1、根深き世界より。
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門扉を開くと、豪勢なシャンデリアのある大広間に出る。
ヒノキの香りが染みつく木製のフローリングと新雪のように柔らかい真っ赤なじゅうたんが真ん中にある大黒柱を囲むようにして出迎えてくれた。
夜になれば、黄金の燭台に明かりが灯される。
うす暗い山吹色の照明はじゅうたんの赤に反射してよりいっそう暖色を際立たせていた。星のない空が顔を出す半球状の天井や年季の入った旧時代的な扉も明かりが揺らぐのに合わせて燃えるように輝いてく。
窓の外を見れば、地平線いっぱいに広がる湖。
そして雲一つない空が来訪者を待っている。
ここで多くの新入りは異常に気づくことになる。
日中なら猛々しく照りつける太陽がない。
夜中なら優しく輝く月がない。
風がないから波もない。
雲がない。
星がない。
なにもかも足りない空間。
当たり前のことがない異質な空間であることを自覚する。代わりに水の湧き出る音と、はるか遠くから鬼の鳴く声が聞こえるだけだった。
この世界に限っては、横に自由を求めるのはナンセンスである。
地球であるのは間違いないけれど、住む世界が違うのだから。
―ーー世界軸。
地下に広がるもうひとつの世界。
かつて人が地獄と錯覚した場所であり、神隠しの原点。
どこまで続くかわからない無限の谷底であり、未知の詰まった魔界の入口である。