story.05 『特別クエスト』
エルフの女の子は泣きじゃくりながら、今までにあったことをぽつりぽつりと話し出した。
女の子の生まれ故郷『エルフの村』には、『エルフの瞳』というそれはそれは美しい宝玉があるのだそうだ。この『エルフの瞳』は村の宝であり、村を外敵から護る守護結界を張る役割を担っていた。
守護結界は一度張れば何年か持つのだが、古くなれば崩れてしまう。そのため、崩れる前に結界を張り替えなければならない。丁度今年が結界を張り替える時期だったのだが、彼女はその『エルフの瞳』を、恋人だった男に騙されて村から持ち出し、その男に渡してしまったらしい。
案の定脆くなった結界は破られて、村はその女の子が騙された男の仲間たちに襲われた。
「……私達エルフ族は昔、人間に奴隷として扱われてひどい目に遭ってきたの……小さい頃から、人間を信じるなと教わって来たわ……でもあの人は、あの人だけは違うんだと思ってた……」
ぼろぼろと綺麗な翠の瞳から大粒の涙がこぼれる。静かに彼女の話を聞いていたハルは、黙ってしゃがみ、その場に座り込んだままの彼女と同じ目線になった。
「宝玉は奪われて、村はぐちゃぐちゃ……全部私のせいだ……!!」
「――――なんであなたのせいになるの?」
「え……」
「どう考えてもその男が悪いよ!こんな小さな子を騙すなんて、信じらんない」
放心する女の子にハルは笑いかけて、スカートのポケットに入っていたハンカチで彼女の涙を優しく拭った。
こんなに泣いちゃって……かわいいのに瞼が腫れたらどうすんの。どこの誰だか知らないけど、最低すぎる。
「そんな奴、私がぎゃふんと言わせてあげる!ね、僧侶くんもそう思うでしょ?」
「俺に話を振るな。騙される方も悪ぃだろ」
「……僧侶くんって本当に僧侶なの?」
「うるせぇ貧乳」
「だっ…だから、貧乳言わないでよ!」
ほんとにデリカシーの欠片もないんだから…!
ハルと僧侶が言い合っていると、隣からくすくすと小さく笑う声がした。二人が喧嘩をやめて視線を横にずらせば、女の子が口元に手を当てて可愛らしい笑みを漏らしていた。
「(可愛い…!!女のわたしでもずきゅんときた…!!)」
「あんた達、変わった人間ね。でもそんなこと言ってると、これからエルフの村を救う羽目になるけど、いいの?」
「えっ」
「私の名前はエルシア。……準備ができたら此処に来て。村に案内するわ」
エルシアと名乗った女の子はまた森の中へ戻っていった。今度はハルが放心状態になり、そんな彼女のようすを見た僧侶が長く重たい溜息をついた。その溜息の意味が分かりかねていると、彼はめんどくさそうにハルを見下ろして告げた。
「お前はなんでこう、キングベアの時といい、面倒なもんを寄せて来るんだ」
「え……どういうこと?」
「どうやらさっきのエルフのガキはクエスト『エルフの村を救え』のNPCらしい」
「えぬぴーしー……?」
「『特別クエスト』を発生させる面倒な連中の事だ。あのクエストの推奨レベルは確か35レベル以上……12レベルのお前じゃ死にに行くようなもんだ。無視するぞ」
僧侶はそう言ってキッドベアの生息地へと踵を返した。ハルは慌てて立ち上がり、その手を掴んで止める。彼はイラついたようすで振り返り、その碧眼で睨みつけた。
「……いい加減にしろ」
「放っておけないよ!」
「キッドベアも怖がってるお前が、特別クエストなんざこなせるわけねぇだろうが」
「それは…そうだけど……!でも、私は一人じゃないよ!」
僧侶の鋭い眼差しに負けじとハルは彼の碧い目をまっすぐに見つめる。
「どんな傷も病も、全部治してくれるんでしょ?僧侶くんがいてくれるなら、きっと大丈夫だよ」
――――此処であの子を無視すれば、後できっと後悔する。
僧侶はまた眉間に皺を寄せて何かを言いたげに口を動かすが、結局何も言わずに前を向いて再び歩き出した。
「そ、僧侶くん!待って……」
「……分かったから喚くな。流石に二人だけじゃ特別クエストは無理だ。パーティメンバーを探しに行く」
「僧侶くん……っ!!」
なんだかんだいって、最後には私の意見を汲んでくれる。本当に、優しい人。
ハルは目を輝かせながら、彼の背中を追い掛けた。




