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二章 手掛かり、手元編


      ∴      ∵


 下らない話をしていると、いつの間にか目的の駅に着いたようです。

「いやだからさ、あれは別にナンパしてた訳じゃなくて」

「その話は歩きながらゆっくりしましょう。駅に着きましたよ浮気野郎」 

 ほかにホームに降りた乗客は一人もいません。ホームにも人の姿は見えず、気配も気薄と言えばいいのか……どれだけ寂しいとこなのでしょうか。

 駅を出ると、そこはなんとも田舎らしい雰囲気が漂っていました。ドラマで見る田舎風景。もう匂いで解るほどに。左を見ると山、右を見ても、あまり活気付いていない町が見えるだけ。私達が住んでいる場所も都会とは言えませんが、ここは私達から見ても、田舎と言ってしまうほどの田舎。田舎って差別用語でしたっけ?

 私と深夜は必要物資を調達する為、町のある、右の道に進む事にしました。しばらく進むと、ある程度店や家が見えてきました。だけど、どれも個人店ばかりで、やはり田舎というイメージしか浮かびません。

「とりあえず、おにぎりでも買うか。それとも店入る?」

「店に入る時間が勿体ない、とまでは言いませんが、おにぎりかお弁当でいいと思います。コンビニでもあればいいんですが、不安です」 

 しかしさすが日本、コンビニエンスストアーは全国何処にでも配置しているらしく、発見できました。なんだか、凄い寂れた感じでしたが、コンビニはコンビニです。

 コンビニに入ると、早速私は虫除けスプレーを探します。実は、私、虫は大っ嫌いなのです。特に蜘蛛とかムカデとかハエとか蜂とか蟷螂とか蚊とか小さいのから大きいのまで、全て等しく平等に上から下まで横幅関係なく、慈悲も慈愛も何処かに放って嫌いに嫌いを掛け合わせてさらに嫌いを十乗する位に嫌いなのです。深夜はこの事を知りません。もし知られたら……命が危ない! 深夜には内緒で、私は虫除けスプレーの他に、殺虫剤も買いました。ちょっと大きいですが、深夜はお馬鹿さんなので気づくまい。


      ∴      ∵


 山を登り始めて一時間。とりあえず山の頂上に向かう事にしました。ニーニーがこの山に来た事は、まず間違いありません。山を登る前に、駅員に携帯でニーニーの写真を見せたところ、昨日の最終電車で似た人を見たと証言してくれました。旅行用の大きなキャリーケースを持っていたとも。ちょうどゴールデンウィークだったので、親戚の家か旅行にでもきたと思ったらしいです。私と深夜は駅員にお礼を言い、そのまま真っ直ぐ山に向かいました。

 疑問があるとするなら、何故ニーニーは父親を埋めた後、家に帰って来なかったのでしょう。

 考えとしては、山で遭難にあった、という事が考えられます。朝から携帯も繋がらないみたいなので、携帯の電池が切れ、途方にくれているのかもしれません。この可能性に賭け、山でニーニーを捜索する事にしました。勿論、ニーニーは父親を埋めたあと、さっさと何処かに逃げてしまったのかもしれません。しかし、わざわざ父親を山に埋めにきて、逃走するというのは辻褄があいません。ちぐはぐより、アタフタ。道理が通らず無理が引っ込んでいます。つまりは意味がない。最初から逃げるのが目的なら、父親を埋める手間をかけないで、すぐにでも何処かに逃げればいいのです。どうせ尋ねる人間なんて私くらいしかいないのですから、あらかじめ私に言い訳をしておけば、見つかる心配もないのですから。

 だから、ニーニーが帰りたくても帰れない、という可能性に賭けたのです。といっても、正直なんの手がかりもないまま、山の中を無闇に探しても見つかるはずがありません。けれど、もう私達には、こうする意外手段がありませんでした。今日一日探して、見つからなかった場合、山で遭難したのかもしれないと、一応警察に捜索願の届出を出そうと思っています。そうなった場合、下手をしたらニーニーが父親を殺した事がばれてしまうかもしれませんが、ニーニーの命と比べたら、仕方ありません。

 でも、その前に。

 警察に届出を出す前に、出来る事はやっておきたかったのです。

 例えそれが、ただの自己満足だろうと。

 私は、私がニーニーを見つけたい。

 私と深夜は、無言で山を登り、さらに一時間後―――頂上が見えてきました。

「な、長かったな……」

「え、ええ……でも、二時間で、頂上に着ける山は、普通、なのでしょうか?」

「さ、さあ? でもちゃんとした山は、もっと時間がかかるのかもな。それを考えたら、ここは初心者の山なのかも。簡単な一本道だしな」

 簡単な山と深夜は言いましたが、十分に山らしい山でした。舗装のされていない険しい山道は乙女に多大な疲労と目的を推敲するやる気を根こそぎ奪っています。

「ま、まあ、それは置いといて……み、水を、飲みませんか?」

「燈莉って、運動そんなにダメだっけ?」

「わ、わたしは、頭脳派です……」

「そうか、いまいちいつもの切れがないけど。ここで休憩しよう。ところで燈莉さん」

「な、なんで、すか?」

 深夜が立ち止まり、私が深夜の肩にもたれかかる形で休むと、意地悪というか、神妙な顔をしてきます。何でしょうか、私の汗の香りでも楽しんでいるのでしょうか。後でお金を取らないといけませんね。

「水の事なんだけど、どうする?」

「……どうする、とは?」

 嫌な予感がしましたが、私は尋ねました。尋ねたのに、深夜は嫌なことを言いました。

「もう水ないけど」

「し、深夜があの時! あんなに飲むから……っ!」

「燈莉さん!? 落ち着いて! そんなに興奮したらまた疲れますよ!? その棒っきれは大切な杖ですよ!?」

「いえ、深夜を倒すくらいの体力なら、まだあります……!」

「どんな体力!? いや待てちょっと待って! あ、ほらあそこに人がいる! あの人に水を分けてもらおう、な? だからジリジリ近寄るのは怖いからやめてえええええ!!」

 深夜が指差した方を見ると、確かに一人、男性が、登山家らしき服装で石の上に座り休んでいました。けれど水を分けてくれるとは限りません。ここは山なのです。砂漠では水は何よりも貴重品。山でもそれは同じで、簡単に赤の他人へ譲渡するとは考えづらいです。ならばいっそ、深夜を血祭りにあげて生き血を啜って渇きを癒した方が早いかもしれません。

 危機とした表情で吸血鬼みたいなことを考える私に恐れをなした深夜は、遭難した人が山小屋を見つけたような情けない叫び声を男性に向かってあげました。

「あ、あのすいませーん! 助けてくださーい!」

 深夜が声をかけると、男性はこちらを向きました。こちらを向いた男性は、穏やかそうな三十代位に見えます。

 そして、初めてここで、私と深夜は、ニーニーについての情報を手に入れる事ができました。


 男性に話かけると、どうやら頻繁にこの山に登っている事が解りました。水美味し。命の源である水を分けて下さった男性は、柔らかい微笑みを携えています。

「山に登る時は、ある程度装備していた方がいいよ。山は怖いからね」

「ありがとうございます。私は言ったのですが、彼が『こんな山は山じゃねぇ! ついてきな! 俺が山ってもんを教えてやる!』と言ったものですから」

「いやいやいやいやいや!? そろそろやめよう燈莉さん! なんでそんな嘘を? 初対面の人は本当に勘違いするから! つか単に俺のせいにしてるだけか!?」

「ははは、まあ男の子はそれくらい元気な方がいいよ」

「元気だけの馬鹿というのも、考えものですが」

「あれ? 馬鹿って言った? おい馬鹿って言ったか?」

 私は彼、安西さんに頂いたペットボトルのミネラルウォーターを飲みます。安西信也あんざいしんや。この近くの大学で、助教授をやっているらしいです。年齢は見たところ三十代でしょうか。山登りが趣味らしく、山登りと言っても、登る山はほとんど今私達がいるこの山だそうです。そして偶然にも、昨日の夜もこの山を登ったらしいです。

「夜に登ったんですか?」

「うん。夜は、星が綺麗なんだ。それに、僕はこの山でよく朝を迎えるんだよ。実を言うと、今日も登った、じゃなくてこれから降りようとしてたんだ」

 降りようとしていた。それはつまり、今までここにいたということ。

 私達のように登ってきたのではなく、登っていたのを降りようと思っていたこと。

「え? それじゃあ昨日からずっとこの山にいたんですか?」

「うんそうだよ」

 その答えに、私は一縷の望みに縋るように、尋ねます。

「あの、それではこの女の子を、見かけませんでした?」

 携帯を取り出し、ニーニーの写真を見せました。私とニーニーが二人で写っています。私は可愛くピース、無表情でピースは怖いよとニーニーは言いましたが、ニーニーは可愛い子ぶって人差し指を唇に当てています。妖艶さを出したらしいですが、私が真似して深夜にやったら、「お前……絶対それ、他ではやるな……」と両手で顔を覆いながら言いました。耳まで真っ赤にしたところを見ると、よほど笑えたようです。失礼かつムカついたので、私はそれから頻繁に深夜にやるようにしています。その度に同じ反応を返されるので、あまり成功していないようです。

「ん? この子は昨日見たね」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、なんだか大きな、旅行用かな? キャリーケースを持ってた気がするけど」

 ニーニーに間違いありません。私は興奮したまま安西さんに聞きます。

「何処で見ましたか?」

 私の問いに、安西さんはニッと悪戯を思いついた少年のように笑い、立ち上がりました。

「そうだね、案内しようか?」

「え?」

「その子を探しているんだろ?」

 私達が登ってきた道ではなく、草葉が茂った、道なき道を指差し言いました。

「何か、手がかりがあるかもしれないよ?」

 ニコっと、笑い―――嗤いながら。


      ∴      ∵


 それからまた三十分ほど歩きました。

 道と言えない道を。前方を歩いている深夜と安西さんの二人は、黙々と、着々と、前へと進んでいきます。木々が茂り、まさに自然といえるこの道を。

 そして、あの、小さな生物達がはびこる、この場所を。

 平然と、平気そうに、平常心を持って、歩いています。

 私はそんな二人の後ろで、戦々恐々としながら、ついていきます。

 何故、あの二人はあんなにも簡単に前へ進むことができるのでしょう。

 いつ、アレが飛び出してくるかも、解らないのに……。

 私の右ポケットには、コンビニで買った殺虫剤が握られています。どんな敵が来ようとも、これさえあれば……。私はアレの単語を口にするのも嫌です。あえて口にし、どれほど嫌いかと言うならば、『虫』という漢字はカナブンを思い出し、『ムシ』とカタカナにすればカブトムシを思い浮かび、『むし』と平仮名にすればムカデが想像できます。……あ、やばい。想像しちゃった。『MUSHI』とローマ字表記なら、まだ、平気かも、しれません。そんな下らない事を考えて、私が現実逃避していますと、突然一番前を歩いていた安西さんが立ち止まりました。私は敵襲の予感を感知します。

「何故止まるのですか? 私としては歩き続けて、何処までも何処かにでも歩き続けて、気がついたら山を降りてしまったという展開が望ましいのですが……はっ! まさか、奴らに囲まれた!?」

「何を愉快な妄想の世界に浸っているんだ。着いたみたいだぞ」

 深夜が振り向いて、私の顔を覗き込んで言いました。くそう、カッコイイです。私が怯えているのに平気な顔とか男らしすぎます。でも今はムカつきます。深夜の先を見れば、安西さんはすでに森から脱出しており、開けた場所で私と深夜を待っていました。

「ん? もしかして燈莉、虫がにが」

「着いたのならさっさと進みなさいおバカ!!」

 まるでこの先には行かせんぞ的に私の前で立ち止まっている深夜の腹を、思いっきり蹴り飛ばしてやりました。えい、跳び回し蹴り。

「ゴフアァ!?!?」

 深夜の身体は宙に浮き、そのまま安西さんのところまでズザザザザアアアア! と滑っていきました。私は急いで生い茂る悪魔の森から脱出です。ふぅ、危険は去りました。

 私が一息ついていると、安西さん擦り傷だらけの深夜をおろおろと見ていました。

「だ、大丈夫かい!?」

「……救急車、を……い、え……警察をお願いします!」

「案内さん。ここが昨日、ニーニーと会った場所ですか?」

 私は大袈裟な深夜を無視し、当初の目的である案内場所についたか確認しました。

「あ、ああ、そうだけど……案内さん? いや、それより彼が……」

「俺の心配はなしか、ふん。きっと言い間違えたんですよ! あれ? ここまで案内してくれたから、案内さんでいいのか?」

「いや……安西で頼むよ」

 苦笑する安西さんと深夜は無視するとして、おぞましい脅威がなくなったので辺りを見回しました。そして意外と余裕がなかった私は、ここに来てやっと、確認することができました。

 この場所の、この地の、空気を――。

 開放的、というには、不釣り合いな、不合理な、不可解な、不思議な場所です。

 ここは、仄かに揺らいでいる感じがして、今は昼間なのにまるで夜のような、今は暖かいのにまるで寒いような、そんなちぐはぐな印象が世界を覆う。

 近くを流れる小川は冷たく透き通り、腰掛ける岩は堅い意思を醸し出しているのに、


 今  に  も    、 崩  れ    そ    う      。



 ――― そんな ――― ちぐはぐ ―――



 私は深夜と安西さんの方を向きました。あまりここの景色を見ていると、呑まれそうで。この切り取られた世界に、呑み込まれそうで。私は確認します。

「ここで、ニーニーと会ったんですか?」

 安西さんは、ニコニコと笑いながら、それは可笑しくも下心も厭らしさもない不可思議なほどに純粋な笑顔で、教えてくれました。

「ああ、君の近くにある岩に座って、夜空を見上げてたね。何をしているか聞いたら、家出だって言ってたなぁ」

「家出……ですか」

 家を出ている。意味的には違くても、言葉的には同じでしょう。

 ニーニーにとって、あの家から一歩外に出てしまえば、それは全て逃避とは違う家出。帰りたくない場所という意味では、同じ。

「うん。だから大きなキャリーケースを持っていたんだろう。最近の若い子は、服を沢山持っているからね」

 安西さんは、ニコニコと笑いながら教えてくれました。

 それにしても、何故安西さんは笑っていられるのでしょうか。

 私達がここに探しに来たということは、未だニーニーは家に帰っておらず、行方が解らない状況であるということです。つまりそれは、ニーニーの安全が保障されていない、という事。見ず知らずとは言い過ぎの、一夜での相対だったとしても、まだ年若い少女のことが心配ではないのでしょうか。それとも、心配する必要はないと、知っているのでしょうか。

 安西さんの認識を、改めた方がいいのかもしれません。この、人畜無害そうに見えた、笑顔。よく見れば常に張り付けられるそれは、決して澄んでいるわけではないのです。そう、まるで、ここの小川のよう。あまりにも澄み切りすぎて、逆に、澱んで見える。

 何もかも笑顔の後ろに隠して見えるそれは、安西さんの言葉を信用していいのでしょうか。

 本当に、ニーニーはここに来たのでしょうか? 

 この男の言う事を、鵜呑みにするのは危険かもしれません。

「そうですか、ありがとうございました。それではそろそろ私達は帰る事にします」

 場所は解りましたが収穫と言えるほどのものではなく、さらにもうここにはいない可能性がある以上、長居する理由はありません。

「ん? いいのかい? 君達は友達が家出したから、連れ戻しに来たんじゃないのかな?」

「……いえ、まあ似たような目的だったんですが、これ以上遅くなると、私達はこの近くに住んでいるわけでもないので、帰りが大変ですし。それに彼女がこの近くに来たことが解れば、それでいいです。探しようは、いくらでも」

 私がそう言うと、安西さんはそうか、と呟き内ポケットから名刺を取り出しました。

「それじゃあ僕の名紙を渡しておこう。何か聞きたい事があったら、いつでも来てくれていいし、連絡してくれて構わない」

「……ありがとう、ございます」

 安西さんから名紙を受け取ります。使う機会があるか解らない、この名刺。出来れば、早く捨ててしまいたい。それから一人ボーっとしている深夜の手を取ると、私は安西さんに改めてお礼をし、山を降りる為、歩き出します。草葉の茂った獣道なんかではなくて、人間が馴らした道を―――そこで安西さんが私を呼び止めました。

「ああそうだ! ついでに君の番号も教えてくれないかな? 何かその友達の事で思い出すことがあったら、連絡するよ」

「…………解りました」

 ここで断る理由がありません。ここで断れる理由がありません。相手は私が探している事について情報を持っていて、協力してくれるという善意からの言葉。携帯がない、と言いましょうか。ああだめです、携帯はさっきニーニーの写真を見せた時に知られているじゃないですか。私は嫌々ですが携帯の番号を安西さんに教え、今度は本当に、山を降りました。山を降り安西さんの姿が見えなくなっても、私の頭から、安西さんの笑顔が消えませんでした。見てはいけないものを、見てしまった。

「おい、なんでもう帰るんだ? まだ探せる時間じゃね?」

「ええ、そうですが、深夜は、安西さんを見て何も思わなかったですか?」

「安西さん? 別に」

 深夜は安西さんに何も感じなかったようです。私の、勘違いだったんでしょうか……。

 安西さんをどういう立場に置くか、またニーニーの事を聞く為に連絡をするかなど、考えないといけませんね。


 歩いて歩いて、歩いて歩いて。ふと振り返れば、降りて来た山が見え、ふと視線を戻せば、眼前の先には深夜が切符を買っています。随分と長い、刹那よりは長い程度の時間を過ごした気がしますが、それにしても、それにしては、今日は進みすぎの気もします。

 何が、と聞かれれば、それはニーニーの事。

 深夜には黙っていましたが、ニーニーがいなくなってこんなにも早く、手掛かりを掴めるとは思っていてはいても、考えてはいませんでした。山を探したって何か見つかるとは思っていませんでしたし、山に来ても何も見つけられないと考えていました。

 たかが高校生の、それも常日頃から事件に巻き込まれているような主人公に近い日常を過ごしているわけでもない、女子高生が、こんなにスムーズに、こんなにとんとん拍子に、小説のページを捲るが如く話が進んでいくなんて。アホらしさを通り越してバカバカしくなんて言えず、本職の探偵や警察の人達に平謝りしたいくらいです。下げる頭を持っているのは深夜ですが。

 私としては、警察に届けるとは言ってももう一度、足掻きに近い探索をゴールデンウィークの今日と明日を使い、散策する計画でしたが……話が、早い。

 深夜が呼んでいます。私を、呼んでいます。

 そこで何となく、深夜はどうしてニーニーを探しているのか気になりました。

 友達だから、私が言ったから?

 それとも、こういう他人の厄介ごとに巻き込まれたらほっとけない性格の、まるで誰もを守る主人公みたいな性格の、深夜だから。

 深夜が主人公なら、こんな物語みたいな展開になっても、ご都合主義の展開でも、おかしくはないのかもしれません。ページの関係上、みたいな。

 まぁ、モテモテなわけがない深夜がそんな美味しい立ち位置にいるわけありませんが。多分モテモテじゃないはずです。隠れて女の子に会っているらしいですが、今のところ違うと思います。違わなかったら許さないだけです。しばらく誰にも会わせないように私の部屋で飼うだけです。そうです、首輪を忘れてました。

 私のジト目など気づかず、深夜は不思議そうな顔をします。

「燈莉? どうした、顔色悪いぞ」

「……お腹が空きました。ここら辺は何もないみたいですから、戻ったら何処かで食事しましょう」

 時刻は夕方。夕食には少し早いが、それでも遅いというほどでもありません。

「十八時過ぎか。ここから電車で一時間半くらいだから、夕飯にちょうどいいな」

「そうですね、深夜の奢りでお願いします」

「いや、割り勘で」

「いえ、奢りで」

 頑なに割り勘を求める深夜。私はちょっと考えます。何かとっておきの技はないでしょうか。思わず深夜が奢ってしまうような、そんな必殺技は……。

「いやいや最近ですね? プレゼントしたり遊びに行ったりと、燈莉さん関係で出費が激し」

「深夜深夜、あの、ね……。その……あり……がとう……ニコリ」

「ニコリじゃねぇぇぇ!! ちくしょう可愛いなああああもうぅ!!」

 例の人差指を口元に、可愛く俯き加減でお礼を述べると、深夜が絶叫します。ちょうどきた電車にかき消されました。よし、深夜の奢り確定です。このままだと怒ったままなので、あーんくらいはしてあげましょう。

 私達はそのまま、家に帰ります。謎は解かれぬまま、私達は家路に着きます。果たして友が、ニーニーが生きているかどうかも解らず。


      ∴      ∵

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