story.15 旅立ちの日
エルフの村人から村を救ってくれたお礼として、朝ごはんに肉料理を奢って貰ったリュウは、それを貪るのに夢中だった。エルシアやハル、僧侶も各々エルフの村人と共に朝食をとっていた。そんな彼の元に、パーティのメンバーだったペペルとマグナ達が歩み寄る。
「やぁリュウ」
「おう、お前ら…もう調子はいいのか?」
「ええ、お陰様ですっかり良くなったわ」
それは良かったと笑うリュウに、メンバーは微笑み返して、そして眉をハの字にした。
「置いて行ったりしてすまなかった。君が倒れていることに気付かなかったんだ。」
「気づいた時にはもうこの村の付近で、引き返そうとしたらあの事件が起こってね」
「いーよ!もう恨んでなんかいねーし。でも、パーティからは外れさせてもらうぜ」
「え……!?」
驚くメンバーたちにリュウはニッと笑んでから、エルシアたちやエルフの村人と談話しながら朝食を取っているハルの方を横目で見ながら続けた。
「返さなきゃいけねー恩ができたんだ。」
「……そっか…」
「お前らには世話になったな。思えば、今まで旅してきた中で一番長くいたパーティだったよ」
「リュウがいなくなるのは寂しいけど……」
「それなら仕方ないね……」
その時パーティ全員が「これで食費に困らなくなる…!!」と心の中でガッツポーズを取ったのだが、リュウはそれにまったく気づかずに握手を交わして、マグナ一行はハルたちよりも先にエルフの村を旅立った。それを見送ったのちに、ハル達は自分たちも発つ準備をした。
荷造りをしながら、ハルはリュウの方を見て嬉しそうに笑いながら言った。
「リュウくんが一緒に来てくれるなんて、すごく嬉しいし頼もしいよ!」
「ふっふっふ、そうだろそうだろ!?あんな無愛想な僧侶と二人きりで旅とか、絶対つまんねーしな!いでっ」
「口動かす暇あんなら手ェ動かしやがれ」
「エルちゃんは……」
「……私は村に残って村の復旧作業を手伝うわ。」
それを聞いてハルは寂しげに笑んで、そっか、と呟いた。
「(やっぱり、まだ責任を感じているのかな……)」
しかし、そのしんみりとした雰囲気を引き裂くようにリズとルーカスがバァンとすごい勢いでドアを開けて部屋に駆けこんできて、会話に割って入った。
「何言ってるエルシア!お前も行くんだ!」
「あ、あんた達盗み聞きしてたの!?」
「村のことは俺らに任せろって、昨日も言ったじゃねーか!」
「バ……バカね!もともと村がこんなことになったのは私のせいなのよ。例え宝玉を取り返しても、その事実は変わらない。これも昨日言ったはず……」
「「バカはお前だ!!」」
「なっ……!」
綺麗に二人の口が揃い、エルシアはその気迫に少し気圧されてしまった。しかしエルシアも元々負けず嫌いな性格なので、眉間に皺を寄せながら二人にずいと迫り、怒鳴り返した。
「あんた達ねぇ!そんなに私を村から追いだしたいわけ!?」
「ちげーよ!!俺だってエルシアと離れたくねーけど、でも……!昔からお前、外の世界を見てみたいって言ってたろ!」
「村長の孫だから村から離れるわけにはいかないとかなんとか……ぐちぐち言ってないで、行けばいいんだ!村一の弓の名手のくせに、あんたはいつも肝心な所で弱気なんだから!」
言い合うエルフの幼馴染三人をハルがぽかんとしながら見ていると、不意にドアが開いて村長が入って来た。村長エミリアは孫であるエルシアをその翠の美しい瞳で見つめ、威厳に満ちた声音で告げた。
「エルフの戦士・エルシア。お前に任を言い渡す。救世主と共に旅をし、『黒い森』の侵攻を阻止せよ。」
「(『黒い森』……?)」
ハルが聞き慣れない言葉に首を傾げたが、エルシアはその意味を分かっているようで、おもむろに立ち上がった。
「おばあさま……でも、私が村の復旧作業をしないのは……」
「村の者全員が、お前をこの任に推薦した。この任に就きたいと言っていた戦士たちも、全員だ。これはお前が果たさなければいけない責務だ。よいな」
「……」
「世界は広いぞ、エルシア。お前にはまだまだ知らないことがたくさんある。しかも救世主殿のパーティに入れて貰えるのだ。これほど光栄なことはあるまい」
エミリアはハルの方を見つめて、目を細めて綺麗に笑った。ハルは目を丸くしたままのエルシアに困ったように笑いながら告げる。
「なんかよくわかんないけど……エルちゃんが来てくれるなら、わたし、すっごく嬉しいな」
「ハル……」
「じゃあ話まとまったな!エルシア、手を出せ」
「え……」
リズはいまだに困惑しているエルシアの手を取り、その手に翠の宝玉―――『エルフの瞳』を乗せて、ニカッと歯を見せて笑った。
「餞別!」
「なっ……ば、ばかっ何言ってるのよ!!これは、私が持っていていいものじゃ……」
「エルシアに持っていて欲しいんだ。これも村のやつら全員一致の意見な」
「村の守護結界も一度張れば百年はもつから、その間は村に宝玉がなくても大丈夫だからな。ま、百年経つ前には戻ってこいよ!」
「宝玉だけじゃねぇぞ、お前も無事に戻ってくるんだからな!」
エルシアは手の中でキラキラと翠色に輝く宝玉を見つめて、そして大切そうにぎゅっと胸に抱きしめ、瞼を閉じて静かに呟いた。
「ええ――――絶対に。」




