エコロジー
サダオは通勤電車に揺られ、会社と自宅を往復する毎日だ。
最近、サダオの会社で発売されたエコロジー商品がヒットしたおかげで、残業が続いている。
『あぁ、暑い……。
この電車、全くクーラーが効いていないな。
最近、何でも節電節電って言うけれど、少しは働く人間にも優しくなれっていうんだよ』
サダオが、じっとりとした空気を身にまとい、げんなりしながら帰宅をすると、家族が揃って玄関で出迎えた。
「お帰りなさい、アナタ。
今日も忙しかったのね」
「パパ、遅いよ。
ずっと待っていたんだからね」
「親父、大変だな。
早く家に入れよ」
「あぁ」
サダオが玄関を上がると、ひんやりとした空気が体を包む。
『自社のエコロジー商品のおかげだな……』
「アナタ、夕食はアナタの部屋に用意しているわよ」
「あぁ」
「パパ、スマホするから、お願いね」
「あぁ」
「俺は、深夜に見たい番組があるんだ」
「あぁ」
サダオは顔色一つ変えず、自分の部屋に入った。
ネクタイをはずし、ワイシャツを脱いで、Tシャツに着替えた。
カラカラカラ……
サダオの部屋から音がすると、別の部屋から家族たちの笑い声がきこえてくる。
カラカラカラ……
「親父、全然テレビがの音が聞こえない」
カラカラ……カラ……カ……
ふっと家中の電気が消えた。
「きゃっ、停電?」
「親父、何してるんだ?」
ドサッ
「え?
パパの部屋から何か聞こえた?」
「ここに懐中電灯があるから、お兄ちゃん、見てきてちょうだい」
「えー、面倒くせー」
息子がしぶしぶ暗闇の中、懐中電灯と手探りでサダオの部屋に入ると、サダオは床に転がり、冷たくなっていた。
サダオの側には、サダオの会社で販売している、自転車型の発電機が置かれていた。
「アナタ!」
妻はサダオに駆け寄り、困った顔をした。
「こんなところで死なれたら、労災がおりないじゃない」
「それより俺、見たい番組があったのに」
「私だって、彼氏にメールを送っていたところよ。
明日から、どうしよう……」
三人は、しばらくサダオの顔を懐中電灯で照らしていたが、誰かが『節電』と言ったので、消して部屋を閉じた。