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悪玉の鬼退治  作者: 菜月真直
 後章 悪玉の鬼退治。 完結編。
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五話



 隔離病棟に到着する。

 名前の陰気なイメージを裏切らない、狭い部屋。木の根のように広がる様子は蟻の巣を連想させる造りであり、通路は人とすれ違うのに端へ寄らないとすれ違えないほどである。

 それでも、病院だけはある。

 衛生面は意外とまともらしい。息苦しさもないし、なにより温度が適温に維持されていた。見た目と違って住み心地は悪くなかった。

 ただし、電気が通っていない。

 懐中電灯や蝋燭が唯一の明かりである。さらに遊馬はパソコンを取られたので暇を持て余して暴走寸前だった。

 独房にも似た小奇麗な部屋。

 ベッドが人数分だけ置かれた部屋には計十名程度の少年少女が収容された。女王蜂鬼の性質上、入院させられたのはおれを除く全員が若い女性である。

 もちろん患者でないおれは、床で寝なければならない。

 遊馬のベッドで、雑談をしていた。

「そういえば、お前も蜂鬼の毒を喰らってたな。大丈夫なのか?」

「いまさらそこ気付くの!? 僕のために体張って助けに来てくれたんじゃないの!? 酷い! あんまりだぁああッつ!」

「お前、そんなキャラだったっけ?」

 蜂鬼の後遺症なのかもしれない。

 こいつはこのまま入院させるのがベストだろう。

「いま心の中で酷いこと言われた気がする」

「気のせい気のせい」

「まぁいいや。指相撲しようよ」

「止めておけ、おれはそこそこ強いから」

「勝てないくらいが丁度いいね。ヨーイドン!」

 案の定、遊馬は貧弱だった。

 目で見ずとも、あっという間に抑え込める。そもそも指を使う競技で曲弦技を使うおれと勝負になるはずがない。指相撲をはじめ、綾取りなどは曲弦技師の独壇場である。

 あまりに余裕なので、指相撲をしながら周りを観察する。

 見渡せば、様々な少女がいる。

 みんな蜂鬼に連れ去られ、女王の毒を受けた者たち。

 今のところ副作用などはないけれど、彼女たちに襲う試練は風評被害なのかもしれない。蜂鬼に噛まれた人間を、人間界の連中は普通に接することなどできないだろう。

 本当に、不憫で仕方がなかった。

 その中に、あの人の姿を見る。

 ナキリ。救護隊長。

 いつもの浴衣ではなく、患者用の病衣を着ている。少女たちに目もくれずただボウッと、虚空を眺めて固まっているだけだった。まるでそこだけ時間がゆっくり流れているかのような、異空間の中にいる。

 相当参っているようだった。

 目じりには泣いたような跡が残っている。

「行かないの? ナキリ先輩のところへ」

「やめとく」

「あの火災、仲間が死んだことを知ってかなりショックだったろうね。自分の子どものように可愛がっていたらしいから、現実を受け入れるにいは時間が必要だよ」

「……」

 気の毒ではある。

 あの人の部下には一度助けられた。

 蜂鬼の巣から生還したとき、献身的に世話をしてくれた恩はいまになっても忘れない。もうお礼ができないと思うと、少しだけ気分がブルーになるものだ。

 死んだらもう恩さえ返せない。

「……ん? あれは」

「?」

 あの人に近づく影を視界に捉える。

 彼女の前に着くと、そのまま隣に座った。

 見覚えがあろう、おれが憧れている人物なのだから。

「……樹木高貴さん」

「あれが最強の曲弦技師。ナキリ先輩になんの用かな?」

 会話までは拾えない距離。

 近づけば向こうに気付かれてしまうからだ。

 空元気で微笑む彼女に対して、足を組んで話す樹木さん。

 どんな会話をしているのだろう。

 そして、あろうことか、樹木さんは彼女の肩へ手を回す。

 そのまま彼女を引き寄せ

「あわわ……これは」

 言葉にならない。

 人に見られている状況で何をやっているのだろうか。

 励ましているのだろう。

 どっちにしろ、正視に絶えない。

 時間にして十秒に足らないほどだけれど、おれの頭では延々と彼女たちの抱擁が続いていた。あまりに刺激が強すぎたのだ。

 本当に、どうしてしまったのだろう。

「もしかして、恋かな?」

「……は?」

「ヤキモチ焼いてるんだよね? 樹木本隊長に対して」

「……」

 嫉妬? なにをいまさら。

 この胸を鷲づかみにされたような感覚は、ジェラシーなのか。

 落ち着かず、思わず遊馬の指に八つ当たりしてしまう。

「あいたたた、指、おもに爪が、肉に食い込んでるよ!」

「指相撲ではよくあることだ」

「そんなこと言って、本当は……、イダダごめん、ごめんなさい」

「ほらほら、勝てないくらいが丁度いいんだろ?」

 おれと樹木さんでは、勝負にすらならないのに。

 もう関係ないって心に決めたのに、どうしてだろう。

 思い通りにならない自分が、本当に腹立たしい。

 ああ、本当に嫌になる。

 いつまでここに閉じ込められるのだろう。

 そんな気持ちも、すぐに解消される。

 なぜならまた、こうしている間に事件が起こったからである。

 その情報を知ったのは次の日の朝。

 場所を聞いて不安がよぎる。

 異世界と人間界を分ける大黒門。

 人類の最終防衛ライン。

 事件が起きた場所は、およそ最悪の場所であった。



 


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