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放課後に雨が振ると、彼女は少し嬉しそうな顔をする

作者: 調彩雨

雨の日を少し明るい気持ちで過ごしたくて思い付いたお話です

 放課後に雨が振ると、彼女は少し嬉しそうな顔をする。




 多くの人が当たり前に出来る事を、苦手にする人は、周りにいないだろうか。

 例えば、皮付きのトマトを食べるとか、ウインクをするとか、自転車に乗るとか。


 彼女はそんな、誰でも出来そうな事を苦手にする人のひとりだ。


 女子高生の平均より少しばかり小柄で華奢な彼女は、傘を差すのがあまり得意じゃない。と言うか、下手だ。


 しっかりした骨組みの傘を持つと疲れるらしく、途中で傘が左右や後ろに傾いて来て雨除けの意味をなさなくなってしまうし、疲れない様な小さく華奢な傘だとバランス良く差せなくてどこかしら濡らしてしまう(彼女のお気に入りのリュックが犠牲になる事が多いのだが、仕方無いだろう。彼女の目は前に付いていて背後のリュックは見えないのだから)。


 そんな彼女を見かねて、放課後に雨が振った日は彼女のカレシである高塚君が、彼の大きな傘に彼女を入れて家まで送ってくれる。

 剣道部副将で紳士な高塚君は、普段節度を持ち過ぎている位の距離で彼女と接しているので、相合い傘は革命的な近さと言える。


 雨の日も晴れの日も、彼女は図書室で高塚君の部活が終わるのを待っている。

 高塚君は部活を終えると図書室を覗き、待っていた彼女と連れ立って帰る。

 手も繋がず、半歩分の距離を開けて並んで、寄り道もせずに帰り、彼女の家の前で別れる。

 今は果たして何時代だったかと、問いたくなる程清らかな交際関係だ。


 けれど、雨の日は。


 高塚君は右手で傘を持ち、左側に立つ彼女のリュックの左端を、左手で掴む。肩を抱いたりはしない。身体も、触れない位の距離。左腕で彼女の位置を確認して、絶対に彼女が濡れない様に慎重に傘を差す。


 部活後の剣道男子にそんなに近付いたら、汗と藍染が混じり合って進化した独特の香りで正直臭いと思うのだが、彼女はそんな事気にならないようだ。

 綺麗に磨かれたローファーに、泥が跳ねる事を気にする振りをして、いつもより少しゆっくり歩く。


 とても、微笑ましい光景だ。


 高塚君と近付いて歩ける事が嬉しくて、放課後に雨が振ると、彼女は少し嬉しそうな顔をする。




 昼過ぎに降り出した雨は、放課後を迎えても止むことなく降り続け、むしろ勢いを増していた。


 台風が接近しているらしい。明日は休校かも知れないと、誰かが呟いていた。


 放課後に雨だと言うのに彼女は浮かない顔ををしていた。


 不運にも昨日、彼女のお気に入りのリュックはコーヒー牛乳の雨に降られて、現在洗濯中なのだ。

 今日の彼女の鞄は代用品。キャンバス地のショルダーバッグだ。

 しかもやっぱりずっと肩に掛けていると疲れてしまうらしく、持ち歩くときは両手で抱っこしている。彼女のお気に入りがリュックな理由が、なんとなく察せられる。


 今日に限って雨なのに浮かない顔の理由、彼女の背には高塚君が掴むべきリュックが無いのだ。


 高塚君は気付かず部活に行き、彼女は困った顔のまま図書室に向かった。




 高塚君の部活が終わっても、雨が止む様子は無かった。


 図書室へ迎えに来た高塚君と、並んで歩く彼女の顔は相変わらず少し困った様子で、どうかしたのかと問うた高塚君は生徒玄関でその理由に気付いて固まった。


 傘に入れた彼女の背に、リュックが無い。


 固まった高塚君を、彼女が困った顔で見上げる。


 わたし、傘、持って来てるから。


 彼女が言って折り畳み傘を取り出そうとしたのを、高塚君は止めた。


 嫌だったら、言って。


 遠慮がちに伸びた高塚君の腕が、彼女の肩を抱き寄せた。普段は触れない身体が、密着する距離。


 彼女の頬に緋が走る。


 …嫌、かな?


 嫌じゃないよ…嬉しい。


 自分で交わした会話に照れたのか、微笑ましい二人は赤い顔ではにかみ合った。


 帰ろっか。


 うん。


 歩き出した速度は、雨の日のいつもよりさらに遅い。


 強い雨に高塚君が彼女を抱く力が強まり、彼女はこてんと高塚君の肩に頭を寄せた。


 彼女は照れて顔を赤らめながら、とても嬉しそうにしていた。






拙いお話を読んで頂きありがとうございました


誤字脱字等気を付けているつもりですが

何か気になる点がありましたらご指摘頂けると助かります

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