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永遠の契約を君と(一)

 紺色の空に宝石のように輝く、満点の星空の中。


 静かなせせらぎを奏でる川のほとりには丸く削られた白い石が並び、それが導となっている。


 天界と人間界の狭間にあるここは、大小の光が瞬く星のなかに流れる《忘却の川》と呼ばれる“レテ”だ。


 人は肉体を失い魂となると、この川の流れに乗って生前の記憶を消してあらたに転生する。


 生前の罪や記憶はこの川で総て清められる。


 ただし、凶悪な犯罪を犯したり人の世で罪を償いきれなかったものは煉獄に行ったり、地獄に落ちたり、救いようがない罪ならば地獄の獣の餌となり消滅する。


 そして人の世で善行を積み、魂の格を上げることができた者は稀に天使へと転生することもある。


 この川の流れに乗るのは天使になるほどの善行も、地獄へ堕ちるほどの悪行もしていない“普通の”魂だけだ。


 星が瞬く川べりにはタンポポの綿毛に似た、白く丸い光を宿す藍色の葉をもつ植物が風に揺れている。


 金の髪に黒い水牛の角を生やした魔族の姿に戻ったブルーエルは、魔王形態となったディウスと連れ立って鏡の道を通ってたどり着いた。


 足元を照らすその花に二人の足が触れると光の綿毛が風に舞っていく。


 紺碧の空に瞬く星へと飛んでいく光の綿毛。


 だが久々に見るその景色を懐かしむ余裕は、今のブルーエルにはない。


 ただ一人の天使を探して彼のオレンジの瞳は忙しなく動いている。


「あら」


 少し驚いた声に顔を向けると、そこにはバラの花冠をかぶり、薄桃色のベールを顎の下まで下げた智天使ツァフが正面から歩いてきた。


 彼女の金の巻き毛が風に舞うとあたりに薔薇の香りがふわりと漂う。


「智天使ツァフ……」


「あなたがあの子の……ふふ、ごきげんよう」


 ブルーエルの呟きにツァフは薔薇の花びらが重なったようなビロードのドレスをつまんでお辞儀をした。


 そして、マラカイトグリーンの目を細めると二対の羽を揺らしながらそのまま通り過ぎて行った。


「彼女がなぜここに?」


「さあ……」


 ブルーエルの呟きにディウスが不明だと首を振った。


 まだほんの少し残る薔薇の香りに、二人は首を傾げながら視線を川に戻すと、そこに目的のガルシアの姿があった。


「来たな」


 彼の腕の中に白く光り輝くものを見つけたブルーエルの足は自然と早くなる。


 その急ぐ足に触れた光の花が揺れ、花びらを散らし無数の光の綿毛を星空に飛ばして行った。

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