第17話 何をこだわっているの!
ある日の休憩時間。
「ねえ〜、道中さん」
私が後ろを向いて瀬知と話をしていると、横から声がした。
そちらをみると、そこには良く見るクラスメートの顔があった。
その娘は眼鏡を掛けた、ボブと言うよりおかっぱと言う方が、しっくり来る髪型の娘である。
「ちょっと隣、良い〜?」
その娘は、参宮 菜美と言う娘で。
もちろん、対象生で、すでに性転換手術済みである。
「うん、良いよ〜」
「ありがと〜」
そう言って彼女は、優一くんの席に座った。
優一くんは用があると言う事で、職員室の方に行っている。
なので空いている、彼の席に座ったのである。
・・・・・・
「ねえ、ねえ、道中さんと山成くんって、どこまで行っているの?」
「えっ!」
「いつも一緒にいて、仲が良いじゃない」
そ、そ、そんなあ・・・。
「良い所まで行っているけど、後、もう少しだよね〜」
「瀬知まで・・・」
「へえ、そうなんだ〜」
瀬知まで加わって、そんな事を言っている。
「でも、山成くんて良いよね」
「何で?」
「うん、ちょっと童顔で可愛いし、それに、私達にも気軽に話してくれるし」
「そうだね」
優一くんは、私と瀬知だけでなく、他の対象生の娘とも気軽に話をしている。
「あ〜あ、道中さんが狙ってなきゃ、私が山成くんを狙っていたけどなあ」
「えっ!」
「だって、可愛いし、私達の事をいつも考えてくれて優しいから。
私、男らしい子って苦手だな、特に”俺様”とか”俺に付いて来い”ってタイプは嫌い。
だって、小さい頃から、そう言うタイプから迫害されてきたから・・・」
それは分かる、私も小さい頃からそんな乱暴な子からイジメられて来たから。
対象生は、結構、周囲から迫害される事が多いから、男らしい子を苦手にしている娘がいる。
「ほら、早くしないと誰かに取られるよ、美咲」
「もお、瀬知ってば!」
「でも、アイツも変なこだわりを捨てれば良いのに・・・」
と、意味ありげな事を瀬知が言った。
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用事が終わり、職員室から教室に帰る途中。
「なあ、優一」
「ん、何?」
隣にいる、同じ用で職員室に行っていたクラスメートが言ってきた。
「お前、道中と付き合っているのか?」
「ぶっ!」
突然の言葉に、思わず吹き出した。
「な、何でだよ、騎士」
「だって、いつもアイツと一緒にいるだろ」
突然、変な事を聞いてきた男は、富家 騎士と言う、もろキラキラネームの男である。
「べべべつに、ただの友達だろ!」
「別に慌てなくても良いだろ・・・」
呆れた様に、そう言う騎士。
「俺な、最初、この学校に入る事になって、ガックリしたんだよ。
名目上、共学だけど、対象生しかいなくて女っ気が無いから、実質、男子校と同じかと・・・」
「まあ、そんな物だよな」
「でもな、対象生って、本物の女よりも良いって気付いたんだよ!」
「えっ!」
「だって、対象生って、本物の女よりも綺麗で女らしいから。
中学の事を思い出せよ、本物の女って、下手な男よりも柄が悪くて、乱暴だって事を。
俺なんか中学の時、女が机の上でミニスカ履いて胡座かいてるから、当然、中が見えるよな。
見える様な格好している癖に、思わず見たら、イキナリ胸ぐら掴まれて殴られた事があったぞ」
「はははっ・・・、それは災難だったな」
熱弁を振るう騎士に、タジタジになる。
しかし、騎士の言う事は良く分かると思う。
それは、僕自身も大筋でそう思う事であるから。
騎士ほどでは無いが、僕も、本物の女の子から嫌な思いをした事がある。
「じゃあ、優一、道中とは付き合ってないんだよな」
「同然だろ」
「それなら、俺が道中を狙うかな」
「何!」
「だって、道中は、女の子として見たら、清楚で美人で可愛いし、お淑やかで優しいし。
もう、本物の女では絶滅した、大和撫子だぞ」
「・・・」
確かに、道中は女の子として見たら、最高の娘だ。
しかし、元男だと思うと、少し引いてしまう部分が出てくる。
だが、僕は、騎士の言葉を聞いて何だか、カッとしてしまう。
「騎士、アイツには手を出すな」
「お前、付き合ってないんだろ、なら・・・」
「手を出すな!」
「わっ、分かったよ・・・」
カッとしたと思ったら、いつの間にか騎士に詰め寄っていた。
僕は道中を取られると思ったら、途端に惜しくなったのだ。
元男だからと言いながら、取られると思うと惜しくなる。
我ながら、都合が良過ぎるとは思う。
”自分の気持ちに目を向けていない”
前に、池野の言った言葉を思い出した。
僕はヤッパリ、そうなのだろうか・・・。




