story.03 この世界のこと
「嫌だ、絶対嫌だ!!」
「…うるせぇ……」
「野宿とか、不潔だし、怖いし、痛くて寝れないし、絶対に嫌!」
きらきらと星が瞬く夜空の下、野宿に猛反対するハルが熱弁していた。しかし目の前の僧侶は彼女を冷めた目で見下ろすだけで、全く応じなかった。彼は木に凭れ掛かるようにして座り、その辺にあった木の枝を拾い地面に不思議な図と文字をさらさらと描きだした。それが少し気になって、ハルは騒ぐのをやめて彼の隣に座って覗き込む。
「何してるの?」
「結界を張る。魔物共が寄って来ねぇように」
「まっ……魔物……!?魔物って……昼間のでっかいクマとか……!?」
「この辺はもっとレベルの高いのがいるだろうな」
「ちょっ……そんなのがうろうろしてるところでおちおち寝れないよ!」
「だから結界張ってるんだろうが……」
バカと話してると疲れると一言ぼやかれて、ハルは頬を膨らまして不満の意を表すが、見事にスルーされた。悪い人ではないとは思うのだけれど、やっぱり態度が粗暴だし言葉遣いが荒いしおまけに目つきも頗る悪い。
それでも今ハルが頼れるのは僧侶だけなわけで。だからここで喧嘩ばかりしていても仕方がないのだ。ちゃんと、仲良くしなくちゃ。いつ帰れるか、分からないんだし……
ハルは己にそう言い聞かせて、僧侶にずいと迫った。
「ねぇ、そう言えば僧侶くんはどうして私と一緒に来てくれるの?」
「……教える気はない」
「これから一緒に旅するんだから、ちょっとぐらい身の上を教えてくれても」
「何度も言わせるな。教える気はない」
またしてもきつく言い返されて、ギロリと睨まれてしまった。何だろうこの歩み寄る度に頬ぶっ叩かれてる感…痛い…心が痛い…
項垂れているハルをちらりと見て、少し間を置いたあとに僧侶は静かに告げた。
「……お前にいくつか言っておくことがある」
「え?」
「その腰に差している剣―――『伝説の剣』は、この世界にいる間、お前の命綱となる。肌身離さず持ってろ」
「えぇ……このダサい剣が……?」
「お前がダサくしてんだろうが。『伝説の剣』に花なんか生やした救世主、前代未聞だぞ」
ハルはぐっと言葉に詰まった。そうでした。私の心の状態が、この剣に反映されるんでした。つまりこの剣の悪口を言うとブーメランになるんでした。
心に深い傷を負ったハルなどお構いなしに、僧侶は次々とこの世界の説明をし始める。
まず、国。この世界には大きな国が三つあり、北のノーゼライ、西のエリーニャ、東のタタランカ―――いずれの国も王政を執っており、王と王女が政権を握っている。かつては南にも国があったが、魔王に滅ぼされて今は魔王の住む魔王城があるらしい。
ちなみに今いるのは西のエリーニャ王国で、緑豊かで魔物も他の国と比べて少なく、比較的平和な国だそうだ。
次に、職種。この世界には数多の『冒険家』が存在し、皆それぞれに合った職業を選び、仲間を集めてパーティを組み旅をする。弓使い、僧侶、格闘家、魔導士などなど。そして――――『伝説の剣』に選ばれ、異世界からやって来た『冒険家』を特別に『救世主』と呼ぶ。魔王を倒し、世界を救う神聖な存在。
「そ、そんな御大層なものに私はなれるのでしょうか!?」
「……千年前、お前と同じように伝説の剣に選ばれ、初代魔王を倒して自分の世界に帰った奴がいる。民衆はそいつのことを『救世主』と呼んで崇めた……本人はただ、自分の世界に帰りたかっただけなのにな……お前も自分が元の世界に帰ることだけを考えていればいい―――誰だって、自分が一番可愛いんだからな」
そう言う僧侶は、少し憂い顔だった。僧侶のそんな顔を見るのは初めてで、ハルは一体どうしたのか聞こうとしたが、彼はすぐにいつものしかめっ面に戻り、ハルに布団替わりの大きな布を投げつけた。
「へぶっ」
「わかったら寝るぞ」
「えぇ!?……と……年頃の男女が同じところで寝ちゃいけないってお兄ちゃんが言ってた……!」
「誰がお前みたいな貧乳襲うんだよ」
「ひっ……ひん……っ!?」
くだらねぇこと言ってないで寝ろと一言吐き捨てられ、ハルはむっすりしながら布にくるまり僧侶に背を向けて寝転がった。
「(くそぉ…!!やっぱり仲良くなんてできないかもしれない……!)」




