赤子
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
今日も赤子の大きな泣き声が屋敷中に響き渡る。
「うわぁぁぁぁぁぁん!!
ってぇ、泣きたいのはこっちだボケ―――!!」
大きな男が赤子を投げつけようとする。
「って、炎龍!!やめなさい!!」
一人の女に一瞬で氷付けにされる炎龍。
「ごめんなさいね、こんな野蛮な奴ばっかで」
赤子をあやす女。
「野蛮で悪かったな!!」
「あら。もう、氷をとかしちゃったの?
もう少しあそこで反省してればいいのに」
嫌味をこめて言う女。
「生憎だな。俺の性質は、『燃やす』ってのを忘れたか!!」
(うざいわね…こいつ)
心底うざそうなのを顔にだす女。
「だいたい…砂雪!お前、世話できんのなら最初からしやがれ!!」
「あら?してもいいわよって前も言ったじゃない。
―――――ただ、そのかわりに家事を全部やってね」
「断る!!」
「そう、ならこの子の世話をして」
ばっさりと切る砂雪。
「そう言ってやるな、砂雪」
部屋の奥で静かに座す大きな白銀の髪の狼(?)。
「氷狼様、ならアナタがみてくださいな。
私とて忙しいのですよ?」
「砂雪も知っておろう。ワシは前回その赤子に…」
「…泣かれていましたね、そういえば…」
ばつが悪そうに視線を逸らす砂雪。
「ならせめて、この子に真名を付けてあげてくださいな」
「ワシに、この赤子の真名をつけろ…と?」
「えぇ」
氷狼の問いに微笑み返す砂雪。
「そうじゃな…」
真剣に考え込む氷狼。
「そういえば」
今まで黙っていた炎龍が、おもむろに口を開く。
「なんじゃ?」
「城下で聞いたんだが…」
歯切れの悪い炎龍。
「珍しいわね、アナタが言葉を選んでいるなんて。
槍でも降ってくるじゃないかしら」
茶化す砂雪に対して、真剣な眼差しの炎龍。
どうやらただごとではないようだ。
肩をすくめ、おとなしく聞く体制に入る砂雪をみて話し始める炎龍。
「城下のはずれで、一人の赤子が生まれたんだとよ」
(至って普通の話ね…)
「その赤子はなんでも、生まれた瞬間から胸のところに片翼の翼に鎖が巻きついた刺青…みたいなのがあったんだとさ」
(片翼の翼…)
(鎖が巻き付いている…)
砂雪と氷狼が見る先にはあの赤子。
「って、城下のはずれって、ここじゃないの!!」
「瞬の話そのままではないか」
「だぅ?」
振り返る赤子。
その胸には、炎龍の話にあった片翼の翼に鎖が巻きついた刺青。
「…チッ、ばれたか」
そう言い残すと、炎龍は全力疾走で、部屋をあとにした。
「逃げたわね、炎龍…。あとで、憶えておきなさいよ…」
砂雪を中心に、ブリザードが起こる。
「さて、氷狼様。そろそろこの子に名前をつけてあげてくださいな。
幸せがくるような…そんな名前を…」
「そうじゃな…」
より一層真剣に、考え込む氷狼。
「永世…でどうじゃろうか?」
「永世…ですか?」
頷く氷狼。
「この世に永遠はないが、この時代だけでも…。
一瞬だが、その一瞬だけでも幸せが来るように…。そんな意をこめて」
「永世…いい名前ですね。―――――――さぁ、永世。今からアナタの真名は、永世よ」
砂雪の言葉に、元気な返事を返す永世。
「だぅ!!」
こうして、妖たちによる子育ての生活が始まった…