すのと、隠れて住む魔術師仲間から頼まれていた薬を卸すためだ。


 基本的に魔術師は他の職業との兼業だ。そして、フリージアの表向きの職業は薬剤師である。


 茶色やくすんだ赤色の落ち葉を踏み鳴らし、2人は森を進んでいく。


「今年は雪が降るのが早いかもしれませんね」


 鼻の頭を赤くしたフリージアが言う。


「冬の澄んだ空気は星を美しく見せてくれるから、僕は好きだな」


挿絵(By みてみん)


「ブルーは天文学も専門でしたね。 私は星読みは苦手で。 だからあなたを召喚したようなところもあるんですよ」


「星はいろんなことを教えてくれる。 街と違って、ここは星との距離も近い。とてもいいところだよ」


 ブルーエルも白い息を吐きながら、持っていた薬籠を持ち直した。


 森の開けた場所に出た時だった。

 視界の端に人の姿が見えた。

 一瞬教会の捜索隊かと思ったが、近くの木の幹に斧が立てかけられており、どうやら木こりのようだとブルーエルは警戒心を緩めた。


「何か様子がおかしくありませんか? 」


 フリージアも彼を見つけたようで、心配そうに呟く。

 休憩中かと思ったが、具合が悪くてうずくまっているようにも見える。

 やがて風の向きが変わり、そこからは血の匂いがした。


「血の匂い……あいつ、怪我しているみたいだ」


「大変! 行きましょう」


 急いで木こりの元へと行こうとするフリージアを慌てて止めた。


「ここで人と関わると危険だ! あいつからもし教会に話がいったら……」


 せっかく平穏な日々を手に入れたのに、また引越しをしなければならなくなるかもしれない。


「医術の心得があるものとして、放っておけません。 あの方にも家族がいるはずです。 きっと心配している」


 そう言って引き止めるブルーエルの手を振りほどき、フリージアは薬籠を取ると怪我人の元へとかけていってしまったので、仕方なくブルーエルも後を追った。


 ブルーエルがようやくフリージアに追いつくと、木こりの周りは血だらけで、むせるような血の匂いと生々しい様子に思わずブルーエルは眉をしかめた。


 木に立てかけられた斧の刃にも血が付いている。

 手元が狂って足を傷つけてしまったと言うところだろうか。


 見ると彼の太ももからはどくどくと血がまだ流れていた。

 フリージアは彼の足の付け根近くに止血帯をして、傷口にガーゼを当てて圧迫を始めている。


「しっかりしてください、だいじょうぶですからね。 ブルー、薬を」


 むせるような人の血の匂いに吐き気まで催しながらもなんとかこらえ、言われたものを手渡していく。


「薬草を練ったものです。 少し沁みますが、我慢してくださいね」


 そう言うと、膏薬を包帯に塗り、傷口に当てた。


「ぐ……ぁ……っ、いてぇ……いてぇよぉ〜」


「すみません、でもその分よく効きますから」


 痛い痛いと力のない声で呻く木こりに謝りながら、フリージアは包帯をきつめに巻き、止血帯を外した。


「これで応急手当は終わりです。 よく頑張りましたね。 これは毎日傷口に塗ってください。 後はちゃんとお医者様に見てもらってくださいね」


 替えの包帯と傷口に塗る化膿止めの薬を渡した。


「……あんたは医者じゃないのか? 」


「薬剤師です。 私がしたのは応急手当だけなので、お医者様にやっぱり診ていただいたほうがよろしいかと思いますので」


 脂汗を浮かべながら、まだ呂律の回らない舌で訝しがる木こりにフリージアは笑顔で答えた。


「……魔女か? 」


「薬剤師です」


「もういいだろ。 早く街に行かないと、日暮れ前に帰れなくなる」


 木こりから嫌なものを感じて、ブルーエルは半ば強引に間に入ると、まだ座ったままのフリージアの手を取り立ち上がらせた。


「助けてもらって礼も言えない上に魔女と疑うとはな。 お前、失礼じゃないか? 」


「あ、あぁ助かったよ。 ありがとな」


 侮蔑を込めて言ったブルーエルの言葉に、思い出したように木こりが礼を言うと、とんでもないです、とフリージアはにっこりと笑った。


 だがそのお礼の言葉にブルーエルは不安を覚えた。

 彼が一瞬嫌な笑みを浮かべたように見えたからだ。


 大事なものを奪われるような錯覚を覚え、急いでフリージアを彼から遠ざけねばと、それだけを思って彼女の手を強く引っ張って街への道を急いだ。


「本当に、『ありがと』な」


 背後から粘つくような気配を感じたが、気付かないふりをして振り返らず、ブルーエルはフリージアの手を強く引っ張ることに集中した。


ブルーエルとフリージアのイラストは由毘七緒様に描いていただきました!

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