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悪玉の鬼退治  作者: 菜月真直
 後章 悪玉の鬼退治。 完結編。
17/34

 第一話 決別は裏切りから生まれる。

 話はこれで終わらない。

 本来なら、それこそ昔話や映画ならばここらでスタッフロールなんかが流れるだろうけれど、悪玉の鬼退治は少しだけ違う。

 まだラスボスを倒していない。

 なんにも解決していないのだから。

 おれは、すべての原因に向かって叫んだ。


「ふざけんなッ! マジでふざけんなよお前!」


 隔離病棟の個室。

 おれは取り乱していた。

 病院で寝込んでいるナキリさんに暴言を浴びせるだけでなく、あろうことか胸倉を掴んで顔を思いっきり引き寄せたのである。

 ナキリさんは目をぱちくりさせたまま喋らない。


「どうしたのです、お見舞いに来てくれたと思ったら急に大声を出して」


「あんたは『アレ』をどこにやったんだッ! 答えてもらうぞ、どんな手を使ってでもッ!」


 例のアレ。

 言葉にするまでもなくナキリさんにも判っていた。

 蜂鬼退治の功績。

 そして、おれの宿敵とも呼べる鬼の名前。


「女王蜂鬼をどこへ隠した! 答えろッ!」


 期待を裏切った張本人に対して、言い放った。


「なんのことか……さっぱりです」


「しらばっくれるなよ、ナキリさん。おれはもう知っているんだ。あんたが女王を生きたまま匿って、あろうことか逃がす手助けをしたってことぐらいお見通しだッ! うまく隠したつもりだろうが、おれは誤魔化せないぞッ!」


「……、私は知りません」


「知らぬ存ぜぬじゃあ通らん。おれはアレを殺すためだけに曲弦技を身に付けたッ! ここまで来て、こうして追い詰めたのに、どうして邪魔するんだナキリさんッ!」


「……、……」


 蜂鬼の巣でもそうだった。

 おれがトドメを刺そうとしたけれど、ナキリさんは邪魔をした。

 触覚、メインコンピュータを司るコントローラを叩いたけれどあれだけでは死んだことにはならない。再起不能ではあるけれど、まだ生きている。

 ならば殺さなくてはならない。

 こんなことなら、あの時、女王の首も糸を絡めた時に決めておくべきだった。迷うことなく女王の首を寸断しておけば、このような事態は避けられたのかもしれない。

 どっちにしろ、後の祭りではあるのだけれど。

 恨みごとを言わずにはいられない。


「女王の触角を切断したのだって、本当は納得いかなかった。けれどあれは最初から女王を助けるためにやったことなんでしょ? おれに殺させないために、女王を死なせないためなんでしょ? どうなんだよッ!」


「……、……手を放してください。息が、苦しい」


 ナキリさんの首が絞まっていた。

 胸倉を掴んだまま、渾身の握力を込めていたのだ。

 おれは乱暴に、襟から手を退けた。

 ナキリさんは、乱れた襟を直すことはなかった。


「……健太郎君、あなたの気持ちは痛いほど判ります」


「……」


「ですが、あの場でベストでした。女王の触角を切り落として、意識不明の再起不能にすることこそが最良の選択だったのですよ。居場所が隠されてしまったのも、きっと軍にも考えがあるのでしょうから私たちの出る幕ではありませんよ」


―――だから、落ち着いてください。とのたまう言葉に


 まるで諭すかのように言いかけたので。


―――バチンッと渇いた音が重なる。


 おれは思わず、あるいは欲望のままに、ナキリさんの頬をはり倒した。


 ナキリさんは頬に手を当てて、へたりと座り込む。

 言い訳はない。弁明もない。

 ただ殴りたいから殴った、それだけだ。

 これが最悪の男の行動だと言うのなら、甘んじて受け入れよう。

 そもそもおれは、悪玉なのだから。


「もうあんたは信用できない」


 もう一生恨まれたっていい。

 そういう気持ちで言い放った。

 別に始めてのことじゃなかったし、心は穏やかなままである。


「あんたが逃がした女王。絶対に始末してやる。法の壁だろうがなんだろうが、おれには関係ない」


 病室の出口へ歩き出す。

 もう話はない、という意思表示でもあり、ナキリさんとの会話することはおれ自身にとっても、彼女にとっても苦痛でしかないと判断したからでもあった。


「待って……ください」

 ナキリさんのか細い声が聞こえる。

 もう関係ないけれど。


「今までのおれと一緒にしない方がいい。もうおれに近づくな。あんたとの関係も今日この場でおしまいだ。これから話しかけるな、おれもあんたを無視するからさぁ」


「待って、健太郎くん」


「気安く呼ぶなよ、気持ち悪いなぁ。それと、おれの邪魔をするのは勝手ですけれど、その時は気をつけてくださいね」


 ナキリさんと目が合う。

 死んだ魚のような瞳、光を失っている。

 きっとおれもこんな眼でナキリさんを見下ろしているのだろう。


「邪魔したら、殺しちゃうので」


 こうしておれはナキリさんと、決別した。


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