プロローグ
そう、例えば、人が道端で歩いた、使用済みの靴の裏を舐めた事はあるか?
毎日、両親から絶えず言われてきた、「死ね」だの「生むんじゃなかった」だの言葉を毎日聞いて過ごした事はあるか?
友人と思っていた人間に、ある日突然裏切られ、クラスの中心として哂われた事はあるか?
道行く人間に態度が悪いと眉を潜められ、社会のゴミだと睨まれた事はあるか?
不良グループに目をつけられて、便所に連れ込まれて小便掛けられたり、男子便器に顔を突っ込まされた事はあるか?
ずっと信じていた教師に、ある日イジメの首謀者と知って、絶望した事はあるか。
唯一出来た恋人を不良グループに犯され精神が病んだ彼女に、お前のせいだと言われた事はあるか?
誰のせいでも無いのに、犯罪の犯行者と仕立て上げられた事はあるか?
たった一人の理解者に、路地裏に連れ込まれて犯された事はあるか?
イジメの一環で、根性焼きだと訳分からない事を言われて、こめかみに押し付けられた焼ける音を聞いた事があるか?
ただ触れるだけで泥を落とすように払われ、陰で陰口を言われた事はあるか?
親を憎んだ事はあるか?
他人を憎んだ事はあるか?
自分を憎んだ事はあるか?
―――あぁ、あるさ、何度も、何十も、何百何千回も、思い続けて、憎んで、殺してやると憎悪を込めたさ!!
親を、愛した事はあるか?
他人を愛した事はあるか?
自分を、愛した事はあるか?
―――あるよ、例え罵倒されても、怪我されも、憎悪をつかれても、俺は愛していた、愛されたかったから、愛し続けた。
けれど結果は変わらない、愛を唄う壊れた踊り箱、何も変わらない、変わる事さえ赦されない。
重い身体を引きずっても、痛む心を内に秘めながらも、自分はこの気持ちを誰に言おうが、変わる事は無いからだ。
その痛みが愛だと思ったから、ずっと我慢できた。
この境遇がオレの役割だと思ったから、ずっと耐えてきた。
オレが、千条有真の唯一の役割だとこの役割が必要事項だと思ったから、俺は理不尽な出来事でも、ずっとずっと我慢して生きて来れたんだ。
だから。
――――気持ち悪い、死ねよ、お前なんて、"要らない"。
こう言われれば、俺はもう我慢なんてしなくて良かったんだ。
オレの役目は終わった、だから、オレは早急に家を出た、学校も辞めて、何処か遠くで、一人で過ごせた。
そこからが、オレの望んだ、平凡な毎日だった、生き甲斐を感じて、誰にも暴力を振るわれず、心が安らいで、たまの休日に遊びに行く、普通で普遍な生活。
そう、オレの人生は此処から始まった―――
―――筈だった。