表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/35

永遠の契約を君と(五)

「ブルー……泣かないで……」


 フリージアはうずくまるブルーエルのすぐそばに腰を下ろした。


 そしてまた慰めようと手を伸ばすが、先程ブルーエルに触れられなかったことを思い出してその手を引っこめた。


「謝らないでください。あなたのせいじゃない。これは、私の行動が招いた単なる結果なのです」


 そのフリージアのまるで他人事のような淡々とした物言いにブルーエルは違和感を覚えた。


「なんで、何でそんな他人事みたいに……どうして、どうしてそんな風に言うんだよ……」


 悲しみより、ふつふつと怒りに似た感情が湧き上がって来る。


 ブルーエルは上体を起こして涙を拭い、キッとフリージアに鋭い視線を向けた。


「ブルー、私の魂は、実はもう限界だったのです」


 全てを知っているような、そんな落ち着き払ったフリージアの顔を見てもブルーエルには理解できなかった。


 人間の魂のことは自分の方がよく知っているのに、何が限界だ、と。


 気に食わなかった。契約も魂の扱いも全て自分の方が知っている、そんな風に見える彼女の態度がブルーエルには受け入れられなかった。


「ブルーが私の目をよく見えるようにしてくれたでしょう?あの時全て悟ったのです。私の星にかかる、あの黒いモヤを見た時に」


「……何それ、どう言うこと?」


「私はカヌアン最後の姫巫女として、祖母から受け継いだ、墓を失った代々のカヌアンの民たちも含めた最後の民たちの魂の依り代となっていました。依り代となる代わりに地母神アシェラトの力をお借りすることはできたのですが、祖母ほど力が強くなかった私は、正直心身の限界を感じていました」


 それはそうだろう。フリージアは姫巫女とはいえ、まだ16歳の子どもだ。


「姫巫女を継いだ当初、背負った魂の重さから私は日常生活をまともに送ることができなくなり、ずっと寝込んでいました。薬草の知識がもっとあれば、気力が湧く強い強壮剤を作ることができるかもしれない、星の知識があれば危機を予知して避けることができるかもしれない。本当はそう考えて、魔術師仲間から魔術書を写させてもらいあなたを召喚したのです」


「僕に嘘をついていたってこと?」


 契約時に聞いていた望みと違うということは、彼女の本心を見破られなかったこということだ。


 それを暗に示されたブルーエルは恥ずかしさと自分の力不足に頰を赤くした。


「嘘ではありませんよ。私が知識をつけることは患者さんたちの命を救うことにもつながりますからね」


「物は言いようってやつだね」


 じっとりと半眼になって言うブルーエルにフリージアは苦笑した。


「あなたの協力もあって、私は以前のように過ごすことができるようになりました。しかしこのご時世、カヌアンの民たちは理不尽に命を落とさないことはなく、私が街に行くたびに彼らの魂を背負うことになっていました。そして、家にルドラーが来た時、私は全て悟りました。もう、この世に逃げ場はない、潮時なのだと」


 フリージアの言葉にブルーエルはその時のことを思い出して息を飲んだ。


 それに、街へ行くたびに魂を背負っていたなんて知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ