八話、三年前の真相。
あれから、丸一日が経過する。
きっと今頃、ナキリさんへの拷問は熾烈を極めている。情報を吐くまで荒っぽいこともされていることは想像に難くない。その結果が『死』であろうとも、防人の長ならばやってのけるだろう。
なんとかして、女王の秘密を暴きにかかるだろう。
おれにとって願ったりかなったりだ。
状況はどうあれ、ナキリさんから抗隊が情報を聞き出してくれるだろう。
問題はそのあとにどうやって奴等を出し抜くか。これも事情を話せば簡単に済むと思う。
しかし、事態は思わぬ方向へと転んだ。
なんと、一日足らずで抗隊長が転がるようにしておれの元へと来た。前の図太い態度はどこへ行ったのか、非常に困った表情で開口一番こう言い放ったのだ。
「あの女を、なんとかしてくれ」
意味が分からなかった。
けれど、なにか不測の事態が起きたことだけは想像できた。おれでなければどうしようもない緊急事態が、向こうで起きている。
幸か不幸かわからない。
でもこれで、おれは堂々と拷問室に入ることができる。
しかし、呼ばれたのは隔離病棟内の端っこの部屋である。
警察署の取調室にも似た場所。
「柿崎健太郎を、連れてきました」
「ご苦労だった、あとは俺に任せろ」
そこには、ナキリと樹木本隊長がいた。
二人の表情は良くない。特に樹木さんの向こうにいるナキリはおれが入ってきたことなど気づいてるのか判らないほど無反応だ。
ナキリは拘束されていた。
後ろ手に手錠をはめられて、椅子に座らされている。身じろぎすら満足にできない状態で尋問されていたのだ。
そして気付く。気付いてしまう。
ナキリの身体が、酷く痛んでいることに。
頬には殴られたような痣、口元には吐血した跡、数々の暴行の後がある。
きっと病衣の下はそれ以上だろう。
とても直視に耐えない姿であった。
「柿崎を連れてきたぞ、さっさと話せ」
「樹木本隊長も、いまだけ退出してください」
「ダメだ、お前の我儘を聞いてやるほど暇じゃない」
なにを話しているのだろう。
おれを無視した会話がしばらく続いた後、樹木さんがおれのためにわざわざ説明してくれた。
「こいつがお前に聞いてほしい話があるらしい。それが終わらないと女王の居場所を喋らないそうだ」
「おれに話……?」
「ああ、悪いが俺も同伴させてもらう。お前をここへ連れてくるなんてずいぶんと譲歩させられたんだからな。これぐらいは融通してもらうぞ」
樹木さんはご立腹だ。
どうやらかなり手間のかかったらしい。それだけナキリの口が堅かったという事でもある。そうまでして話し合いの場を設けたかったのか。
答えは、このひとだけが知っている。
「話しを聞いてください……健太郎さん」
「もういいですよ、止めにしましょうナキリさん」
「……え?」
「もう喧嘩はよしましょう」
辛そうな顔を見ていられなかった。
だからおれは、仲直りすることに決めた。すると、ニコリとちょっとだけ嬉しそうに笑うと、喧嘩して以来初めて目が合った。
「ありがとう、では健太郎くん」
「なんですか、ナキリさん」
「これから私が話すことは真実です。この話を聞いて、それでも女王を殺したければ私はもう止めません」
「……いいんですか?」
「そのかわり、この話は他言無用です。絶対に外へは漏らさないことを約束してください。そうしたら、順を追って話します」
おれはゆっくりと頷く。
他言無用、つまり公にするべきではない情報なのだろう。
それと同時に、おれが知れば女王を殺したくなくなると計算しているあたりよっぽど重要度が高い話なのだと推測できる。
おれはもう、覚悟していた。
どんなことを言われても動揺しない。
ナキリさんは、語る。
「三年前、健太郎くんの弟・柿崎康次郎くんが呪殺されました。そしてあなたは康次郎くんを呪った相手を呪い返し、異常聴覚である『地獄耳』になってしまった。そのことはあなたが一番良く知っていますね」
「はい、そうです」
「しかし、この話には裏があります」
おれの知らない舞台裏。
ナキリさんは知っているという。
一体、これ以上なにがあるのだろうか?
「康次郎くんが亡くなるすこし前、健太郎くんは彼から『ある話』を聞いてましたね」
「ある話ってまさか……」
「恋バナ――つまり好きな子ができた、という話です」
聞いている。
好きな子ができたから告白するにはどうしたらいいか、とたしかに答えた。年長者としてあることないこと知識をこねくり回して、それっぽいことを吹き込んだことを憶えている。
「康次郎くんの初恋の相手が問題なのです」
「その相手が元女王だったってこと?」
「あなたもよく知っている人物ですよ」
「もったいぶらずに教えてほしいな」
「まあ、私なんですよ」
ナキリさんは自分を指す。
え? 康次郎の想い人って、え?
つまり?
「あいつはナキリさんのことが好きだったってこと?」
「そういうことになります」
びっくり、あいつ年上好きだったのか。
なかなか思いっきりのあるやつである。
「そして、女王の元になった人間――八夜城子は私の元クラスメイトです。勉強はからっきしでしたが、情に熱く運動が得意な女の子でした。私の数少ない友達のひとりでした」
「なるほど、友情が今になってぶり返したってわけだ」
「いえ、本題はここからです」
ナキリさんが息をのむ。
一瞬だけ考えが止まった。
「あの日、康次郎くんは私にプロポーズしました」




