永遠の契約を君と(五)
「ブルー……泣かないで……」
フリージアはうずくまるブルーエルのすぐそばに腰を下ろした。
そしてまた慰めようと手を伸ばすが、先程ブルーエルに触れられなかったことを思い出してその手を引っこめた。
「謝らないでください。あなたのせいじゃない。これは、私の行動が招いた単なる結果なのです」
そのフリージアのまるで他人事のような淡々とした物言いにブルーエルは違和感を覚えた。
「なんで、何でそんな他人事みたいに……どうして、どうしてそんな風に言うんだよ……」
悲しみより、ふつふつと怒りに似た感情が湧き上がって来る。
ブルーエルは上体を起こして涙を拭い、キッとフリージアに鋭い視線を向けた。
「ブルー、私の魂は、実はもう限界だったのです」
全てを知っているような、そんな落ち着き払ったフリージアの顔を見てもブルーエルには理解できなかった。
人間の魂のことは自分の方がよく知っているのに、何が限界だ、と。
気に食わなかった。契約も魂の扱いも全て自分の方が知っている、そんな風に見える彼女の態度がブルーエルには受け入れられなかった。
「ブルーが私の目をよく見えるようにしてくれたでしょう?あの時全て悟ったのです。私の星にかかる、あの黒いモヤを見た時に」
「……何それ、どう言うこと?」
「私はカヌアン最後の姫巫女として、祖母から受け継いだ、墓を失った代々のカヌアンの民たちも含めた最後の民たちの魂の依り代となっていました。依り代となる代わりに地母神アシェラトの力をお借りすることはできたのですが、祖母ほど力が強くなかった私は、正直心身の限界を感じていました」
それはそうだろう。フリージアは姫巫女とはいえ、まだ16歳の子どもだ。
「姫巫女を継いだ当初、背負った魂の重さから私は日常生活をまともに送ることができなくなり、ずっと寝込んでいました。薬草の知識がもっとあれば、気力が湧く強い強壮剤を作ることができるかもしれない、星の知識があれば危機を予知して避けることができるかもしれない。本当はそう考えて、魔術師仲間から魔術書を写させてもらいあなたを召喚したのです」
「僕に嘘をついていたってこと?」
契約時に聞いていた望みと違うということは、彼女の本心を見破られなかったこということだ。
それを暗に示されたブルーエルは恥ずかしさと自分の力不足に頰を赤くした。
「嘘ではありませんよ。私が知識をつけることは患者さんたちの命を救うことにもつながりますからね」
「物は言いようってやつだね」
じっとりと半眼になって言うブルーエルにフリージアは苦笑した。
「あなたの協力もあって、私は以前のように過ごすことができるようになりました。しかしこのご時世、カヌアンの民たちは理不尽に命を落とさないことはなく、私が街に行くたびに彼らの魂を背負うことになっていました。そして、家にルドラーが来た時、私は全て悟りました。もう、この世に逃げ場はない、潮時なのだと」
フリージアの言葉にブルーエルはその時のことを思い出して息を飲んだ。
それに、街へ行くたびに魂を背負っていたなんて知らなかった。