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妖の子育て日記  作者: 雪りんご。
序章 
2/2

日記1:寝返り


「うわぁぁぁ!!」

炎龍の叫び声が、屋敷中に響き渡る。


おそらく、たまに聞こえるこのような声が原因で、

“妖の巣喰う屋敷”と呼ばれてしまうのだろう。


「何事よ、炎龍」

砂雪が慌てて声のするほうに向かう。


「瞬が、しょんべんたらしやがった」

と、瞬を逆さづりにしながら言った。



「そんなの、氷らせて処理してしまえばいいじゃない」

と、砂雪は、逆さづりの瞬を抱きかかえ、言葉の通りの処理をする。


「…ネコ娘、私だけか?瞬の逆さづりに、いささか問題があるのでは?と、思ったのは」

「いえ、凛だけではないのです。私もそう思ったのです」

獣のような耳の生えた少女と、首のない少女がそう話す。


ごもっともだ。


「凛、ちょっと言ってきて欲しいのです」

「ネコ娘、そういうのは、言い出した奴が行くものだ」


沈黙。


「放置なのです」

「同意見だな」

そうして二人は、今見た光景をなかったことにした。




●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○




「よし、あと少しだ!」

「頑張れ、瞬!!」

そう言う炎龍と砂雪の前には、あと少しで寝返りをうてそうな瞬。


「ぅあ、あ。…あ~ぅ」

と、何やら今一気合の入らない声を出しながら、挑戦する瞬。



ちなみに、現在午前一時である。



「ネコ娘。瞬にやる気、あると思うか?」

「以心伝心ですのね、凛。きっと、同じ事を思っていると思うのです」

(瞬、やる気ないな…)

(瞬、やる気ゼロなのです…)


同じ事を思っていた。


「うぅ~あぅ!」

と、気合を入れなおして、勢いをつける瞬。


「良いわよ、瞬。そのまま行ってしまいなさい!!」

「行けー!!」

二人の声援を受け、瞬は見事に寝返りをうった。


「よっしゃ――っ!!」

「やれば出来るじゃない、瞬!!」

二人の賞賛の次の瞬間。


「だぅ!!」

と、『やったね』という声の後に、一瞬で部屋一面が氷付けとなった。


「凛、寒いのです」

そう言い、肩を震わせるネコ娘。

「愚問だな、ネコ娘。まわりを見てみろ」



一面氷付け。

畳の大広間すべてが、氷っていた。



「いえ、そういう意味ではないのです…」

「ネコ娘。言いたいことは、痛いほどよく分かる。だが―――」

凛の視線の先には、炎龍、砂雪を筆頭に、浮かれている妖たち。



「瞬が妖の力を使ったぞ!!」

「この歳で!!」

「見込みがあるじゃねぇか!!」

「今日はめでたいわね!!」

と、口々に叫ぶ始末。


「誰か、この部屋の氷を溶かそうと、思わないのですか?」

「愚問だな、ネコ娘」

凛がため息交じりに言う。


「既に我ら以外の常識を持つものは、この屋敷に居ない」

氷狼でさえ、瞬が寝返りをうち、さらには、妖の力を使ったことに、喜びを覚えている。



「いや、めでたいとは思う」



ここ数ヶ月寝食を共にした赤子が、寝返りをうったのだ。

成長した、という意味でうれしくないはずがない。


しかも、妖の血をしっかり継承していたことも、証明した。

実にめでたいことばかりだ。


だが、実際問題として。


何百年、それこそ何千年を生きる妖たちが、目の前の状況を無視して、

このめでたさだけに目をやる。

というのは、いささか問題ではないかと思う。



「うれしいのは、誰もがみな同じなのです」

深々と頷く凛。

「そうだ。だが、だからといって、この状況…

 少々浮かれすぎだと、我は思うのだが…」

既に宴会が始まっている。


「…先代方が居ても、変わらないのです、きっと」


初代・ぬらりひょん、雪女の雪乃(ゆきの)夫妻は、『隠居だ―――!!』と、言ったきり行方不明。

が、彼らが居ても状況は変わらないだろう。

むしろ、孫の成長を喜び、ここに居るメンバーで一番激しい行動に出るだろう。


「二代目が…。せめて、二代目の旦那が居れば、状況は芳しい方向に向かっただろうに…」


二代目・久遠和莉(くおんあり)、ぬらりひょんと雪乃の娘・弥雪(みゆき)は、現在旅行中だ。


二代目の旦那、というのは和莉のことだ。

陰陽師である和莉は、人間世界で育った。

つまり、常識がある、常識が通じるということだ。


「凛。居ない人を求めても、意味ないのです」

尤もである。


「ネコ娘。(わたし)と一緒に、月見酒でもするか?」

「グッドな提案なのです」


こうして、瞬の寝返り&初めての力の発動の日は、ドンチャン騒ぎで幕を閉じた。

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