story.16 私は貴方、貴方は私?
エルフの村を出発したハル達一行は、野道をゆっくりと歩いていた。エルシアもついて来てくれるとは思っていなかったハルは嬉しくて、意気揚々と先頭を歩く。しかしふと歩くのを止めて、彼女は後ろを振り返った。
「そう言えばエルちゃん……村長さんが言ってた『黒い森』って?」
「ありとあらゆる生き物が死んでゆく森のことよ。私達は『黒い森』と呼んでいる。南の森からどんどん広がってるわ」
「南っていやぁ、魔王に占領されてるんだっけか?」
ハルはリュウのこぼした一言を聞いてこの前僧侶にされた話を思い出した。魔王は南の国を滅ぼしたのちにその国の王城を自分の物にし、そこにずっと居座っているのだ。
「魔王の魔力に森が汚染されて、どんどん北へ浸食が広がっているのよ。私達エルフの村がある森が飲み込まれるのも時間の問題だわ」
「…魔力だけで森を枯らしちゃうってどんだけ……魔王城って、行くだけでも大変そうだね……」
「だが行かねぇとお前は元の世界に帰れねぇぞ」
本来の目的を忘れるんじゃねぇと僧侶が冷たく言い放ち、ハルは唇を尖らせて不服そうに分かってるよ、一つ返事をした。彼は今度はエルシアの方に視線を移し、素っ気ない口調のまま続ける。
「おい、エルフのガキ。救世主のパーティは他の冒険者のパーティとは段違いの危険がある。分かった上でついて来てんのか」
「言われなくても分かってるわよ。大体ハルをあんたらみたいなむさい男二人と一緒に旅させるなんて絶対に誰が何と言おうと許されないわ。」
「えー!?俺も入ってんのかよ!」
「当たり前」
まだ言い合っているリュウとエルシアを横目に見てハルはくすくすと笑う。随分賑やかになったなぁなんて思っていると、目の前に森の入り口が見えた。
「この森を通って行く。森の中も魔物はいるから用心しろ」
「分かった!」
元気よく返事をして森の中を進んでいくハルだったが、やがて異変が起きた。足を止めて、さわさわと自分の胸の辺りを触る。そのようすを見てリュウとエルシアは首を傾げた。すると今度は後ろのほうにいた僧侶が自分の頬に手を当てて、悲鳴をあげた。
「な、なにこれぇぇええ!?!?」
「!?」
あの僧侶が大きな声、ましてや悲鳴をあげるところなんて見たことが無かった二人は、目を丸くして固まってしまう。今度は前を歩いていたハルがこちらを振り向き、いつものまんまるい目を少し伏目にしながら、僧侶を見た。
「……俺の姿でぎゃあぎゃあ騒ぐな。」
「!?え…ハ、ハル…?あんた何言って……」
「え、え、なんで私がそこにいるの!?どういうこと!?」
「いや、こっちが聞きてぇよ!?どうしたんだよ二人とも!」
三人が大パニックに陥る中、ハル(の中の僧侶)は落ち着いたようすで一つ重い溜息をついた。
「……この森はどうやら、サカサの森らしい」
「サカサの森……?」
高い魔力に満ち溢れ、超常現象が起きる可能性がある森、それがサカサの森だった。どうやらこの森のせいで、ハルと僧侶の中身が入れ替わってしまったらしい。
「サカサの森はこの世界の森に点在する。ランダムで発生し、特定できず、対策もできねぇ。森を出るまでこのままだ」
「えぇえ……」
ハルは僧侶の体となった自分の体をくるくると回りながら見て、涙目になった。それを見てから、ハルと入れ替わった僧侶が明るい茶の瞳で睨み上げた。
「あのな……俺だってこんな貧相な胸と入れ替わっちまって、とんだ災難だ」
「ひ、貧相とか…!ちゃんとBはあるもん!」
「あぁ゛?こんなもんギリギリBだろうが」
「ちょ、ちょっとぉ、触んないでよぉぉ……!!」
ついに泣き出してしまった僧侶の姿をしたハルは、エルシアに抱き着いた。エルシアは僧侶のことが嫌いだが、中身はハルなので複雑な気持ちでハルの背を撫でてやる。そのようすを見ていたリュウがついに吹きだしてしまい、大爆笑してはハルの姿をした僧侶にぶん殴られ、二弾のたんこぶを作った。




