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第13話 大人しい人を怒らせない方が良い

 その日の放課後。



 「カラカラカラ」



 図書室の扉を開けると、僕と道中、池野の3人が図書室に入った。


 放課後だと、休み時間ほど人がいないらしいそうだが。

それでも、図書室には、何人かの人間がいた。


 その中を静かに進みと、カウンター横のドアの前に立った。



 「へえ、あなた達が新入部員なの〜」



 と、カウンターから、声がした。


 見ると、カウンターにはセーラー服を着た、少々釣り目がちな目で、ショートカットの生徒がいた。


 上靴を見ると、2年生である。


 何だか毎回、同じ展開に、流石に飽きてきた。


 最初の日から、2回ほど来たけど。

その度ごとに、この様な感じで、新しいメンバーと顔合わせをする事になる。


 ちなみに、初日に、カウンターで合って、結局、挨拶しそびれた。

お下げ髪の先輩は、菊水(きくみず) (しずく)と言うそうだ。



 「私は、竜川(たつかわ) みちるって言うの、よろしくね。」


 「僕は、山成優一です、よろしくお願いします」


 「私は、池野瀬知です、よろしくお願いします」


 「私は、道中美咲です、よろしくお願いします」


 「中に入って、部長と副部長が待っているよ〜」



 そう言って竜川先輩は、カウンターへ戻って行った。


 カウンターにいたのなら、多分、今日は図書委員の当番の日なのだろう。


 僕達は、カウンターに戻った竜川先輩を見ると、そのまま準備室へと入って行った。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「(コンコン!)」


 「「「失礼しま〜す」」」



 ドアをノックした後、そう言って、準備室へと入った。



 「やっと、来たねえ〜」


 「まってたよ〜」



 テーブルに座っていた部長と、川流先輩が。

準備に入る僕達を見て、そう言って返してくれた。



 ・・・・・・



 あれから部に来る様になり、部長から色々と説明を受けていた。


 読書部は、全員、なぜか対象生で、当然、僕が入ると一人だけの男子になる。


 しかも、対象生の部員は、みんな、性転換手術をしているそうだ。


 ついでに聞いた話だと、この学校の対象生には、性転換手術をしている娘の割合が、多いとか。


 これは、この学校にワザワザ入学するくらいだから。

対象生の親には、そう言う事に対する理解がある事と、関係しているみたいだ。


 まだ、性転換していない娘は、遅くホルモン療法を開始したか、理解の無い親のどちらかだと言う。


 特に、マッチョ系の対象生とかは、話を聞くと、親と揉めてるとか言う話が多いらしい。


 だからだろう、初日に出会った菊水先輩や、今日会った竜川先輩も、タイプは違えど、どこをどう見ても本物の女子にしか見えない。



 ・・・・・・



 準備室に入ると、僕達は、それぞれテーブルに座った。


 僕の隣には道中、その隣には池野、なぜか、いつもその順番であった。

 


 「(カタッ)」



 それを見た部長が、おもむろに立ち上がり、それから僕の方に来ると。



 「(ガバッ!)」


  ”えっ!”



 イキナリ、僕の首に抱き付いてきた。



 「ぶ、部長! イキナリ、何を!」


 「えへへへっ」



 突然の事で、僕は混乱しながら、そう尋ねるが、部長はタダ笑うだけだった。


 僕の後頭部には、柔らかなクッションが当たっていた。


 それに加え、部長は僕の頭に頬ずりをしている。



 「洋子、あんた、何してるのよ」


 「ん、折角入った、唯一の男子。

しかも、ショタっ気がある可愛い子だもの、これを()でないでどうするの」


 「あんたは、彼氏がいるんでしょ」


 「それはそれ、これはこれ」



 と川流先輩が(たしな)めるが、それにも構わず、部長が僕に抱き付きながら頬ずりをする。


 後頭部に柔らかなクッションを感じた僕は。



 「ぶ、部長〜、胸が頭に当たってます」


 「ふふふっ、ワザと当ててるのよ。

どお、天然物のオッパイは」


 「て、天然物?」


 「そうよ、パッドも入れてないし、豊胸手術もしてない、正真正銘の生乳よ」



 何か、以前も、池野が同じ様な事を言ってたな。

対象生には、何か、胸に対するコダワリがあるのだろうか?



 「部長、ダメですよ、一年生をからかっては」



 僕の隣に座っていた、道中がそう言った。


 その口調は穏やかだが、しかし・・・。



 「ひいっ!」



 部長が小さく悲鳴を上げると、僕から急いで離れる。


 道中は、静かに笑顔を見せているが、道中の背後には般若が見えた・・・。



 「(ズザザザザーー)」



 川流先輩同様、部長を嗜めようとした池野が。

道中の般若を見ると、椅子に座ったまま、急いで離れる。


 少し離れた川流先輩も、道中の般若を見て顔を引きつらせる。



 「冗談だから、冗談、だから怒らないで・・・」


 「どうしたんですか部長、私、怒ってませんよ」



 にこやかに、そう言うが、誰がどう見ても、激怒している様にしか見えませんよ。



 「・・・・・・」



 道中は僕の方を見る。


 僕は何もしてないのに、何だか激しく責められている気がしてしょうがない。


 ”普段大人しい人を怒らせない方が良い。”


 今日は、その言葉の意味を、心の底から知ることになってしまった日であった。



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