第6話 一緒に入部しない?
複雑な思いをした昼食を済ませると、渡り廊下の所にある休憩所に3人共座った。
そこは一応、屋根があるけど、僕たちは屋根の外にあるベンチに座った。
上履きで出るのは微妙であるが、注意された時に戻れば良いかと思い、そのまま座った。
そこは、日当たりが良い所で、春の日差しが降り注いでいた。
「はあ〜、ここは暖かいね」
「あ〜、ぬくぬくして気持ち良い〜」
道中と池野が、気持ち良さそうにそう言った。
池野の方は、足を浮かせて上下に動かしている。
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ここで色んな事を、二人から聞いた。
二人共、性転換手術を中学の夏休みに受けた事。
それ以前に、第二次性徴が始まる直前で、ホルモン療法を開始した事。
だから、女子の様な背格好やスタイルなのだとか。
特に胸やお尻が大きくなって、本物の女の子みたいな体型になったのである。
本人たちは、胸が予想以上に大きくなった事を、とても喜んでいた。
その変化が、性転換してから特に顕著になったそうである。
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そんな昼休みが終わると、教室に戻り、午後の授業を受けた。
午後は特に、ハプニングも無く過ぎて行った。
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「連絡事項は以上なので、ホームルームを終了する」
「きりーつ!」
「(ガタガタガタ)」
「れーい! ちゃくせき!」
つつがなく、今日の授業は終わった。
周囲が帰る準備をしている中。
「ねえねえ、優一くん。 クラブはどうするの?」
隣の道中が、僕にそう言ってきた。
もうそろそろ、クラブに入る猶予期間が終わりかけている。
入るつもりなら、もう入部手続きをしてければならない。
「どうしようかな〜。
帰宅部だと何だか虚しいし、かと言って疲れるのも嫌だし」
「なら、読書部に入らない?」
「読書部?」
「うん、この学校には、そう言うのがあるらしいの。
私は本を読むのが好きだから、入ろうと思うの」
「う〜ん、僕も本を読むは好きだし。
それに色んな意味でウルサクなさそうだし、良いか」
「うん、ありがとう〜♪」
僕がそう言うと、道中は嬉しそうな笑顔を浮かべた。
それを見て、僕は思わず胸がドキリとしてしまった。
「ねえ、瀬知も一緒にどお?」
道中は、後ろを振り返ると、後ろの席の池野にも尋ねた。
「う〜ん、私はホントは陸上とかに入りたかったんだけど。
どうせ、私達は大会に出場出来ないから、意味が無いしねえ」
そうなのである。
池野達、対象生は、そう言う大会では女子として出場出来ない。
それどころか、大会そのものの出場を拒否されるのである。
それも、表だっての拒否ではなく、裏で色んな圧力を掛けて、大会に出場出来なくすると言う陰湿ぶりであった。
だから対象生は、運動部には全く居ないのだ。
「良いよ、美咲が入るのだから、私も入るよ」
「ありがとう、良かった〜、二人共一緒に入ってくれて」
そう言って、道中は更に喜んだ。
更に喜ぶ道中の笑顔を見て、僕は、胸の動悸が収まらなくなっていた。
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3人がカバンを持つと、読書部の部室に向かった。
道中の話だと、読書部の部室は、図書室の準備室を利用しているそうだ。
そんな訳で取りあえず、図書室の方へ向かう事にした。
・・・・・・
「カラカラカラ」
図書室の扉を開くと、図書室特有の本の匂いがして来た。
中は、書庫が並ぶ、何の変哲もない図書室であった。
数人の生徒がいる中を、僕たちは静かに進んでいく。
そうして、カウンターの横に準備室らしき部屋の入り口が見えたので、その方向に向かった。
そして、準備室の入り口にノックしようとした所。
「ん、準備室に何か用なの?」
カウンターに座っていた女子生徒が、そう言って立ち上がった。
その女子生徒は、前髪と毛先を切り揃えた姫カットで、眼鏡を掛けた。
第一印象としては、委員長と言う言葉を思い起こさせる人である。
その女子生徒は、3年生の上履きを履いていたので、先輩になるはずである。
「あ、はい、読書部に入部しようと思いまして」
僕は、そう答えた。
「え、そうなの? やったっ!」
「「「えっ!」」」
そう言って、その女子生徒が小踊り(こおどり)しながら喜ぶので、僕たちは呆気にとられた。
「あっ、ごめんごめん。
私は、三年の美山 洋子で読書部の部長をしているの」
「えっ、部長さんですか?」
「うん、そうそう、読書部の部員は図書委員も兼任しているから。
今は図書委員の仕事をしてるのよ」
そんな事を言った、読書部の部長こと美山先輩。
「で、で、アナタたち、入部希望者なの?」
「3人ともそうですけど」
「やった、これで今年は、降格を逃れることが出来た〜!」
「そうなんですか?」
異様なテンションの美山先輩に、道中が尋ねてみた。
「そうなのよ、1年がまだ入ってなくて、1年が2人以上、入らないと部じゃなく同好会に降格する所だったのよ」
そう言って、浮かれる美山先輩。
「あっ! ちょっと待って」
一旦、そう言って、美山先輩が準備室に入ると、3枚の紙を持って、戻ってきた。
「これは、入部届だから、これに名前を書いて顧問の先生の所に持って行ってちょうだいね♪」
先輩が、満面の笑みを見せながら、僕達に紙を手渡した。
「「「はははは・・・」」」
僕達は、浮かれまくった先輩に苦笑いを浮かべると、その紙を受け取った。