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悪玉の鬼退治  作者: 菜月真直
 後章 悪玉の鬼退治。 完結編。
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九話 三年前の真相 完結


 三年前、つまりおれは17才。

 そして、弟はまだ14才。中学二年生。

 なのにあいつは、年上のナキリさんに求婚していた。マセガキにしても、早熟にしても、あまりに早すぎる。いつの時代だよ

 中学生がプロポーズ。

 結婚を前提にお付き合いしてくれ、と頼んだのか。

「康次郎くんは、本気でしたよ」

 思い出すように、呟く。

「そして、当時の私はその告白を断りました」

 そりゃそうだ。

 いきなり顔も名前も判らない男、少年の好意に応えられるわけがない。

「あの日から康次郎くんは私の後ろを尾行するような真似をし始めました。何日も何日も、一日に一回は告白されました。あの当時、断る以上の対処法がわからなかったので、手に余っていましたね」

 恋は盲目とよくいったものだ。

 それにしても、犯罪まがいの行動をとるなんて。

 誠実さがウリだったアイツをおかしくしたのは、恋だったのか。

 それも初恋だもんな。

「そして、私はつい言ってしまったんです」

「……なにを」

「わたしには好きな人がいるからお付き合いできません、と」

 まあ、それが一番効くだろうな。

「そして、康次郎くんは私に『相手はだれだ』と仕切りに尋ねてきました。そんな相手をねつ造するわけにもいかず、かといって適当な嘘を重ねればいつかとんでもないことになる、と思いました」

「……そうだね」

「そして、ここで城子が手を貸してくれました。彼女は私にこうアドバイスしたのです。『わたしはレズだから、男性のあなたとは付き合えませんって言えばいいよ』って」

 これはまた、捨て身の作戦だな。

 下手すれば社会的に抹殺されかねない。

「そして私は、城子の言う通りにした。すると康次郎くんは驚くほどすんなりと引き下がってくれました。しばらくは変な噂も立ったけれど、それが気にならなくなるくらい経ってから気づいてしまった」

 おい、まさか。

「食べ物に味がないことに、気づきました」

 ……え?

 ちょっと、え、待って、それじゃあ

 とんでもないことを想像している。

 まさか、受け入れがたい真相。

「康次郎くんは―――私を呪っていたのです」

「そんな、……馬鹿な真似」

 するわけない、とは言い切れなかった。

 あいつのことを、おれは何も知らない。

 知ってるようで、何も知らないのだから。

 ナキリさんの呪われた理由。

 決して彼女からは語らなかったけれど、まさか、おれの弟が彼女に呪いをかけていただなんて想像にもしていなかった。


「彼はある鬼に騙されました。おそらく私の性癖が治るようにお願いしたのでしょう。その願いを呪いに変えて、私に降りかかった。その鬼はいまもまだ『幽鬼』ですね」

 ――幽鬼。

 化物の総称であり、あいまいなものに付けられる名前。

 まだ名前の付いていない鬼はみんな最初は『幽鬼』と呼ばれる。

 つまりは未確認の鬼であった。

「あの時、私は死にかけた。いえ手の施しようがないのですから、本当なら死んでいたでしょうね。その運命を変えてくれたのが、元女王の八夜城子です」

「……」

「彼女は、呪い返しをしました。すると呪いの矛先は術者へと返り、康次郎くんの元へと向かったのです。城子は私を助けるために仕方なく呪い返しを発動させました」

 なんてことだ、なんてことだ。

 つまりおれは、元女王・八夜城子を呪ったから。

 完全に加害者の立場じゃないか。

 悪いのは康次郎の方だった。

 元女王は、ナキリさんを助けるために呪い返しをした。

 そこに明確な殺意はない。いうなれば正当防衛だ。

 なのにおれは、被害者だとばっかり思っていた。

 本当に馬鹿者。大馬鹿者だ。

「……その後、八夜城子はどうなりましたか?」

「呪い返しを受けて鬼に転生しました。そして行方が分からなくなってしまい、偶然再会したのが先の蜂鬼退治の時です。城子に当時の記憶は残ってなかったのは残念でしたが……」

 三年も経てば仕方ないですね。とナキリは言う。

 そんな感動的再会をおれは、台無しにしようとした。

 友の首を寸断しようとしたおれを、良くは思わないだろう。

「もういいだろう、ナキリ」

 樹木さんが声をかける。

 いままで黙っていてくれたのに、痺れを切らしたのか。でもここまで待ってくれるあたり優しいひとなのかもしれない。

 もう時間がなかった。

「元女王の居場所は、異世界の最南端にあるはぐれ塔です」

「……」

「迎撃用に造られた塔の地下。そこで傷を癒しています。触角を失った彼女に鬼の采配能力はありませんが、爪の毒針には気を付けてください」

「よくやった、この礼はいずれまた」

 ナキリさんの手錠を外す。

 両手を解放された彼女の反応を見ると、樹木さんは部屋の扉を開けはなった。足早に部屋を飛び出すと、すぐに外の方へと歩いて行った。場所を知ったのだからすぐに捜索部隊を編制するつもりなのだろう。

 戦闘力皆無なのだから生け捕りにするのだから準備がいる。

「私の役目はここまでです」

 解放されたナキリは言う。

「あとは、健太郎くんの判断にお任せします」

 女王を殺すか否か。

 選択を迫られた、それも時間は少ない。

「とりあえず、保護するよ。それからは樹木さんの指示通りにするから」

「はい、それがベストです」

 笑顔。とびっきりの笑顔。

 それを流し目で見送る。すぐにでも準備をしなければ、樹木さんたちに追いつくことができない。一秒でも早くはぐれ塔へといかなければ話にならないのだ。

 ふとナキリさんは一度だけおれを呼び止める。

 待っていたのは、お辞儀だった。

「私の友達を、どうかよろしくお願いします」

 深々と、頭を下げられた。

 そんな頼み方をされると、断れなかった。

 女王、八夜城子を保護するしか償いはできない。

 これが、三年前の真相。

こうしておれの復讐の矛先は、見事にへし折れたのであった。




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