story.18 五大宝玉
「おいババア。んなところから何の用だ」
不機嫌そうな声色でそう言いながら水面覗き込む僧侶。そしてその背に隠れていまだに涙目になり震えているハル。その両隣にはエルシアとリュウも同じようにして水面を覗き込んでいた。老婆はまたニヒルに笑んでから話し出した。
「相も変わらず失礼な小僧よのう。なに、少し言い忘れておったことがあっての」
「言い忘れていたこと……?」
「ふむ。よいか?ハルよ」
僧侶の背から顔を覗かせたハルに、エイゼルはものものしく告げた。
「魔王を倒すには、『五大宝玉』と呼ばれる五つの宝玉と、その宝玉の持ち主を探さねばならぬ」
「おばあちゃん結構重要なこと言い忘れてたね!?」
今頃になってそんなことを言い出すエイゼルにハルは頭を抱えたくなったが、水面の老婆はなんの悪びれもせずに言葉を続ける。
「案ずるな。もう手元に三つあるじゃろう。お主の持つ伝説の剣の『紅の宝玉』。小僧の額飾りの『蒼の宝玉』。そこのエルフの小娘が胸につけている『翠の宝玉』。鈍臭いお主にしてはなかなか早いうちに宝玉とその持ち主と巡り会えておるのう」
ハルは腰にさしていた剣を持ち上げて、鍔のところにはめられた紅の宝玉を見た。それは微かに輝いていて、そう言えばアクティアと戦った時、アクティアの結界を破ることができた時もこの宝玉が眩い光を放っていたことを思い出した。
エルシアもブローチ替わりにしている宝玉をハルと同じように見つめて、小さくつぶやいた。
「これ、そうだったのね…村にはただ村の大切な宝であるとしか伝わってなかったから、知らなかったわ」
「……おいババア、残りの二つはどこにある」
「他二つは行方が知れぬ」
「やっぱりそういうパターンかぁ~……」
大きなため息をついて落胆するハルに、エイゼルはまた意地悪く喉を鳴らして笑った。
「魔王討伐には五つの宝玉が不可欠。救世主ハルよ――――魔王を倒し、元の世界へ帰りたくば―――残り二つの宝玉と、その持ち主を探すのじゃ」
そう言い残して、エイゼルは消えて行ってしまった。最後に波紋が広がり、元の普通の水面に戻る。僧侶が立ち上がったので、他の三人もそれに倣って立ち上がった。そしてエルシアが先程のエイゼルの話を思い出しながら、要約する。
「つまり、ハルが紅の宝玉の持ち主で、僧侶が蒼の宝玉の持ち主。そして私が翠の宝玉の持ち主ってことかしら」
「そういうことらしいな」
「………」
「……リュウくん、どうしたの?さっきからずっと黙り込んで…」
「自分だけ仲間はずれだのなんだのめんどくせぇこと言い出すんじゃねぇだろうな」
僧侶の憎まれ口にも反応せず、リュウは顎に手を当てて何やら考え事をしているようだった。いよいよ心配になったハルが彼の顔を覗き込んだその時、リュウはいきなり大声をあげた。
「なぁ、俺その『五大宝玉』ってやつ、知ってるかもしれねー!」
「どういうこと?」
「エルの村と同じで、俺の故郷の村にも『龍玉』っていう村の秘宝があるんだ。それが本当に『五大宝玉』かどうかはわかんねーけど」
「その『龍玉』は今どこにあるかわかる?」
「お前の故郷にあんのか」
全員がリュウに注目する中、彼は頭の後ろをかきながらへらりと笑った。
「いやぁ~それがさぁ、村を出るときに餞別だからって貰ったんだけど」
「だけど?」
「旅の途中で食いもんに困って商人に売っちまった!」
あっはっはー!と豪快に笑いだしたリュウに、他の三人は固まってしまう。暫くしたのちに僧侶がすっと静かに拳をつくり、それをリュウの脳天に思いっきり振り落した。
「いってぇぇぇ…!!殴るこたねーだろ!!」
「本当に……あんたには呆れてばっかりよ、リュウ」
「だって俺にくれたってことはそういうふうに使えってことだろ!?俺は悪くない!!」
「開き直んな」
「いでっ」
リュウの頭のたんこぶが三段になり、いまだに煩く言い合う三人にハルは苦笑いを浮かべる。
まだまだ道のりは長そうだ。




