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永遠の契約を君と(四)

 まだ魂の形態が変わってすぐで不安定なためか、フリージアぼんやりと視点が定まらずにいる。


「あんまり長い時間人の姿にすることはできないが、よく話し合ってみろ」


「ありがとう」


 ブルーエルの礼にガルシアは頰を掻いて照れ臭そうに頷いた。


「ガルシア、ちょっといいですか?」


「何だ?」


「お茶に最適なハーブがこの辺にあるので、摘むのを手伝ってもらえませんか?」


「えー……めんどくさ……イッて!! イタタタ耳、みみみみ!!」


「いいですから、ね?」


 空気を読まずに、その場に留まろうとしたガルシアは、ディウスに耳を引っ張られて駆り出されていった。


 ディウスとガルシアはハーブを探しに去り、その場に残されたのはブルーエルと幽体のフリージアだけである。


「ここは……一体……」


 ようやく意識がはっきりしてきたのか、フリージアは呟いて辺りを見回した。しかしまだブルーエルには気づいていないようで、額に手を当ててまるで迷子になったように途方にくれた顔で忘却の川を眺めている。


「ここは忘却の川……そうだね、君たち人間が『レテ』と呼ぶ場所だよ。フリージア」


「ブルー?いえそれよりも今、なんと?」


「ここは忘却の川だって言ったんだよ」


「忘却の……川」


「君なら知っているはずだ。天界と人間界の間にあり、すべての魂の始まりの場所さ」


「ではここは……煉獄ではないのですね…?」


 フリージアの言葉にブルーエルが頷くと安堵の表情を浮かべた。


 だがブルーエルの表情は冴えなくて、まるでなにかをこらえるかのように、唇をひき結んで俯いている。


 もう魂となってしまった彼女とまた会話ができるなんて思いもしなかったから、ブルーエルは感極まってフリージアを救えなかった悲しみと悔しさを思い出し、必死で込み上げるものを抑え込んでいた。


 ブルーエルの心はまるで掴まれたように痛み、悲鳴をあげる心臓に手を当て、嗚咽を漏らさないようそれを咬み殺した。


 しかしこらえきれずに目の前がぼやけてきたのでブルーエルは慌てて袖口で目を拭った。


「ブルー、どうしたのです?あなた、泣いて……?」


「何言ってるの?そんなわけ……ないじゃ……」


 フリージアの指摘にブルーエルはツンと痛む鼻をすすりながら否定しようとするけれど声が震えてしまう。


 目から勝手に涙が溢れてきて止まらない。


「目の下が……下まぶたが赤いです。強くこすったのでしょう?」


「少し花粉が入っただけだよ」


 心配そうなフリージアの手がブルーエルの頰に伸ばされる。


 けれどもそれはひやりとしていて、手の感触もなく、そよ風が撫でるような微かなものだった。


 肉体を失っているフリージアの手はブルーエルに触れることはできない。


 改めてその事実を思い知らされて、ブルーエルはついに抑えきれなくなってしまった。


「ごめん、フリージア……ごめん、守れなくて、ごめん……怖い思いをさせて……ごめ……」


 言葉が続けられなくて、ブルーエルはその場に崩れ落ちた。そして舞い上がる光の花の中、叫び声のような嗚咽を漏らした。

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