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悪玉の鬼退治  作者: 菜月真直
 後章 悪玉の鬼退治。 完結編。
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七話、異端審問



 深夜の襲撃から数時間たつ。

 特に報告することはない。別に被害があったわけでもなく、変に混乱を煽ることを避けるためである。あくまでこちら側で捌ききれたトラブルであると解釈することにした。

 もっとも、説明どころの話しじゃない。

 上ではすでに、事件は起きていた。

 おれ達の前に現れたのは、抗隊だった。

 この世界軸で『抗隊』は治安維持を生業としており、人間側の規律を統率する警察に似た仕事をしている。抗隊が関わって喜ぶ者などめったにいない。

 体格のいい強面の男。

 制服から太い手足をのぞかせ、いかにも我が強そうな丸顔をしている。両腰に折檻用の木刀が二本ぶら下がっているのは抗隊か否かを見分ける重要なポイントなので判りやすい。

 今回は子鬼の件ではなく、別件であった。

「昨晩、大黒門で火災が起きた」

 脈絡もなく、そう言われる。

「だ、大黒門って……最終防衛ラインじゃないですか」

「うむ、なんとかボヤで済んだが……原因が鬼である可能性が高い」

「……」

「残念ながら、決定的な証拠を得るには至らなかった」

 こうして重要参考人たちの前に現れたことには何か意味があるはずである。もちろん護衛だなんて好意的なものではなく、全部持っていくような劣悪な意味であることは容易に想像できた。

「キミたちが生還してから、ろくなことがない」

「……そんな言い方」

「ないだろう、ってか? 悪いがなりふり構ってられないられないんだよ。人間界の平和を守るためなら、この異世界さえも切り離す覚悟がある」

「覚悟……?」

「防人の長たちは、覚悟を示された」

 嫌な予感がする。

 防人の長が絡んでくるとロクなことがない。現場の事など知らないくせに利潤のために無理難題を押し付けてくるからだ。今回も似たようなものだろう。

 それを聞いたとき脈拍がとくん、と高まった。

「生還者諸君を―――『異端審問』にかけることに決定した」

 少女たちの悲鳴。

 絶望の色に染まった声、その場で座り込む者、互いに抱き合って震えを押さえる少女たちの姿がある。

 いわば死刑宣告みたいなものだ。

 ー――異端審問。

 鬼か人間かを判別するために行われる拷問裁判。しかし、裁判官や尋問官はあちらの人間なので公平性は欠片もない。実際は無理やり犯人をでっちあげることで有名だった。

 現代の魔女狩り。

 鬼の有無にかかわらず、この中の誰かが処刑される。

「たとえば、自分の身体……爪先にちょっとでも怪しい腫瘍ができたとしよう、良性か悪性か判らないけれどなにかの腫瘍ができたとして、普通の人ならどうすると思う?」

「……」

「切っちゃうよな? 悪性である可能性が少しでもあるのなら切っちまうぜ? その腫瘍が良性なら大変悲しい話ではあるけれど、悪性だった時の被害は最悪『死』だからな」

 確かに、この男の言う通りだ。

 それが一番効率的だ。

「さてと、じゃあまずお前から来てもらおうか柿崎健太郎」

「……憶えてろ」

「達者でな、あの世でまた会おう」

 両手をガッチリと掴まれると、そのまま出口へと持っていかれた。いやに冷静なのは、単に頭が回らないだけの思考停止状態なのかもしれない。

 無事じゃすまないだろうな。

 そんな他人事のような感想しか抱けないまま、その場を後にする。

 だから、次の叫び声が誰のモノかなんて最初は判らない。

 誰かが、抗隊に向かって叫んだ。

「知っていることを全部お話しします」

 はっきりと、言ってのける。

 発言者はナキリだった。

 そのセリフは抗隊と抗隊長の足を止めるだけの魔力がある。彼女を除く全員の目線が釘づけになったのは無理もない話だろう。

 自分から拷問しろ、と言ったのだ。

 私は秘密を知っていると言ったのだ。

 もうこれ以上の献身がどこにあるだろう。

「こ、これはこれはナキリ救護隊長どの。あなた自分の言っている意味を分かっているんですか?」

「はい、私が知っていることを話します」

「無事ではすみませんよ?」

「……承知しております」

「ふふ、いい目だ。判りました」

 おい、ナキリどのを丁重にお連れしろ。

 合図とともに、おれは部屋の奥に突き飛ばされる。

 代わりに抗隊二人はナキリの肩を掴むと、そのまま出口へと引っ張るようにして部屋から出ていく。あまりに捨て身な選択に対して、おれは驚愕を拭いきれない。

 またあの人に、ナキリさんに救われた。

「な、ナキリさん!」

 思わず名前を呼んでしまう。

 すると彼女は一度だけ、こちらを振り向く。

「大丈夫ですよ、すぐに終わりますから」

 ニコッと自然に微笑む。

 その笑顔はやっぱり、すこしだけ困ったような笑みだった。




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