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待状09 -家庭教師サークルの小さな世界 23(エピローグ)

後日譚|補習塾副本・帰還の後


程晉陽(チェン・ジンヤン)

彼は目を開けた。脳裏が完全に空白の忘却に呑み込まれたわけではなかった。

すべての経験を、彼は確かに覚えていた。巨人の輪郭、霊能を交換した際の身体感覚、本源によって覚醒したあの氷藍色の瞳——その一切が意識の中に留まっている。ただ、記憶の画面の輪郭だけが、まるで清水に浸されて滲んだ墨跡のように少しずつ曖昧になっていくだけだった。だが、たったひとつだけ、鋭く、生々しく、遮るものなく心に突き刺さっている念があった。

——古珞鸒(グー・ローユー)が、二度と他人とあのような親密な霊能の接触を持たないでほしい。

その心念は突如として湧き上がり、何の理屈による飾るもなかった。自分でもそこに幾分かの横暴さを感じていたが、自分を偽るつもりはなかった。これこそが、リアルに湧き上がってきた感情なのだから。

彼は体を起こして座り直し、枕元のスマートフォンを手にとると、指先で画面を滑らせて一連の番号をひとつずつ入力していった。劉張三(リウ・ジャンサン)、湯志傑(タン・ジージエ)、宋知行(ソン・ジーシン)、顧長安(グー・チャンアン)、陳硯之(チェン・イエンジー)。最後の数字を打ち込み終えると、スマホをそっと枕元に伏せて置いた。

そこでハッと気づいた。自分はまだ、古珞鸒の連絡先を聞いていなかったのだと。

カーテンの隙間から薄灰色の黎明の光が差し込んでいた。その朧げな色合いは、あの副本(ダンジョン)の空間が崩壊し消滅していったあの光の残滓に、どこか似ていた。部屋が静まり返る中、彼は二度とスマホの画面を立ち上げなかった。


宋知行(ソン・ジーシン)

胸の奥に重く沈んだ鬱屈が、どうしても拭えなかった。

副本での挫折でもなければ、肉体の損傷による痛みでもない。またしても一歩遅れてしまったという、あの敗北感だった。

程晉陽は自ら前に進み出で、己の本源を削るリスクを承知の上で古珞鸒の腰を抱き、あの極めて危険な霊能伝達をやり遂げた。それに対して自分は、相変わらず傍観者として側に立ち尽くすことしかできなかった。

あの時、程晉陽の顔に浮かんだ蒼白な虚弱さを目にした際、あの行動の裏にどれほど重い代償が隠されているかを、自分ははっきりと理解していたのだ。

ひとつの疑問が脳内でぐるぐると渦巻き続けていた。なぜ自分は、あのような義理立てを捨てたなりふり構わぬ主導権を握れなかったのか?

続いて湧き上がってきた念には何の論理もなかったが、異様なほど明晰だった。

——まだ、その時ではない。

彼はその言葉の出処を説明することもできず、これ以上深く思い悩むこともやめた。スマホを開いてアドレス帳をめくると、程晉陽、劉張三、湯志傑、顧長安、陳硯之の番号がすでに静かにリストの中に収まっていた。何度か往復して視線を走らせたが、女性陣の連絡先はすべて空白のままだった。

彼はスマホの画面を閉じ、二度と触れようとはしなかった。



顧長安(グー・チャンアン)

他の者たちに比べれば、この手の副本に足を踏み入れた資質はまだ浅く、常に三思の後に行動する習慣がついていたため、無謀な冒険を犯すことはなかった。今回、記憶が押し寄せてくるにつれ、彼は自分自身に対して少なからぬ不満を抱いていた。

単に「十分にできなかった」というレベルではない。あまりにも酷すぎたのだ。

推論と損得勘定に頼りすぎ、常に万全の機会を待ち続けてしまっている。

身近な二人の仲間が急速に成長していることを、彼は痛感していた。程晉陽はすでに「種」の能力の門前へと手を届かせており、宋知行は今回半歩遅れたとはいえ、決して立ち止まるような男ではない。そして自分自身も、己だけの突破口を見つけ出さなければならないのだ。

彼は番号を記憶しており、スマホを取ろうとしたその瞬間、画面が突如として明るくなり、一通の新着メッセージがポップアップした。送信者は——陳硯之。



陳硯之(チェン・イエンジー)

彼は両親から授かった自分の記憶力の良さを、密かに感謝していた。

副本の中にいた時から、彼は心の中でひたすら全員の携帯番号を暗唱し、記憶を何度も補強していたのだ。夢のような副本から帰還した直後、彼は真っ先にスマホを掴み取り、暗記していた番号をひとつずつアドレス帳に登録し、続けて一通ずつメッセージを送信していった。

画面に並ぶ「送信済み」のマークを見つめていると、胸の奥から温かな感動が湧き上がってきた。

いつの日か、自分も于奕孺(ユー・イールー)と連絡が取れるようになる日が来ることを、彼は心から切望していた。

口元と思わず大きな笑みがこぼれた。だが次の瞬間、彼は猛然と額を叩いた——古珞鸒の連絡先を聞くのをすっかり忘れていたのだ。一瞬うろたえたものの、すぐに肩の力を抜いた。まあいい、次に逢った時に聞けばいいだけのことだ。



劉張三(リウ・ジャンサン)

スマホに通知が届き、彼は陳硯之によってひとつのグループチャットへと引きずり込まれた。

グループ名はシンプルそのもの。【副本の戦友】。

メンバーリスト:劉張三、湯志傑、程晉陽、宋知行、顧長安、陳硯之。リストの中に、女性メンバーの姿はひとりも見当たらなかった。

胸の奥に、密かな不安が持ち上がった。これまでの経験の多くは同門同士の行き来であり、怪異の世界の素養を持たない一般人と、現実世界において副本以外の絆を築くのはこれが初めてのことだった。

彼は湯志傑の電話を呼び出した。

コール音が長く響いた末に繋がり、受話器の向こうから眠たげで朦朧とした声が聞こえてきた。「……おい?」

「俺たち、これが初の『現実オフ会(面基)』ってことになるのか?」

線の向こうがしばし静まり返り、起こされた湯志傑のダミ声が返ってきた。「お前にとって初なだけで、俺には違う」

劉張三は反論せず、短い沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。「人に教える件、お前に任せたぞ」

「はあ?」湯志傑の意識が少しハッキリとしたようで、頭の上に大量のハテナを浮かべているのが目に見えるようだった。

「言ったろ、人に教える件はお前に任せたと」言い捨てると、劉張三はそのまま通話を切った。



湯志傑(タン・ジージエ)

一本の電話によって、無理やり夢の中から現実へと引き戻された。

スマホに表示されたグループ通知を見つめながら、彼は深い感慨を抱いていた。いわゆるオフ会など怖くはなかったが、本当に気がかりなのは、この若者たちがすでに現実世界において副本以外の絆を構築し始めてしまったことだった。この先、それがどんな結果を引き起こすのかは誰にも分からない。

だが、劉張三が押し付けてきた厄介ごとを引き受けるつもりは毛頭なかった。寝返りを打ち、掛け布団を頭までかぶせると、再び布団の中へと潜り込んで泥のように眠りについた。



鄭愷苑(ジョン・カイユエン)

ようやく終わった。

今回の魔詭本は、本当に長くて心力を使い果たすものだった。

彼女はベッドの上にへたり込み、天井をじっと見つめながら、頭の中で溢れ出すツッコミの念をグルグルと巡らせていた。

程晉陽ったら程晉陽、そこまで根に持つことかしら。あのほぼ顔が触れ合いそうだったやり取りが、単なる霊能交換の「印(Marking)」に過ぎないことくらい、誰もが見抜けているじゃない! 勝手に自己完結して脳内補完なんてしないでちょうだい!

陳硯之も気をつけなさいよ、感情の試練(情関)に足を踏み外すような後鉄を踏んじゃダメだからね。

そして、あの時の于奕孺の険しい顔色を思い返し、鄭愷苑は密かに推測していた——きっと誰かが副本の中で私情によって原則を乱されたのね。美人の関所というハードルは、相変わらず越えがたいものだわ。万が一、古珞鸒がこの件のせいで周囲を警戒して遠ざけるようになったら、それこそヤンデレ化(黒化)の危険な兆候を引き起こしかねないわ。鸒姐はもっと慎重にならなきゃ。

指先を素早く動かし、ツッコミ満載の長文メッセージを打ってグループチャットへ投げ込んだ。誰かが返信するかどうかなど全く気にせず、打ち終えるとスマホを放り投げ、そのまま深く沈み込むように眠りについた。



潘穎嫆(パン・インロン)

胸の奥に、どうしても「これって少し反則(ルール違反)じゃないかしら」という感覚が付き纏っていた。

巨人の載具が突如として崩壊した現象は、彼女がこれまで認識していた副本のルールを遥かに超えていた。そして彼女は薄々感じ取っていたのだ。今後の局勢の主導権は、少しずつ変化を遂げていくのかもしれない、と。

本当なら、自分はこれからも古珞鸒の足跡についていきたいと思っていた。

だが、考えすぎても不毛だ。明日もジムに行ってトレーニングをしなければならないし、やるべきことは山積みだった。

掛け布団の端を引き寄せ、瞳を閉じた。



于奕孺(ユー・イールー)

胸中にあるのは、ただふたつの言葉だけだった——「厄介ね」。

程晉陽の体内に眠る「種」としての潜能が、今回の魔詭副本を通じて完全に刺激され、活性化してしまった。この事態は以前から予発していたことだったが、いざ目の前で現実の形として突きつけられると、やはり頭を痛めずにはいられなかった。

彼女は鬱血して重い太陽穴(こめかみ)を押さえ、全身に深い疲労感を滲ませた。瞳を開けて天井を見上げ、静かに溜息を吐き出した。



唐衍之(タン・イエンジー)

目を覚ました後、脳裏に激しい感情が渦巻くことはなかった。

彼はベッドの端に腰掛け、真っ暗なスマホの画面を見つめていた。メッセージのポップアップもなければ、グループへの招待もない。誰も彼を戦友チャットへ引き入れはしなかった——副本の中で、彼自身も誰にも自分の番号を渡していなかったのだから。

記憶が浮上してくる——塾の副本全体を通じて、自分が行ったことといえば生徒の宿題を添削し、数ページのレジュメを書いただけだった。先陣を切って戦うこともなければ、霊能を出力することもなく、決定的な局面で期待を込めて名前を呼ばれることすら一度もなかった。

脳裏に、副本の中で于奕孺が彼に向かって言い放ったあの言葉が浮かび上がる。

『何を焦っているの? 何を怯えているのよ? どうせあなた一人の力で達成するわけじゃないんだから』

あの時、彼は反論しなかった。現実に戻って思い返してみても、相手の言っていることが紛れもない事実であったと認めざるを得なかった。

彼は立ち上がり、窓辺へと歩み寄った。部屋の明かりは点けなかった。静かに佇み、街に少しずつ朝光が満ちていき、通りに人や車が行き交い始める様を見つめていた。

胸の中で、彼は静かに決意を固めた——次回は二度と、あの無用で、誰からも必要とされない存在にはならない、と。



駱馥琪(ロー・フーチー)

彼女に残されたのは、ただ夢のように朧げな残像の塊だけだった。

夢の中には補習塾の教室があり、たくさんの人々の姿があったが、詳細はすべて曖昧に消え去っていた。けれど彼女は、この経験をこのまま忘れてしまってはならないと分かっていた。

枕元のスマホを手にとり、メモ帳を開くと、幾つかのキーワードを打ち込んだ——補習塾、補習、合宿。打ち終えて手を止めたが、これらの単語だけではすべてを記録するにはあまりにも不十分だと感じた。

彼女は決意した。近いうちに古珞鸒と機会を作って話し合わなければ、遅かれ早かれこれらの記憶の断片を完全に失ってしまうだろう、と。

メモを保存し、スマホを枕元に戻した。再び横になり瞳を閉じた。眠ることはできなかったが、そのまま静かに朝の光が完全に満ちるのを待っていた。


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