story.02 暴力僧侶と初陣
エイゼルの厚意でお店の裏にある家に一晩泊めさせて貰えることになった。
あの目つきの悪い僧侶みたいなかっこうをした青年は、みたいな、ではなく本当に僧侶という職業に就いていて、傷や病気を治す魔法を使えるらしい。ほんと信じられない。何故か名前を聞いても教えてくれなかったので、ハルは彼のことを仕方なく僧侶くんと呼ぶことにした。
彼は明日になったらまた来ると言い残し、どこかに消えていった。エイゼルの話では、山奥の神殿に住んでいるらしい。神殿だなんて、いよいよゲームの世界のようだとハルは思った。
きっと明日になれば夢から覚めてると自分に言い聞かせて眠りについたのだが、翌日の朝、つまり今。
「……まったくそんなことはなかった…」
相変わらずそこはエイゼルの家で、ドアを開けるとエイゼルがフードの下からにやりと笑んで、もうあの小僧が来ておるわとかなりいらない情報を教えてくれた。そして赤いマントと『伝説の剣』と呼ばれている、赤い宝石が鍔に埋め込まれ何故か花が生えている少し大振りの剣を渡された。ハルはその剣を見て、腑に落ちないようすだった。
「え、ダサ…なんで伝説の剣に花とか生えてんの!?」
「伝説の剣は持ち主を選び、持ち主の心をその姿に映すと言われておる」
「…………」
「お前どんだけ頭の中お花畑なんだよ」
「言わないようにしてたのに!!……って…」
「小僧、いつからそこにおったのじゃ」
いつの間にか僧侶が部屋の中に入ってきていて、眉間に皺を寄せながらハルの前まで歩いてくる。
「遅ぇんだよ。こののろま女が……とっとと行くぞ」
「ぎゃあああひっぱんないでえええ」
彼に襟ぐりを引っ張られてずるずると引き摺られる。
ハルはエイゼルに助けを求めたが、妖しげにヒヒヒと笑われただけだった。やがてその姿も見えなくなった所で手を離され、そのせいで後頭部を見事に地面に強打した。立派なたんこぶができて痛みで半泣きになりつつも、ハルは僧侶を追い掛けた。
「ね…ねぇ!私の名前は森山春!あなたの名前も教えてほしいんだけど。そうだよ、自己紹介から始めよう!」
「必要ねぇ。そんなことしてる暇があるならとっとと行くぞ」
くっ……!私の歩み寄る努力を簡単に蹴散らした……!!名前くらい教えてくれたっていいのに!
しかしながら、今のハルには頼れる人はこの僧侶しかいないのだ。不満が爆発しそうなのをなんとかこらえて、こちらのペースなどまるで考えずに早歩きで進む白い背を見失わぬよう追いかけた。
「どこ行くの?」
「……クエストだ。まずはレベルを上げる」
「くえすと?うわーまたまたゲームっぽい」
頭上でぴろろん、と可愛らしい音がして、よくゲームであるテロップのようなものが出てきた。そこには『初級クエスト:ベビーベアを倒せ』と書いてある。
「クエスト内容はベビーベア5体の討伐……雑魚中の雑魚だ。剣振り回してるだけで終わる。」
「そ……そうなの?」
「できなかったら相当鈍臭ぇからな」
またその碧眼にぎろりと睨まれる。ヘマすんなよと言われているようで、身が強張った。やっぱり怖いなぁこの人……。
クエスト発生位置まで行くと、可愛らしいぬいぐるみのような小さなクマがその辺をうろうろしていた。
「(あ……あれなら私にもできるかも……!)」
剣をゆっくりと抜く。大振りだけど意外に軽くて、簡単に構えることができた。
しかしその時だった。突然また頭上にテロップが出てきた。さっきの緑色の文字ではなく、赤色の文字で書かれてある。
「エリアボス・キングベア出現……?」
「―――おい、後ろだ!」
僧侶の少し焦りを含んだ声がして、後ろを振り返ろうとしたが、ドンと突き飛ばされて尻餅をつく。痛みに顔を歪めながら、視線を上にずらして目を丸くした。
そこには見上げる程大きなクマの怪物がいて、僧侶をその手に握りしめていた。
きっと私を庇って捕まっちゃったんだ……!
「わああああどうしよううう僧侶くんんん……!!」
「ピーピーうるせぇ!」
「だってぇえ……!最初からこんなでかいのとか聞いてないよおお…!」
「でかくても雑魚は雑魚だ、お前でも倒せる!」
彼は握りしめられて苦しいのか、いつもより二割増しで眉間に皺を寄せながらそう叫ぶ。
僧侶は、きっと攻撃できないのだろう。お兄ちゃんがやってたゲームでも、『僧侶』という職は回復専門で、攻撃はできない設定になっていた気がする。
「俺はまだお前みてぇなのが『救世主』だなんて、信じられねぇが―――必要なら、どんな傷も病も全部治してやる。だからとっととやれ!」
――――彼のその言葉を聞いた途端、何故だかとても安堵して、体が軽くなった。
ハルは意を決して剣を構え、キングベアの腹辺りに突き立てる。するとキングベアは煙のようになって一瞬で消え、自由になった僧侶がすたっと隣に軽く着地した。
「えぇえ!?めちゃくちゃ弱い!!すごい覚悟したのに…!」
「だから言ったろうが……雑魚相手にピーピー泣き喚きやがって、情けねぇ」
呆れたようにそういう僧侶。どうやら怪我は無さそうだ。ハルはほっと胸をなでおろしたあと、笑みを浮かべてお礼を述べた。
「ありがとう、庇ってくれて。僧侶くんって本当は優しいんだね!ただの無愛想で乱暴な人だと思ってた!」
「誰が無愛想で乱暴だ」
「痛っ」
ゴツンと一発頭に拳骨が落ちて、立派なたんこぶができた。なんで傷治す人に傷作られてるんだろうとハルは少し泣きそうになったが、同時に彼は根は悪い人では無いということがわかって、嬉しくなって小さく微笑んだ。




