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悪玉の鬼退治  作者: 菜月真直
 後章 悪玉の鬼退治。 完結編。
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三話、だれが得をするのか?

 中央病院跡地。

 地下世界と言えど、人が住んでいるのだから当然人災も起こる。

 しかし、よりにもよって負傷者が集まる病院が火事によって跡形もなく燃えてしまうのはあまりに理不尽では無いだろうか。ここが燃えたら、一体どこが負傷者を受け入れるというのだ。

 とにかく中央病院は燃え尽きた。

 大火災。

 病棟内の入院患者および医療従事者を多数含めた被害者が出た。

 大勢の人が焼け死んだ。

 その仏の中には、救助隊らしき人もちらほら見て取れた。

 おれが蜂鬼の巣から命からがら逃げのびた時に、手厚い看護をしてくれた救護班の人も混じっていたかもしれない。

 災害は人命をいともあっさり奪っていく。

 これでは鬼どもと変わりない……いや、退治すればいいだけ鬼の方が幾分マシである。

 運よく被害を免れたのは、隔離病棟にいたあの人と拉致された少女たちのみである。

「これはもう、直接聞くしかないのかなぁ」

 あの人。救護隊長。

 今度はもっと荒っぽくなるかもしれない。

 ひょっとすると、曲弦技を披露する事態になる可能性もある。

 おれは焼野原から踵を返す。

 目的地は決まっていた。あのひとがいる場所、女王の居場所もしくはヒントになる情報を確実に持っている女の場所へと向かうのだ。

 情けはいらん、悪玉になりきれ。

 あの女を、尋問する。

 しかし、おれがあの場所へと向かうことはなかった。

 なぜならその前に、おれが呼び止められたからである。

「おい、柿崎健太郎」

 振り返ると、迷彩服を着こなした男が立っていた。

 年は二十代。威圧的な眼差しとは対照的に小柄な体格はすこし目に付くけれど、補って余りあるカリスマ性を感じられた。

 おれはこの人を知っている。

 曲弦技用のグローブに重心を悟らせない浮遊感。

 直接会ったことはないけれど、感覚で理解できた。

 生きる伝説。

 地下世界でもっとも有名な曲弦技師。

 そして現役本隊長。防人のエース。

 それが樹木高貴。最強の曲弦技を振るう男だった。

「もしかして、樹木高貴さんですか」

「なんだ、俺を知っているのか?」

「一応、これでも曲弦技師の端くれで、あなたの曲弦技に憧れて曲弦技師になったようなものです。本隊長は神様みたいな存在なんですよ」

「その『本隊長』って呼び方やめろ」

「はいすいません」

 わりと乱暴な反応に思わず我に返る。

 ちょっとだけ幻滅したけれど、おれを夢中から引っ張り上げてくれたのだからあながち非難された行動ではないのかもしれなかった。

「樹木さんは、その、お仕事ですか?」

「……逃げてきた」

「……、……へ?」

「ちょっと外へ出るだけでお前の十倍以上もテンパった連中が、アヒルの更新のように付いてきやがる。悪意がないとはいえ、ファンレターと称して自宅にテロ攻撃を仕掛けてくる……などいろんなところから逃げてきたんだ」

「有名税ですね」

「そんな感じだ」

 樹木さんは男前だからなおさらだろう。

 中性的な顔立ちなのに、実力もピカイチなのだから、隅に置けない存在。

 これ以上嫌われたくないので、大人しくしていよう。

「ところで柿崎、お前の意見が聞きたい」

 唐突な質問。

 まるで最初からそれが狙いであったかのような口ぶりである。

「お前、この火災についてどう思う?」

「え?」

「この火災と女王蜂鬼との因果関係はないのか、と聞いているんだ」

「……どこまで知っているんですか?」

「どこまでも知ってる。お前のこと、ナキリのこと、そして女王蜂鬼のこと、何からなにまで全部調べた」

 知らないところで有名になる。

 思った以上に嫌な感じであった。

 これが……有名税か。

 いや、ちょっと違うかもしれない。

「女王がこの火災を引き起こしたとでも? それこそなんの根拠が……」

「この火災、蜂鬼退治に関係した者が皆殺しになっている」

「……え?」

「さらに蜂鬼退治の生体標本はみんな焼けてしまった。これだけ根拠があれば十分だろう。あまりにも都合が良すぎる」

 女王にとって都合が良すぎる状況。

 基本的に不審な事件は、それによって誰が得をしたかで犯人が大体判ろうものだけれど、今回がまさに女王なのだ。

 女王が火を着けたのか。

「あるいは、女王に与する何者かの仕業か。いずれにせよ、人類生活圏に侵入される前に叩かなきゃならんから骨が折れる」

「もしそうなら、大変な状況じゃないですかこれ?」

「馬鹿野郎、大変なのはこれからだよ。いまから女王の行方を探さなきゃいけない。放火した鬼も即行で見つけて、退治するだけだ」

 樹木隊長は、遠い目をする。

「そのための曲弦技だろ?」

 ……そうだ、その通りだ。

 曲弦技は人を傷つけるためのものじゃない。鬼を退治する技術だ。

 おれはなんてことを思っていたのだろう。

「あまり一人で行動するなよ」

 樹木さんは流し目でこちらを見る。

 軽い調子ではあったけれど、意味深なものだった。

「大丈夫ですよ、腕には自信がありますから」

「そいつは結構、だがなお前も含め、女王関係者は気を付けといた方がいい。なにかあってからじゃあ遅いんだからな」

「心配してくださるんですか?」

「……もう行く」

 樹木さんはもう振り返ることはなかった。

 女王関係者が狙われる。

 遊馬の予想は思ったより、的中していたと言える。

 おれはまだ、事態の危険性を把握していなかった。

 







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