薔薇の天使(四)
フリージアと、彼女が抱えていた多くのカヌアン教徒の魂の修復を終え力を使い果たしたカヌアンの神々たちは元の姿に戻った。
「これほど小さくなるとはな。はは、どうりで気づくことができなかったわけだ」
女神アナトから天使の姿に戻ったアンネルが親指ほどの大きさになったモトをつつきながら笑う。
同じく小さくなったヤムとアルラトゥは呆れたようにその光景を眺めている。
「かわいそうだからやめなさい」
ゼブルに止められ、アンネルはモトを突く手を止めた。小さすぎてモトの抗議は聞こえないが、耳元で飛び回られるとハエのようにうるさく、アンネルはしっしと手を振った。
「皆の魂の修復は終わりました。こちらは姫巫女の魂です。信徒たちのものはそれぞれ、こちらに」
フリージアから引き剥がした魂もまた、フリージアに負けず劣らずの輝きを放っている。
「彼らの魂はこのツァフが責任を持ってレテへと運びましょう。……姫巫女の魂は行くべきところがあるのでしょう?」
そう言うとツァフはフリージアの魂だけをガルシアに渡した。ガルシアは頷き、それを筒へとしまった。
「あなたは……本気で?」
ツァフはガルシアの手の上に自分の手を重ねて問いかけた。
ツァフの瞳にこのままフリージアの魂をガルシアに持ち去らせて良いものかと迷いの色を見つけたガルシアは、レテへと向かおうとした体をツァフに戻した。
「全て覚悟の上です。ツァフ、あなたにこのような心配とご迷惑をおかけすることになって大変申し訳無いのですが」
通常、魂の取り扱いについては、死後の魂を取り扱う場として、天界と魔界で厳格なルールが定められている。
天使としての役目を追われるだけならまだしも、下手をすれば羽を失い消滅をすることになるかもしれない。
天界の知識と技術を人の世界に持ち込ませてしまうことになり、その上多くの人々が命を落とすことになった。
その責任の重さを思えば、何をしてもしたりないとガルシアは感じていた。
「ガルシア熾天使長。あなたが全てかぶる必要はありません。私も共犯ですわ。罰されるときは、共に」
思いがけないツァフの言葉にガルシアは一瞬目を丸くし、それから微笑みを浮かべた。
「心強いです。感謝します、ツァフ」
「ま、堕天することになったら俺が迎えに行ってやるよ。ルーは喜ばないだろうがな」
「ゼブル……もしその時は頼むよ」
肩を叩いてきたゼブルに軽口を返して、ガルシアはカヌアンの地を後にしたのだった。