四話
現在時刻午前七時三十分。さっさと朝食を食べてさっさと着替えた僕は家を出て優希ちゃんがいるであろう廃校を目指していた。そんな道の途中、
「あら、広也じゃない。こんな朝早くからどうしたのよ」
一人の少女が僕に話しかけてきた。
「え?あ、夕佳。僕は、これから山の中にある廃校に行こうと思ってるんだけど。夕佳こそ、どうしたの?」
「私は少し散歩をしていただけよ。それよりも、山の中に廃校なんてあるの?」
彼女は興味深そうに聞いてきた。少し茶色のかかった気の強そうな瞳がこちらをじっと見てきている。
「うん。昨日偶然見つけたんだけど、古い木造の学校があるよ」
へえ、そうなの、と言いながら夕佳は何度か頷く。彼女の背中まである長い黒髪がそれに合わせて揺れる。
ちなみに彼女は僕のクラスメイトで友達である宮平夕佳だ。彼女も僕と同じで最近ここに引っ越ししてきたばかりらしい。
なんとなく気が合っていつの間にか友達となっていた。お互いにここに引っ越してきたばかりだというのを知ったのは友達になった後だった。だから、お互いに引っ越ししてきたばかりだから仲が良くなったというわけではない。
「なんだか面白そうね。ついていってもいいかしら?」
目鼻の整った顔に笑顔を浮かべながら聞いてきた。
「え、えっと……」
優希ちゃんは幽霊だから他の人から見ることができない。だけど、僕には何故だか見える。だから、もしかしたら夕佳にも見える、ということがあるかもしれないけど街での他の人たちの反応を見る限りではその可能性は少ないように思うけど。
「あ、嫌なら別にいいのよ。私は絶対についていきたいってわけでもないし」
そうは言っているけれど、明らかに夕佳は残念そうな表情を浮かべてる。何か可哀想なことをしているような気分になってしまう。
「別に、いいよ。ついてきても」
まあ、ついてこられてもいいか。僕が優希ちゃんと話してるところを夕佳に見られたら変な風に思われるだろうけど、そんなことを気にするようなつもりはない。
「え?いいの。ありがとう、広也」
それだけで、夕佳は嬉しそうな声を出した。
「あ、でも、その服装だと歩きにくいかもしれないよ。山の中に入って山道をそれたところを歩くからね」
今の夕佳の服装は白色のワンピースの上から薄手の淡い水色のパーカーを着たものだった。山に行く格好というよりも海に行くような格好だった。
夕佳は自分の姿を見下ろしている。
「うーん、そう?私は別にこれでも大丈夫だと思うわよ」
実はそんなに歩きにくい服装だというわけではないのだろうか。男の僕は絶対にそんな恰好はしないのでどんな感じなのかわからない。
でも、とりあえず、もう一度注意はしておく。
「夕佳がそう言うんなら別にいいけど。本当にその格好だと歩きにくいと思うよ」
「大丈夫よ。それよりも、早く案内してよ」
夕佳は僕のことを急かすようにそう言ってきた。まだ、僕としては夕佳の服装のことが気になっていたけど本人がああ言ってるんだからいいか、と無理やり納得しておいた。
少しおぼろげな昨日の記憶を頼りになんとか廃校までたどり着くことが出来た。
「へえ、広也、よくこんなところ見つけれたわね」
僕が服についた葉っぱとかを落としていたら後ろから夕佳の声が聞こえてきた。夕佳は僕の二、三歩ほど後ろを歩いていたので廃校を見れるようになるのが僕よりも少し遅れる。
後ろを振り返ってみる。そこには予想通り感心したように廃校を見ている夕佳の姿があった。だけど、何か違和感がある。それは何だろうか、と確認するように僕は夕佳の姿を確認する。
山に入る前とは変っていない姿でいる。どこかを怪我しているわけでもなく、何かを失くしたように見えなく、逆に何かが増えたようにも見えない。
何も変わってない?
そこで、気がついた。夕佳は僕と違ってどこも汚れていなかった。あの道を服を汚しもせずに進むのは無理だと思う。
「ねえ、夕佳はあんな道を通ったのになんでどこも汚れてないの?」
とりあえず、疑問をぶつけてみる。
「それは私の進み方が上手だったからに決まっているでしょ?」
なに、当たり前のことを聞いているの?、とでも言いたげに僕に視線を向けてきた。
僕は納得が出来なくて言葉を続けようとしたけれど、
「男が細かいことを気にしたらダメよ。さ、早く行きましょ」
と言って僕を置いてさっさと廃校の方へと行ってしまう。そのせいで僕が何かを言う隙はなかった。
仕方なく僕はそれ以上、夕佳の服が汚れていなかったことは考えないようにして後ろ姿を追いかけた。