第11話 矛盾する思い
僕は、先輩達の誤解を必死で解いた。
「まあ、”今は”友達って事ね」
でも部長は、僕が説明したのにも関わらず、そんな事を言った。
あれだけ言っても、完全には誤解が解け切っていない。
結局、疲れ果てた僕は、説明するのを諦めた。
・・・・・・
「でもね、そんな事は珍しくないよ」
と、テーブルに座っていた、川流先輩がそう言った。
「ん? どう言う事なんですか?」
川流先輩の言葉を聞いて、池野が尋ねていた。
「いやね、この学校には、対象生と男子のカップルが結構いるのよ」
えっ! そうなんですか・・・。
「うん、何でも、本物の女子よりも女らしくてお淑やかって事で、付き合っている人間がいるの。
そう言う人間が言うには、最初、この学校に入学してガックリしたけど。
今では、下手な共学校に行くより、返って良かったって」
それは、何となく分かるなあ。
中学の時とか、下手な男子よりも女子の方が、粗暴で柄が悪く。
中には、言動が野郎としか思えないのもいたから。
だから、僕は、モテないから女の子が近づかないのもあるけど。
乱暴な娘に近づきたくないと言うのも、あったんだよな
「かく言う、私も、実は恋人がいるの」
「「「えっ!」」」
そんな事を考えていた所、突然の部長の発言に、僕達3人が驚いた。
「それも、相手から告白されてね」
「ホント、端で見ているコッチが、”爆発しろ”と思うくらい仲が良いよね」
そんな事を、部長と川流先輩が話している。
「そうなんですか・・・」
二人の会話を聞いていた、道中が、川流先輩にそう尋ねてきた。
「うん、いっつもベタベタして、くっ付いたまま離れないのよ」
そう呆れた様な溜め息を吐きながら、川流先輩が言った。
「美咲もそうなれば良いね」
それを聞いた、池野が道中にそう声を掛けた。
それを聞いて道中は、顔を赤らめた。
”何でそうなるんだよ〜”
池野の言葉を聞いた僕は、心の中で、そうつぶやく。
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初日の挨拶を済ませた僕達は。
「まあ、初日だから、今日は帰っても良いよ」
と言う、部長の言葉で、取りあえず今日は帰る事になった。
いつも通り、廊下を通り、玄関で下履きと履き替え、玄関を出る。
「じゃあね、また明日!」
「うん、また明日ね〜、瀬知!」
「んじゃね〜!」
そうして校門で、いつもの様に池野と別れた。
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今、僕は、道中と一緒に帰っている。
並んで歩いていると、時々、風に乗って、甘い匂いが流れてくる。
その匂いを感じると、また、心が落ち着かなくなった。
しかし、それは決して不快な物では無かった。
・・・・・・
僕は、隣の道中の横顔を見る。
毎日の様に見る顔だけど、どこをどう見ても、元男とは思えない。
そう、元男だと教えられなければ、多分、本物の女の子だと思うだろう。
最初、出会った時も、本物の女の子だと信じて疑わなかった。
普通なら、こんな可愛い女の子と知り合いになれて。
しかも、友達になったら、とてもラッキーだと思うだろう。
でも道中は、元男だったのだ。
・・・・・・・
僕は、対象生とかに、別に偏見とかを持ってる訳でない。
別に友達として付き合う分には問題は無い。
でも、それ以上になると言うと、何となく引っ掛かってしまう。
だが、そう思う一方、そんな、道中に引かれている自分もいるのだ。
道中と一緒にいると、落ち着かなくなる事もあるが。
居心地の良さも感じる事も多いのである。
道中は、綺麗で可愛く、お淑やかで優しく、とても魅力的だと思うけど。
それは、女の子だと思うからである。
しかし、元男だと思うと、一歩引いてしまう部分が出て来る。
けれど、女の子としては最高だと思うと、引かれてしまう。
「ん、とうしたの? そんなに私を見て・・・」
そう言いながら、道中が少し恥ずかしそうに言ってきた。
「い、いや、何でも無いよ」
僕は慌てて、前を向いた。
僕は道中と一緒に歩きながら、矛盾した思いに悩んでいたのだった。




