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目を逸らす彼女と耳を塞ぐ彼

作者: -Is-

え?「お前試験中だろ」って?知りませんそんなこと。

だって今日で終わりなんですよ!しかも科目!科目が……!

はい、すいません。どうでもよかったですね。

では早速本編ドウゾっ


いまは何時なんだろう。


まだ眠たいや。目を閉じていても光を感じると言うことからして、もう朝なんだろうけどなあ。

学校、行きたくないなあ。

…まあ、行く気は元からないけどね。

こんな時思い出すのは「学校での嫌な記憶」。

いや、責任は私にあるけど。でももう、行く気はしないかな。勉強は通信でできてるし。

今日は何をしようか。別に外に出るのが嫌な訳じゃない、じゃあ犬の散歩にでも行こうか。

そんなことを考えていたら、階下から階段を上ってくる足音が聞こえた。何ら変鉄もない日常の一部。

…ああ、何だか、嫌だなあ。

明るすぎる朝も、

いつも通りの環境も、

変われない自分だって、

もう呆れるしかないんだよ。

目を閉じてまどろみに沈む。私は、眩しい現実からそうやって目を逸らした。




今日も前の席には誰もいない。

使い込まれた他の机とは違って、まだ新しいように見えるその机の主は宮本菖(みやもとあやめ)。同じクラスの、顔も見たことない女子。

彼女はいわゆる投稿拒否児童(児童なのかな)で、あいうえお順の席で前後ろになって、変な縁があったこともあり、おれにとって少し気にかかった存在だった。

…顔も声も知らないのにな。

おれだって、こんな縁がなければ彼女のことを気にかけるどころか認識以上のことをしなかったろうに。人間て、案外脆い精神してんだな。

前の席には大きく「欠」と書かれた紙が、おれの手元には低い点数の紙が渡された。

…別に。あ、低いな、という感想だけで、そのテストはおれの中で終わったことに分類された。

面白くもなんともないものを学ぶことを苦痛に感じはしないけど、積極性にかけていく自身を自覚する。落第はしないだろうけど、もう高校一年生だってのに、さすがにこれは大学がヤバイかな。

それでもどこか他人事で、おれはあっさりテストを机にしまいこんだ。

初夏の風が髪を揺らす。




学校帰り。

お気に入りのヘッドフォンのコードが弾む。

おれはいつも下校途中にある公園に立ち寄り、そこに住み着く猫に煮干しをやることを日課にしていた。

今日も今日とて惰眠をむさぼる猫たちに、そっと煮干しを差し出す。

その中の数匹は、釣られたようにのしのしとやってきた。裂いたように細い瞳孔が、おれを捉える。

ほら、おいで。手先の煮干しを左右に振った。

ワン、ワン!

「…あ」

犬の声に驚いて、猫たちが逃げてしまった。

「…あー…」

結局あげられずに終わった、手に握られた煮干しが所在なさげに揺れる。日課としていることだけあって、煮干しをあげられなかっただけでもやがかかったような気分だった。

「あ、ゴメンナサイ猫逃げちゃった」

背後から声。振り返ると、犬を散歩させる少女の姿があった。

「…いいよ、別に。」

年はおれと同じくらいだろうか。おれも白い方だけど、彼女は病的なほどに白くて、周りの風景からは浮いて見えた。

犬がすりよってくる。焦げ茶の…雑種か?一見プードルだけど、尻尾とか顔がプードルとは違って見えた。

「…じゃあその代わりにさ、この犬さわっていい?」

おれは本来猫より犬派だ。

少女は怪訝そうに首をかしげながら「どうぞ」と承諾してくれた。犬の耳の後ろをかいてあげると、犬の目がとろんと垂れる。

「…名前、マロンていうんです」

少女は「呼んでやってください」と笑った。なんというか、それは女の子らしい感じではなくて、どちらかと言うとあどけなさの残る少年みたいな笑い方だった。

「マロンー、お前、可愛いなあ」

尻尾を千切れんばかりに振るマロン。不意に、遠くから母さんの呼ぶ声が聞こえた。

「アヤメー?」

「「はーい」…ん?」

…ん?

……まさか。

「えっと……アヤメ君、っていうの?」

戸惑ったように尋ねてきた少女に、仕方なく頷く。まったく、うちの母さんはなんでこんな名前にしたのかねえ。

…いや、なにか忘れているような気がする。

前もこんなことあった気が…

「…あ」

「へ?」

「…あのさ、君、もしかして宮本菖?」

少女はポカンと口を開けた。そして不審そうな顔に変わる。やべ。

「ああ、おれ君の後ろの席なんだよ。」

学校でさ。尻すぼみな言葉を吐き出すと、少女-宮本菖は複雑そうに顔を歪ませた。

まあ、登校拒否だしね。

「…何でなんだろな、学校行くのは」

黙りこんでしまった彼女にかける言葉が思い付かず、ただ何となく思い付きを投げ掛けた。

宮本菖は意外そうに顔をあげ、同意するように頷く。

「…行く意味が、見つからない。だから行かない」

はっきりした口調でそう告げて、訝しげにおれを睨むともなく見つめる。

「…そっか」

「何で君は学校にいってるの?」

「え」

宮本菖の視線がおれの首から下に移される。ああ、制服か。

「…さあ?」

そんな哲学的な問いに、答えがあるなら教えてほしい。

学校の存在意義とか、そんなもの聞いた方が敗けだと思っているたちだから、宮本菖のように登校拒否しようとは思わないけど…

…まあ、学校に行くってことには、嫌なこともついてくるよなあ。

「………」

沈黙がいたい。

「…そういやさ、さっき呼ばれてたけど」

「ああ、ああ、…ごめん。あれのことは放っといてくれる?」

「え、…うん」

「うちの母親だよ。どうせつまらないオツカイとかだから、…おれ行きたくないし」

宮本菖は、おれの随分怠惰な言い訳に控えめに吹き出した。

「ごめ…ぷっ」

「そんなに笑うような事か?…まあ、いいけどさあ」

「いや、…ちゃんとしてるヒトも、案外同じこと考えるんだなって」

「うーん…」

ちゃんとしてる、ねえ。

まあ彼女からしてみれば、そう見えるのかもしれないけどさ。

「俺には、敷かれたレールからはみ出してまでしたいことってないんだよなあ…」

俺からしてみると、彼女の方が俺の何倍もちゃんとした人に見えた。そしてそれが、ひどく羨ましかった。

「アヤメ!アヤメー!!」

「ったく、いい加減にしろよもう…!」

さすがに行かなくちゃまずいっぽい。

「ごめん…行くしかないらしいわ。じゃな」

苦笑する宮本菖に手を挙げて困ったように笑って見せた。

人は一時間も経てば起こった出来事の約56%を…つまり半分以上を忘れてしまうというけれど。

この日、宮本菖と会って話したことは、多分もう忘れないだろうな、なんてふと漠然と考えた。何の変鉄もなく代わり映えしない日常の中で、この世界を悲観する他のヒトなんて、いたとしてもみんなお互い気づかないふりを続けるだろうから。

こんなどうでもいいオツカイだって、そんな日常の一ページにしか過ぎないんだ。

そしてそこには、彼女が多分嫌っている陰口や戯れ言が砂みたいに紛れ込んで散らばっているんだろう。

ヘッドフォンを強く耳に押し付ける。おれは、溢れる雑音からそうやって耳を塞いだ。




続き書きたいなとか思ってます

短編だけど

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