story.17 新章に入ると大体最初のNPCが現れる
舞い散る赤い血、おぞましい断末魔、積み重なる魔物の屍。それらを踏みつけて、彼女は不機嫌そうに吐き捨てた。
「―――次から次へとわらわらわらわら……退かねぇとぶった斬るぞ」
いつもより低い声でそう告げるのは、いつもより目つきの悪くなったハルだった。僧侶とハルの中身が入れ替わったまま魔物と戦闘になってしまい、機嫌が頗る悪くなった見た目はハル、中身は僧侶な救世主さまが伝説の剣を振り回した結果、みるみるうちに魔物が地に伏せていったのだ。
一方僧侶と入れ替わったハルは治癒魔法を使えるといったことは全くなく、何もできずにいた。リュウとエルシアと共に、伝説の剣片手に一人で大暴れする自分の姿となった僧侶を、安全なところで傍観する。
「すごいね…僧侶くん無双…自分の姿だから変な感じ……」
「もう魔王討伐もあいつ一人でよくね?」
「近づいたらこっちまで斬られそうだわ。これだから短気は嫌ね」
「あいつもお前には言われたくねぇと思うぞ」
「なんか言った」
彼女の活躍で周辺の魔物は一掃され、まだ生き残っていた魔物は彼女に恐れをなして逃げ出してしまった。戦闘が終わり、伝説の剣を鞘に納めて僧侶はさっさと歩き始めた。
「んな所で何してる。とっとと森を抜けるぞ」
「あんたが周りのことを考えずに剣振り回すから避難してたんでしょ」
「ま、まぁまぁエルちゃん」
不満そうに言い返すエルシアを宥めるハル。しかし傍から見れば僧侶がエルシアのことを宥めているように見え、またリュウが腹を抱えて爆笑することとなった。
「お前ら、今このパーティには聖職者がいねぇんだぞ。もっと危機感持ちやがれ」
「失礼な!私が僧侶くんの代わりをしてみせるよ!」
「お前は何もすんなバカ」
「いたっ」
胸の辺りで拳を作り意気込むハルだったが、後頭部をぱーんと叩かれて意気消沈してしまった。自分の頭殴ってるよ、とぼやいたがフンと鼻を鳴らされて終わってしまった。ハルは頬を膨らませ不満の意を表したが、ふと自分の後ろ姿を見てあることに気が付いた。
「僧侶くん」
「あ?」
「あんなに暴れまわったのに怪我一つないんだねぇ……それに服も汚れてないし……なんで?」
「おいおいハルちゃん、野暮なこと聞くなよ~!それは元に戻った時、ハルちゃんが嫌な思いしねぇようにこいつなりに考えていだいいだいいだい!!アイアンクロー!!」
ハルの姿とはいえいつもと変わらぬ頭に食い込む指。あまりの痛さに、リュウは涙目になった。その隣ではよくわからずに笑顔のまま首を傾げる僧侶の姿をしたハル。エルシアは彼らのやり取りの一部始終をジト目で眺めて、バカみたいと重い溜息と共に一言溢した。
暫く歩くと、無事に森を抜けることができた。すると僧侶とハルが一瞬にして元に戻り、ハルは自分の胸をなでおろしてほっと一息つく。
「あぁ~…戻れたぁあ~…」
「良かったなーハルちゃん!」
「うん!」
「湖があるな。ここでひとまず休憩するか」
森の開けたところに大きな湖があり、水辺には綺麗な草花がたくさん生い茂っていた。ハルはるんるん気分で駆け寄り、透き通った水面に自分の顔を映す。
「きれ~!!こんなに綺麗な湖、初めてみた!」
「ハル、落ちないでよ」
「分かってる分かってる」
エルシアの忠告に適当に返し、ハルは手を湖に少しだけ浸してみた。そこから波紋が広がり、それは次第に人影を浮かべていった。ハルは最初は気にならなかったが、どんどん鮮やかになっていく人影にびっくりして固まってしまう。人影はやがてフードを被った鉤鼻の老婆になり、更にそれは口元をゆるく弧に描いて不気味に笑った。
「ヒヒヒ……救世主ハルよ、久しぶりだのう」
水面に映った人物が、動いて、喋った。
ハルの顔から笑みが消え去り、代わりにさあっと縦線が入ってゆく。
「ぎゃあああああ――――――!!!」
悲鳴が森中に轟き、驚いた鳥達が一斉に空へ飛び立った。




