第12話 好きになった理由
それから数日経った、ある日。
「ねえ、今度の連休にドコかに行かない?」
「ふぇっ?」
「ん?」
昼食が済んだ、休憩所のベンチで、池野が急にそう言ってきた。
その言葉に、道中と僕は、声を出した。
特に道中は、なんだか変な声を出していた。
「誰と行くの?」
池野の急な言葉に、僕はそう聞いてみた。
「私と美咲とあなたで」
「他には?」
「ん、今回は3人だけで。
あなたを入れると、他の娘達はまだ、あなたとは親しくないし。
それに私達は、他の男の子とは親しくないから」
まあ、そうだよなあ。
僕は、道中、池野以外の対象生の娘とは親しくないし。
道中と池野は、僕以外の男子とは親しくは無い。
「それで、ドコにいくの?」
「ん〜、人が多いけど、遊園地でどうかな?」
遊園地かあ、小学生以来かなあ。
「僕は、別に良いよ。
小学生以来、全然、行ってないから」
「美咲は?」
「うん、私も良いよ」
「じゃあ、遊園地で決まりだね」
そんな訳で、今度の連休に、遊園地に行く事に決まった。
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昼休みが終わって、午後の授業が始まった。
そうして、五時間目の授業が終わった休憩時間。
私と瀬知の二人で、連れ立ってお手洗いに行った帰りに、廊下で歩きながら、二人で話をしていた。
ちなみに、この学校のお手洗いは、一応、男女、同数あり。
私達、対象生は女子トイレを使う事が出来た。
「ねえ、美咲」
「なに、瀬知?」
「私、昼間言ってた遊園地、来ないから」
「えっ!」
なぜ? 突然、言い出した本人が、そんな事を言うのだろうか。
「何でなの、言い出したのは瀬知でしょ?」
「いやね、あなた達を2人きりにしたいから」
「えっ?」
一体、どう言う事なの・・・。
「美咲、あなた山成の事が好きなんでしょ」
「・・・」
「見ていれば分かるわよ、あれだけ、あからさまだから」
「・・・」
私は、瀬知の言葉を聞いて、頬が熱くなった。
「それに、山成も美咲の事を好きだと思うよ。
ただ、何かに、こだわっているだけで。
何にこだわっているか、なんとなく分かるけどね」
えっ、優一くんもそうなの?
「だから、二人の距離を縮める為にも、デートでもしなさいな」
「で、デート!」
優一くんと、デート・・・。
「そう言う訳で、頑張りなさい」
「う、うん・・・」
そんな訳で、3人で遊園地に行くはずが、優一くんとデートをする事になってしまった。
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それから、六時間目が始まった。
私は授業中、チラチラ、優一くんの方を見ていた。
休憩時間に、瀬知の言葉を聞いたからだ。
そして、優一くんを見ながら、彼の事を考えていた。
”どうして、こんなに好きになったんだろうか”
初めて見たのは、入学式の時だった。
式の時たまたま、彼を見たのである。
その時は、同じクラスなんだなと思っただけで、その他には、特に何とも思わなかった。
・・・・・・
しかし、こんなに親しくなったキッカケは。
式の翌日の朝、遅刻しそうになった時、優一くんと偶然ぶつかった事だった。
その時、式で一目見ただけだったけど、なぜか同じクラスメートだとすぐに思い出した。
でも、彼は、私が同じ学校だとは気付かなかった。
結局、一緒に走り、校門に入ってから、やっと気付いてもらった。
それをキッカケにして、教室で親しく話をする様になった。
私は今まで、こんなに普通の男の子と親しくなった事が無かった。
今までは、瀬知の様な同じ境遇の娘か、小学校低学年くらいまでは女の子と親しくはなれたけど、男の子とは、親しくなれなかった。
優一くんは、とても優しい。
それに彼は、私に笑い掛けたり、恥ずかしがったりと、他の男の子達が私には見せない顔を、私に見せた。
そうやって、いつも近くにいる内に自然と好きになっていった。
しかも、それが一ヶ月にもならない期間で、そうなった。
・・・・・・
私は、本物の女の子みたいに、男らしい男の子は苦手だ。
なぜならば、昔から、そう言う男の子からイジメられてきたし、傷つけられて来たからである。
そう言う男の子は、男らしさに異常にこだわり、そうじゃない者を見つけると排斥するからだ。
中には、自分より弱い者をイジメて、相手が苦しむのを楽しむ様な子もいたりする。
それに、そう言う男らしい男の子は、乱暴だし。
私はそんな男の子よりも、私の気持ちを考えてくれ、一緒にいて心が安らげる、優一くんみたいな男の子が好きなのだ。
私が、彼を好きになったのは、それが理由だからだと思う。
「(カリカリカリ)」
私は、隣でノートにシャープペンを走らせる優一くんを、いつの間にか眺めていた。
私は、そんな事を考えながら、彼を眺め続けていたのであった。




