story.04 エルフの少女
ハルがこの世界に来てから、一週間と少しが経とうとしていた。
その間、わかったことがある。実は僧侶は見かけによらず、少し…否、とても優しい。
朝起きたらパンと飲み物を用意してくれているし、レベルをあげるためにクエストを受けるときもハルがヘマしてモンスターにやられそうになったら必ず助けてくれるし、怪我をすれば文句をだらだら言いつつも治癒魔法で治してくれる。相変わらず物言いは刺々しいままだけれど、ハルはもう彼のことが怖いとは思わなくなった。
「―――で?お前はいつになったらベビーベアから卒業できるんだよ。もうそのレベルになったらベビーベアじゃ全然経験値溜まらねぇだろうが。いい加減次の所行くぞ」
「や、やだ!!怖い死んじゃう!!」
「だから死なねぇっつってんだろ!この腰抜け!」
「ハイ前言撤回!やっぱりこの人怖いです!」
「ああ゛!?」
「ヒィイなんでもございませんんん…!」
銀色の髪の隙間からちらちらと見える眉間の皺がどんどん増え、碧眼が怒りに染まる。
そんなこと言われたって、怖いものは怖いんだから仕方ないでしょ!ベビーベアみたいな小さなモンスターでも最初はアッパーくらわされて死ぬとこだったんだよ!?やっと慣れてきたところなのに、また違うモンスターの相手をしろだなんて…そんな殺生な…!!
「お前は『剣の加護』があるから、僧侶の俺がいなくても簡単には死なねぇようになってんだよ。」
「『剣の加護』?」
「平たく言えば、ある程度の攻撃なら伝説の剣がダメージを軽減して護ってくれる。『救世主』の特権みてぇなもんだ。わかったら昼からキッドベア狩りに行くぞ。もうアッパーくらうなよへなちょこ」
「さ、さっきから腰抜けとかへなちょことか……!私にはハルっていう名前があるんだけど!」
「昼飯作るから手伝えのろま」
そういいながら僧侶は森の開けた所でお昼ご飯の用意をし始めた。今日は魚の塩焼きらしい。ちなみに食料は僧侶が持ってきたもので、お金も彼が出してくれているし、こういう面でもかなりお世話になっているためにムカつくことを言われてもあまり言い返せないのだ。
仕方なくご飯の用意を手伝って、焼けた魚を食べていると、僧侶が突然すくっと立ち上がった。そして木々の間をじっと見つめる。ハルは不思議に思って彼を見上げた。
「僧侶くん、どうしたの?」
「……」
「僧侶くん……??」
「……別になんでもない。お前はそこにいろ」
彼はそう言って森の奥へ消えてしまった。その後ろ姿を、ハルはむっすりしながら見送る。ほんと、なんにも教えてくれないんだから。
僧侶くんって何者なんだろう。銀色の髪と碧い瞳は珍しくて目を惹くし、額につけている瞳の色と同じ碧い宝石も少し気になる。そう言えば、伝説の剣にも同じような紅い宝石が鍔のところに埋め込まれてるよね…。
ハルがそんなことを悶々と考えていると、茂みをかき分けて進む音がして、僧侶が戻って来た―――のだが、その脇には小さな女の子が抱えられていて、びっくりしてその子と僧侶を交互に見た。
女の子は長くて綺麗な金髪をツインテールにしており、その翠色の瞳はとても不満げだ。そして何より耳が尖っている。兎にも角にも、見たことのない人物の登場にハルは戸惑いを隠せなかった。
「僧侶くん……その子誰?」
「木の上から俺達を弓で狙っていた」
僧侶がそう言えば女の子はフンと鼻を鳴らしてそっぽを向く。ハルは僧侶に抱えられたままの女の子に近づいて、同じ目線になるようにしゃがんで、そしてつい吹きだしてしまった。
「あはは、僧侶くんたら嘘ばっかり!こーんな小さな子が、そんなことする訳なぁっ!?」
頭を撫でてあげようと手を伸ばしたら、唾を顔面に吐き掛けられた。誰にって、そりゃ、目の前の女の子に。笑顔のまま固まるハル。また鼻を鳴らして私を蔑んだ目で見る女の子。そんな二人を黙って見おろす僧侶。
「人間風情が、気安く触れようとしないでくれる」
「え゛っ」
「私は、あんたみたいなバカっぽくてふわふわした人間、嫌いなのよ。」
突然美少女に唾を吐きかけられたと思ったらそう言い捨てられて、ハルは頭が上手くついていかなくなっていた。しかし僧侶が女の子を乱暴に地面に投げ捨てたので、ハッと我に返る。
「その人間風情に簡単に捕まったのはどこのどいつだろうな」
「なんですって……!!」
「お前、エルフ族だな。人間嫌いのエルフ様が、こんな人里に近い所で何してる。なんで俺達を弓矢で狙った」
相も変わらず冷たい口調で女の子に話しかける僧侶。エルフ族……じゃあこの子は、人間ではないってこと?
「……あんた達…あいつらの仲間じゃないの」
「あいつら?」
「……私達の…エルフの村を襲った連中よ…!」
じわりと、女の子の翠色の瞳に涙が滲んだ。




