第二話 女王蜂鬼を探す。
「相変わらず、健太郎くんは短気だよね」
おれの話を聞いていた遊馬は言う。
ナキリさんと決別したこと、事の顛末を聞き終えたうえで彼が抱いた率直な感想だった。とりわけ訂正することでもない。
たしかに、おれは短気だった。
「そういう事だから、よろしく頼む」
「なにをどうよろしく頼むのか、いかにお利口さんの僕でも判らないよ」
「女王蜂鬼を殺したいから、場所を探してほしい」
「……」
「金なら払う」
「……、ちょっと待ってね」
遊馬はパソコンを開く。
ものすごい速さでデスクトップが立ち上がり、キーを連打するとあっという間に蜂鬼退治の記事、被害報告書、これからの動向、様々なデータが画面に展開されていった。あっという間に欲しい情報が手に入る。
こいつの情報収集能力は何度もお世話になってきた。
可愛い顔して割とやる子である。
その顔が、ほんの少しだけ曇った。
「うーん、これはチョイ難ね」
「そこをなんとか」
「まあまあ、ボクの説明を聞いてからでも遅くないよ」
遊馬はとりあえず座りなよ、と言う。
こいつの部屋、狭い安アパートの香りがする部屋は雑誌やらなにやらで溢れかえっていた。まるで暴れ馬をなだめる騎手のように、彼はおれをなだめると、たどたどしくコーヒーを淹れてくれるのだった。
本当に、できたやつだ。
怪我人に差し入れさえ用意しないおれとは大違い。
「ナキリ先輩だと思ってた」
「?」
「僕は十中八九、ナキリ先輩が女王を匿ったんだと思ったんだ」
「ああ、あの人ならやる。絶対にやりかねない」
「その根拠は、このニュースから判断したわけだよ」
遊馬はパソコン画面を指さす。
蜂鬼退治の見出し、先隊全滅の大惨事であるビッグニュースは見事に本隊長・樹木によりかたき討ちを果たした、と大きなタイトルが踊っていた。
そんなことはどうでもいい。
問題はこの記事の最後、結びの部分であった。
『巣の主、女王は交戦の末討伐されたし』
ここだけ事実とは異なっていた。
「ちゃんと女王は生け捕りしたんだよね?」
「ああ、間違いない」
「つまり、ナキリ先輩率いる救護班が回収するフリをして女王を運び出した。そして本隊へは虚偽の申告をした。蜂鬼の巣に近かった救護班ならそれが充分可能だ、それしか考えられないよ」
「すべては鬼を生かすためにか」
「この仮定なら、ぜんぶ筋が通ってくる」
そう、きっとそうだ。
鬼退治に異常なほど毛嫌いしていたあの人ならばやりかねない。ああやって誤魔化して、結局は生かしたいなどと言い始める。
おれと方向性がそもそも間違っていたのだ。
いままでがおかしかったのだ。
だから病棟へ押しかけて、あの人と決別した。
「でも、あの人は白を切った」
「うんそうだね、ナキリ先輩は知らないと言った。それは健太郎くんが女王を殺すからだ。よっぽど嫌なんだろうね、なにか妄執さえ感じるよ」
遊馬は自らのコーヒーを口に含む。
女王に一体なにがあるのか。
「首謀者がダメなら仕方ない。他の協力者に聞くしかない。さすがに一人や二人、口の軽い奴はいるだろうから、地道に情報を聞き出すんだ」
「蜂鬼退治の時、あの人の所属班だった連中はどこ勤務だ?」
「中央病院だけど……」
「そうか、ありがとう」
おれはすぐに席を立つ。
あっけにとられる遊馬を置き去りにして、腰を浮かせた。
「待って、健太郎くん」
「あとはおれがやるから心配いらない」
「だから落ち着いて、ここからは危険なんだよ」
「なにが危険なんだよ」
「このままじゃあ、僕らもヤバい」
遊馬が真顔で訴えてくる。
いつもとは違う、本気の本気な顔はおれが部屋を飛び出す気力を奪うには充分に効果があった。いま一度だけ浮かせた腰を下ろす。
「……どういう意味だよ」
「実はその、大変言いにくいんだけど」
遊馬の目が泳ぐ。
なにか大事、それでいて発言がためらわれる何かがある。
「なんだよ、言えよ」
「実はもう、中央病院はないんだ」
「……ない、ってなんの比喩だ」
「いや、簡潔に言うと……」
鬼気迫る形相で、遊馬は言う。
出来るだけオブラートに包んだ彼の発言。
あまりのタイミングの悪さに、思わず座り込んだ。
―――中央病院は昨日、火事によって全焼した。
さいごの手がかりが、文字通りに燃え尽きた瞬間だった。




