14、天邪鬼対心鬼
「いつ気づいたのー?」
「確信したのはついさっき、でも前々から怪しいと思っていた」
「後学のために教えてほしいんだけど、なにが悪かったのかな…グェッ!」
首を締め上げる。
綾取りに絡まったような状態の遊馬は、おれが両掌を勢いよく握れば張力制御装置で巻き取られた糸により切り裂かれる。つまりいつでも殺すことができる、ということだ。
「おい、おいおいおい。今はおれが喋っているんだぜ? なに勝手に質問してんだよ身の程を知れ」
「……」
「そうだよ、黙ってエキサイト翻訳みたいにおれの質問にだけ答えろ」
ひとつだけ聞きたい。
否、どうしても聞かなければならないことがあった。
「どうしてナキリさんを殺した?」
「もちろん邪魔だからだよ。女王の居場所も吐いてくれたし、あとはテキトーに死んでくれないかなぁと思っただけ」
「……そうか」
「女王を狙ったのはね、ボクの顔を知ってるからさ。キミたちに会って余計なことを言われないよう口封じしようとしたんだぁー。でも意味なかったね」
「……」
「健太郎くんはどうして気付いたの?」
「前に餓鬼が入り込んだのは話したよな。散々調べたけれど、やはり餓鬼が入り込む隙間なんてどこにもなかったんだよ、あの時点でおれは隔離病棟内に鬼が潜んでいる可能性が高くなった」
「ああ、なるほどね」
「そして確信したのが、交渉参加の時のお前の緊張した態度だ」
「あれれ、ちゃんと演技したんだけどなぁ」
「静かすぎたよ、お前の心音。とっても冷静だった」
樹木さんが教えてくれたこと。
嘘つきの心音さえ押し殺す嘘つき。
「なるほどねぇ、外面ばかりに気をとられて気が付かなかったよ。その感じだと、樹木本隊長にもバレているだろうなぁ」
「そういう事だ」
「こうやって入念にトラップを仕掛けたのは、女王をひっかけるためじゃなくって、僕を逃がさないためたったわけだね。それじゃあ結婚の話はもちろん最初の女王を見たっていうのもぜんぶウソなんだね」
「ああ、その通り。真っ赤な嘘だ」
「やられたよ、嘘つきは僕の専売特許なのに」
遊馬はひどく冷静だ。
おれは手ごたえで気付いていた。遊馬の体重が、どんどん重くなっていることに気付かされた。崖っぷちへ引き寄せられていく。
「追い詰めた気でいた? こんな拘束ごときでボクを。甘い甘いよ、激アマ! もう僕の攻撃は始まっているんだぜ?」
殺さなくては、と思った。
思いっきり糸を張る。
しかし、その一瞬だけ天邪鬼を捕える感触がなくなった。空を切るとは良く言うけれど、今回は違った。ただ純粋に、クモの糸が斬られただけだ。
限界強度三百キロの糸を、切断された。
「ここまで舞台を整えてくれて恐縮だけど、もうキミのターンは回ってこないよ、たぶん」
遊馬の指だけが、端にひっかかるのを見る。
あの状態からよじ登ってきたのか?
いや、違う。そうじゃない。
遊馬は跳ぶ。階段の端に捕まった状態から、三メートルは跳ね上がった。それは腕の力ではなく、背中から得た人ならざるものによる揚力だった。
遊馬の背中から、異形の翼が生えていた。
青紫に光る鱗に細かい棘の生えた翼爪、そして遊馬の身体の三倍はあろう翼膜。すべてが異質であった。神々しささえ感じる。
「これはナキリ先輩を殺す時も使ったとっておき、奥の手だね」
「……それで、ナキリさんを殺したんだな」
「そうだよ、騒がれると面倒だからね。敬意を表して一撃で沈めてあげたよ」
なんて熱気。すさまじい高温。
身体はマグマのように熱く滾っている。これがいままで火災を起こしてきた天邪鬼の能力。そしてナキリさんを殺めた忌まわしい元凶だった。
「そうさ、この『熱』こそがボクの力だ。火種なんて指ぱっちんでいつでも起こせるよ。そして身体能力も人間とは比べものにならない」
遊馬の肌がみるみる変色する。
青紫色、死んでいるような顔でありながらその眼光はまったく衰えない。肌質も硬くなりよりいっそう化物に近づいた感じだ。
もう遊馬の面影は残っていなかった。
目の前にいるのは、ただの極悪非道の鬼。
「さあやろうか、悪玉対天邪鬼。鬼相手に人間ごときがどこまでやれるかなぁ?」
「勝負になんてならないさ、すぐにわかる」
おまえが戦う相手は人間じゃない。
心を鬼にした『心鬼』なのだから。
いまこの瞬間だけ、柿崎健太郎は鬼になる。




