第8話 ホントに君は〜
その翌日。
僕は前日に、道中の心からの叫びを聞き、そして友達になる事に同意した。
あの時、道中の悲しみに同情し。
そして、僕にすがり付く様にお願いして来たので、それに応えた。
だが、それだけであるのだ。
クラスメートが悲しんでいるのを見て、それを慰めただけである。
他に他意は無いのだ。
”あの時感じた、道中に対する感情は錯覚なんだ”
僕はそう思い込みながら、学校への登校路を歩いていた。
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「お〜い、優一くん〜」
僕は向こうから、自分を呼ぶ声に気付いた。
その方向には、カバンを持った道中が小さく手を振っているのが見えた。
そして僕を見ると、小走りで僕に駆け寄った。
「ふふふっ、おはよう♪」
「ああ・・・、おはよ」
僕に近寄ると、ニッコリ微笑みながら挨拶をした。
意表を付かれた僕は、それに対し、気が抜けた様に挨拶を返す。
道中は、何だかとても嬉しそうだ。
「どうしたの、今日は機嫌が良いね」
僕はそう尋ねた。
理由は何となく分かるが、あえて聞いてみる。
「うん、優一くんが友達になってくれたからだよ」
やはり、予想通りの答えだった。
「でも、今まででも、仲が良かったじゃないの?」
それでも、今ひとつ理解できないので、道中に聞いてみた。
「ん、確かに今まででも、仲は良かったけど。
でも、口に出して、”友達になってくれる”って言ってたのが嬉しいんだよ。
それも、男の子の友達だから・・・」
そう言って、僕にまぶしい笑顔を見せた。
・・・・・・
僕は、上機嫌な道中とは対照的に、落ち着かなかった。
いつもの道中の匂いに加え、明るい道中に心が乱されたのである。
道中は、歩きながら小さく鼻歌を歌ったり、軽くスキップをしたりと。
その可愛らしい様子を見ていると、僕も気分が良くなるが。
しかし、元男に心を奪われている事に気付くと、途端にガックリした。
そんな状態が、校門の所で池野と合流するまで続いた。
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「ねえ、ねえ、美咲に一体、何をしたの〜?」
僕は休み時間に、池野に廊下の影まで引っ張られた。
池野は、ニヤニヤしながら僕に聞いてくる。
「道中に何かって?」
「とぼけないでよ〜、美咲が変なのは、あなたの所為でしょ〜♪」
「何が変なの?」
「朝から、妙にテンションが高いのよ。
私が分かる事で考えられるのは、山成の事以外しかないの」
「どうして、僕なんだよ〜!」
「他は私がある程度把握しているから分かるけど、あなたの事は、まだ分からない事があるからだし。
それに、美咲は、あなたに好意を持っているからよ」
「好意って?」
「はあ〜、とにかく美咲とは何があったの」
・・・・・・
僕は取りあえず、昨日の公園での事を、池野に話した。
「ふう〜ん、美咲がそんな事まで話したんだ」
「そうなの?」
「そうよ、美咲が昔の事を話したのは、私以外では、あなただけよ。
つまり、それだけ個人的な事をあなたに話した訳」
確かに、軽々しく話せる様な内容の話では無いなあ。
「その上で、あなたに友達になって欲しいと聞いて来たんだよね」
「うん」
「それで、あなたは了承したと」
「そう」
「なるほど、気になってた相手に近づけて嬉しかったと」
「気になってた相手って」
「はあ〜、だからモテなかったんだよ、きみは・・・」
ムッ!! そんな事を持ち出さなくても!
「で、なんで山成は、了承したの?」
「う〜ん、道中の事に同情したからかな」
「それだけ?」
「他には無いかな?」
「はあ〜、自分の気持ちにも目を向けてないか・・・」
そう言って、池野は呆れた溜め息を付いたのである。