story.21 龍玉の叫び
突然激しい揺れと共に現れたドラゴンは燃えるように赤く見上げる程の大きさで、鋭い双眸でこちらを見下ろしていた。
「ぎゃああああでけぇええ」
「食べられちゃううう!!」
「…おい…離れろ…暑苦しい」
ハルとリュウは側にいた僧侶の両脇に引っ付き、真っ青になりながら叫んだ。町の人々もドラゴンを見るのは初めてらしく、酷く怯えている。一方でエルシアは眉間に皺を寄せながら、ドラゴンをじっと見つめた。
「(なぜこんな人里にドラゴンが……。ドラゴンは通常、人のいない山岳に住んでいるはず……)」
そこまで考えて、ふとドラゴンの額に紋章があるのに気が付いた。エルシアはそれですべてに合点がいき、驚いて口を開けたままでいる皆の方を振り向いた。
「みんな落ち着いて。額に紋章がある……あの龍は『守護龍』よ。襲って来たりしないわ。」
「しゅ…『守護龍』?」
『――――この紋の意を知るとは……エルフ族か。昔から物知りな連中よ』
ハルが首を傾げていると、なんとドラゴンが口を開いた。その低く響く声音は町中に響き渡る。
『いかにも。我は龍谷の守護龍なり。龍玉の叫びにより目覚めた。リュウ、お前に力を貸してやろう』
ドラゴンはリュウの方を見下ろしながら物々しくそう告げたが、当のリュウはドラゴンが喋ったことで一層恐怖が増したらしく、僧侶に引っ付き離れなくなった。
「ぎゃああああしゃ、しゃしゃ喋った…!!!喰われるのか俺!?俺食うのは好きだけど喰われるのは嫌だぁああ」
「リュウ!貴方話聞いてなかったの!?」
騒ぐリュウに、リンリーが眉の端を吊り上げて腰に手を当てながら言った。そして今度はドラゴンを見上げて、胸の前で手を組みながら瞳を輝かせる。
「『守護龍』……一度、小さい頃におばさんが話してくれたことがあるわ…でも、子どもに聞かせるおとぎ話だと思ってた……本当に実在したなんて……!」
『……我は千年ぶりに目覚めた。無理もなかろう』
リンリーはそれを聞いて再びリュウを振り向き、嬉しそうに声を上げた。
「やったわねリュウ!!守護龍様がお力を貸してくださるのなら、すぐにみんなを助けられるわ!」
「そうかぁ…?ただの手と足が生えたヘビじゃねぇか……」
ドラゴンを見上げておずおずとそう言えば、ドラゴンもまたリュウを見つめて、そしてその手に持っている龍玉に視線を移し少し懐かしげに目を細めた。しかしすぐにその表情は厳しいものになる。
『……なんだ、これは……!』
「守護龍様……?」
『みな、伏せろ……!!』
「え!?」
――――刹那、ドラゴンが口からこちらに大きな弾を打って来た。それはハルたちがいたところに命中し、町の者も含め皆が爆発の衝撃で四方に吹っ飛ばされる。ハルは剣の加護があり服が汚れただけで済んだが、他の者はみなケガをして血を流していた。
僧侶は小さく舌打ちをしながら駆け出し、地面に勢い良く手をついた。そこから半透明の結界が展開されて、みんなのケガも癒していく。
「また攻撃してくる可能性がある!全員結界の中に入れ!町の奴らも全員だ!!」
「リンリー…!!リンリー、しっかりしろ!!」
リュウの悲鳴に似た叫びがして、ハルとエルシアは慌てて駆け寄った。どうやら先程のドラゴンの攻撃で崩れた建物の破片が頭にあたり、気絶してしまったらしい。僧侶の結界のお陰でケガは治癒されているが、目を覚ます気配がない。
「リンリーちゃん、しっかりして!」
「リンリー!」
「なんで…!?『守護龍』は攻撃しないはず…!それも、自分の守護する村の民なのに…ありえないわ…!!」
全員がパニックに陥る中、僧侶は結界を張ったまま辺りを見渡した。そして静かに口を開く。
「おい、チビ。弓矢持ってるか」
「…チ、チビってあんたねぇ…!!」
「十二時の方向 此処から見える森の茂みの中を弓で狙い撃て」
「は…?何言ってんのよ…!?あのドラゴンをなんとかしなきゃ……」
「いいから言う通りにしろ。俺が此処を離れたら結界が崩れる。」
「でも、そんなところを撃って何になるのよ!?」
エルシアのその言葉に、僧侶はまた目だけで辺りを捉えた。その瞳に、無数の水色の何かが映る。
「――――変な糸が、そこに集まってんだよ」




