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十六話

「明日はいよいよ優希ちゃんの目的地に行けるんだよね」

 今日の夕日は綺麗だったから、明日は晴れるんだろう、と何の疑いもなく思う事が出来た。だから、自分が思っていたよりも明るい声が出ていた。

「うん、……そう、だね」

 けれど、返ってきた言葉はどこか、翳を帯びていた。

「どうしたの?優希ちゃん。なんだか、元気ないよ?」

 調子が悪いんだろうか、と心配に思って声をかける。このときは、幽霊に調子がいい悪いがあるんだろうか、とは露ほども思っていなかった。

「ううん、だ、大丈夫だよ!」

 無理やり浮かべた、という感じの笑顔を浮かべて明るい声で言った。声にもどこか不自然さがあった。

 でも、わざわざ隠す、ということは聞かれたくないことなんだろう。あんまり、そういうことは言及しないほうがいいんだと思う。

「そう?なら、いいけど、無理はしないでね」

「なに言ってるの?わたしは幽霊だよ。だから、いくら無理をしても大丈夫なんだよ」

 今度は本当に元気な声で言った。

「そうかもしれないけど……。まあ、いいや。優希ちゃんがそう言うなら」

 何かを言いたかったけど何を言いたかったのかわからなくなってしまった。けど、僕の心の中では何かが引っ掛かっていた。

 少し考えてみるけれど結局、その何か、というのはわからなかった。

「広也」

「うん?なに?」

 優希ちゃんに名前を呼ばれたのでそちらを向く。

「広也、どこに行くつもりなのかな、って思って。もう、広也の家、過ぎちゃったよ」

 え?、と思い、僕は後ろを振り返ってみる。そこにはたしかに僕の家があった。少し考え事をしていた間に通り過ぎてしまっていたようだ。

 進行方向を百八十度変えて少し進みすぎた道を戻る。

「広也、どうしたの?なにか考え事でもしてたの?」

「うん、まあ、そうだけど。どうでもいいことだよ」

「ふーん、そうなんだ」

 僕がなんのことについて考えていたのか、ということには興味がないみたいだ。

 家の前にはすぐについた。

「それじゃあね、優希ちゃん。明日も、今日と同じくらいの時間に優希ちゃんの所に行くよ」

「あ、うん」

 優希ちゃんは頷く。だけど、どこか様子がおかしい。

「ね、ねえ、広也」

「うん?」

「あの、えっと……」

 何かを言い淀んでいるようだった。僕は優希ちゃんに先を促すように頷く。

「……今日は、広也の、家に、泊めてもらえないかな?」

 僕は優希ちゃんの言葉に驚いてすぐに言葉を返せなかった。そのせいで、優希ちゃんは少し勘違いをしてしまったようで、

「あ、嫌だったら、別に、いいんだよ。なんとなく、言ってみただけなんだし」

「嫌なんかじゃないよ。むしろ、歓迎してあげるよ。僕だけ、だけどね」

 一昨日、僕から誘ったのに、いまさら泊めてあげないなんてことは絶対にない。

「でも、どうしたの?突然」

 一昨日の様子からして、そんなことは絶対に言わないと思っていただけに意外だった。

「べ、別に広也には関係ないよ」

 顔をそらされる。

「いや、優希ちゃんは僕の家に泊まるわけだから少しは関係あると思うよ」

「うっ、確かにそれはそうかも……」

 それから優希ちゃんは考え込む。言うべきか言わざるべきか考えているんだと思う。というか、正直、あれくらいの言葉で悩むとは思わなかった。でも、優希ちゃんは結構、素直なところがあるから、これはこれで普通の反応なのかもしれない。

 なんにせよ、本当は、話してくれても、くれなくてもどっちでもよかった。でも、出来れば優希ちゃんの考えていることを知りたいと思っている。

「……しょうがない、話してあげるよ」

 肩をすくめてそう言った。だけど、どこかがいつもの優希ちゃんらしくなかった。

「実はね。不安、なんだ」

 そう言った。その声はどこか暗かった。

「理由はわかんないんだけどね。ただ、なんか、こう、はっきりとしないけど不安なんだよ」

 曖昧に、言う。ただ、その声は不安で微かに揺れていた。そして、怖がっているとも思った。

 心の底ではその不安に気が付いているのか、それとも、不安の正体がわからないことが怖いのか。どちらなのかはわからない。だけど、放っておくわけにはいかない。

 彼女が不安だというのなら一緒にいてあげればいい。不安なんていうものは孤独な時の方が大きくなるものなんだと思う。

 そして、彼女は少し遠まわしではあるけど、僕に一緒にいてほしいと言った。

 だったら、一緒にいてあげればいい。一緒にいて、困ることなんてない。むしろ、こうして、優希ちゃんの役に立てることが嬉しかった。

 だけど、その理由はよくわからない。人の役に立てるから、というのは違う感じだった。優希ちゃんの役に立てる、そう思ったときにだけ湧き上がる感情。なんだかわからないけど、不思議な感情。

 優希ちゃんが声をあげて泣いた時、僕はこの感情を強く感じた。それから、僕はこの感情を意識し続けている。正体不明のこの感情を。

 だけど、今はこんなことを考えている場合じゃない。できるだけ、優希ちゃんの不安を拭ってあげないと。それに、こうして、優希ちゃんに何かをしてあげることで答えに近づいていくような気がする。

「そうなんだ。じゃあ、僕は優希ちゃんの不安をできるだけ少なく出来るように努力するよ。そのために、優希ちゃんが望んだように僕の家に泊めてあげる。それに、してほしいことがあったら何でも言ってよ」

 何をすればいいのかがわからないので言えることは所詮このくらいだった。

 だけど、優希ちゃんが望んだことをする、というのは大切だと思う。それで不安がなくなるとは思わないけど、少なくとも紛らわせることくらいはできると思う。

「ひ、広也のくせに……。でも―――」

 でも、の後は聞き取ることが出来なかった。

「ねえ、今、最後になんて言ったの?」

「な、なんにも言ってないよ。広也のバカ!」

 何故か罵られた。

「……優希ちゃん、ってさ、時々かなり不条理なこと言ってくるよね」

「そ、それは……広也がバカだからだよ。バカっ!」

 また言われた。しかも、さっきよりも声に力がこもっていた。

 嫌われてるってわけではなさそうだけど、なんで優希ちゃんはそんなことを言うんだろうか。

 僕は、何故だか顔を赤くしている優希ちゃんの前で首を傾げた。そうしたら、また「バカ!」と、言われてしまった。

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