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第7話 心の叫び

 美山先輩は、僕達に用紙を渡した後も、嬉しそうにニコニコしている。


 僕は、そんな先輩を、いつの間にかジッと見ていた。


 先輩も、そのまま道を歩けば、女の子として十分通用するだろう。


 僕は、何の違和感も無く女の子になっている、美山先輩に思わず言ってしまった。



 「先輩も、対象生なんですよね・・・」


 「えっ・・・!」



 僕の言葉を聞いて、先輩だけでなく、道中や池中も呆れた顔になった。


 しばらく呆れた顔をしたかと思ったら。



 「ぷっ、ははははは〜」



 突然、先輩が吹き出した。



 「なに〜、イキナリ、おかしな事を言う子だね〜」



 美山先輩が、涙目になりながら笑いつつ、僕に言った。



 「そうだよ〜、対象生だよ〜、そうじゃなきゃこんな格好をしてないよ〜」



 そう言って、制服のスカートの裾を摘んで持ち上げると、すぐに離した。


 離したスカートの裾が、フワリと舞い落ちる。


 ひとしきり笑った後、落ち着いた先輩が。



 「ちなみに、すでに性転換手術は済ませたから、玉は無いよ。

何なら、触って確かめてみる? ツルツルだよ♪」



 挑発するような瞳で僕を見ながら、先輩がそう言った。


 先輩の言葉を聞いて、僕の顔は火が出る位に熱くなっていく。


 同時にその言葉を聞いた、池野は、僕に軽蔑の視線を向けた。

しかし、道中は、同じ様な鋭い視線を僕に向けたが、何となく嫉妬の成分が含まれている様な気がした。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 用紙を貰った後、僕たちは図書室を出発した。


 玄関まで行き、下駄箱で下履きに替え、履き替えると校庭に出る。


 それから、校門まで歩くと。



 「それじゃあね〜、また明日〜」


 「さようなら〜」


 「さよなら〜」



 池野とは帰る方向が違うので、ここで別れる。


 しかし、道中とは、もう少し一緒に歩くのだ。



 ・・・・・・



 しばらく一緒に歩いていたら、突然、道中が。



 「優一くん、時間はある」


 「うん? 特に用事は無いよ」


 「じゃあ、あそこに、一緒に来てくれないかなあ」



 そう言って、近くの公園を指差した。


 そう言う訳で、僕は道中と一緒に公園に行く事になった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 二人で、公園の中に入った。


 公園の中は、3人程の子供がいるのが見える。


 最近は、少子化と言うのか、公園でも子供の姿を余り見なくなった。


 そんな公園を歩くと、周囲から影になっているベンチに、一緒に座った。



 ・・・・・・



 最近陽が長くなったので、まだ空は明るい。


 春も大分(だいぶん)経ったけど、まだ、夕方になると肌寒くなる。


 そんな中、二人は並んでベンチに座っている。


 並んで座っていると、少し寒いのだろうか、道中が無意識の内に、僕と接近して来た。


 そうすると、甘い道中の匂いが、いつもの様に漂って来る。


 その匂いは、最近いつも、僕の心を掻き乱していた匂いだ。


 僕が道中の匂いに、落ち着きを無くなっていたら。



 「ねえ、優一くん。

私、普通の男の子とこんなに仲良くなれたのは、あなたが初めてだよ」


 「えっ!」



 道中は顔を(うつむ)かせて、僕に語り出した。


 僕は、そんな道中の言葉に驚いた。



 「私は、小さい頃から、他の男の子みたいに外でドロだらけで遊ぶの嫌で、家にいるが好きな上、好みが女の子みたいだったから。

いつも、男の子と遊ぶより、女の子と遊ぶ事多かったの」


 「・・・」


 「それに、大人しくて、男らしくないから、いつも近所の男の子にイジメられていたの」


 「・・・」


 「それで、ある時、イジメられて大怪我した時。

お医者さんから、”体と心の性が違うのでは?”と言われて、検査したらヤッパリそうだった」


 「それから、親と先生とかと一緒に相談して、それから女になると決心して、ホルモン療法を開始したの」


 「・・・」


 「ホルモン療法を開始して、外見とか色々変わってきたら、周りの男の子どころか、女の子さえも私から距離を置くようになったの」


 「それが、中学に入り、性転換手術をしたら、みんな、全く近寄ろうともしなくなったのよ」



 僕は、道中の心の叫びを黙って聞いていた。

しかし、今度は一転して笑顔になり。



 「それで高校は、こんな私でも変な目で見ない、この学校に入ったの。

でも、それで良かった、だって、あなたと仲良くなれたから」


 「今まで、普通の人から敬遠されてたから、友達になれたのは、瀬知みたいな、同じ境遇の娘ばかりだった。

でも、私も、普通の男の子と友達になりたかった」


 「あなたは、他の人みたいに、私を拒絶しなかったし、私に気軽に声を掛けてくれた」



 そう言って道中が、涙が潤んだ瞳を僕に向けた。



 「ねえ、優一くん、お願い、私と友達になってちょうだい・・・」



 道中がそう言うと。



 「うん、道中とは、友達だよ」



 僕はそう答えた。



 「ありがとう、ありがとう・・・」



 道中がそう言って涙を流した。


 僕は、その道中の涙を見て、胸が締め付けられる思いがした。



 ・・・・・・



 僕達は、まだ明るいが少し肌寒くなった、夕方の公園で。

道中の涙が止まるまで、いつまでも、並んでベンチに座っていたのだった。



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