不遇な第二王女が隣国の王子の助けを差し伸べる手を払って世界を旅する吟遊詩人の心を射止める話〜世界を旅しても貴方の心はわたしのもの!〜
息抜きに書きました。
評判が良かったら続きを出すかもです。
守られてチートな相手にざまぁしてもらったりするのも良いけど、自分で自分の幸せを掴む強い女の子って素敵だなーと思って作りました笑
「そんなに涙を流して……。決めた!君のことは僕が助けてあげるよ!」
キラキラと輝く髪に、もちもちとした肌。
羨ましいくらいに大切に育てられたことがわかるその男。
隣国の王子、ウェル・ベルクのその言葉を聞いた王女、ローラ・フローレスは決意した。
この男の助けなんていらない、自分の境遇は自分でなんとかして見せる、と。
大声で怒鳴り散らかした王妃に頬を打たれ、日々の生活の苦しみから廊下で涙を流していた少女、ローラ。
フローレス王国第二王女、ローラ・フローレスは、王の戯れによって下級貴族との間に生まれた不義の子だった。
母であるミーナは、ローラを産んですぐに身心を病み他界し、ローラは乳母によって育てられた。
「ローラ様、貴方は誰がなんと言おうと王女なのですよ。例え誰がなんと言おうと、御身に流れる血は尊きものなのです。忘れないでくださいね、私は貴方の乳母、貴方を愛し育てるものです。貴方は、私から愛されているのですよ」
ローラの乳母は、彼女が寝る前に必ずそう言って聞かせた。
彼女はローラが5つになる頃に王宮を追い出されてしまって今はもうどこにいるかわからないが、確かにその言葉はローラの中に生きている。
例え王宮の隅の部屋に追いやられ、王族として最低限の教育を受けることしか許されず、肉親である兄や姉に虐げられようとも。
父である国王に「望まぬ娘」と言われ、王妃に「下賤な血」と蔑まれ頬をぶたれようとも。
腐っても王族、王女である。
どこの誰だか知らない者に施しを受け、同情から手を差し伸べられたとして、その手を取ることは彼女のプライドが許さない。
——助けなど要らないわ、私は王女よ。
民を導くべき王女である私を、助ける?
笑わせる。
「貴方の手なんか借りない。傲慢もほどほどにしなさい」
ローラは差し出された手をパシッと弾き、不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。
「な、君!王子である僕の助けを断るというのかい?!せっかく僕が助けてやると言ったのに!!!」
自信満々に手を差し伸べていた王子は、すげなく断られたことに対し、自慢の顔を歪ませて激昂する。
自分のすることは全て正しいとでも言うように忌々しいほど屈託のない笑顔だった馬鹿な男。
この男を始まりに、国王も王妃も皆を見返すことを想像すると笑ってしまう。
頬を打たれ、情けなくへたり込み泣いていた姿勢から立ち上がり、男に背を向けて歩き出す。
「失礼するわ、ご機嫌よう。ウェル殿下」
私は王女なの、誰の手も借りない。
自分の幸せは自分で掴み取るの。
ああ、これからが楽しみで仕方がないわ。
「ふふふっ、あはははっ!これからどうしようかしら。………ふふふふっ」
カツカツと音を鳴らしながら、人気のない薄暗い宮殿内を歩く。
どうして今まで気がつかなかったのかしら!
生きるのが辛いだなんてメソメソ泣いていたのが馬鹿みたい!
人生は一度きりなのに!
私は王女であり、望めばなんだって手に入る立場なのよ!
出来ることを出来る範囲でやって、それでも無理だったら死ねばいいわ!
絶望だけして何も行動しないなんて勿体無いわ。
自分の幸せは自分で勝ち取るの。
最後まで自分の人生に責任を持って生きるのよ、それが王族として生まれた私の出来ること。
決められた人生を歩くのではなくて、どんな可能性だってある王族という身分の中で、自分で考え自分の意思で道を決めること。
それこそが王族という身分の特権でしょう?
王宮の隅にある他の王族に比べるとだいぶ小さくて質素な自室に戻ったローラは考える。
「私に必要なことは何?」
この先の人生で私が幸せになるために必要なもの。
財産、知識、人脈辺りだろうか。
立場上は王女だが、ローラにあるのは王族最低限の知識のみ。
土地や価値のある宝石、屋敷などはもちろん持っていない。
現国王と王妃に家族として認められていないからだ。
そして、家族として認められていない事と母であるミーナの死亡によって、社交の経験もほとんどない。
社交の場にはローラの席は無いし、母の親族や友人とも繋がりがないため、ローラは国内では名前のみ王族として知られている。
国内にとどまらず、他国の要人も招待する場合は王族としての籍がある以上出席することになる分、多少はローラの顔を知ってる者もいるだろうが。
見事に全てがない。
「今できることは……知識ね」
人脈も財産もすぐには用意できない物ばかりだ。
幸いにも王城には歴史ある書物や価値のある本が貯蔵されている。
まずは図書館に眠る本を片っ端から読み、充分な知識を蓄えることに専念した方がいいだろう。
それからローラは他の王族たちに気づかれない時間帯に図書館へ籠り、図書館の本を数ヶ月かけて網羅して行った。
「国王が私に傷をつけることなく育ててきたのは嫁がせるためね」
今までの歴史書やこの城の決算書などを見て気づく。
王族は今思ったよりも火の車で、要職に着く者たちが国費を不正に使っているからだ。
そして、湯水のようにお金を使う王族たち。
腐っても王族の籍を持つわたしを資産が豊富な貴族に嫁がせる気なのだろう。
ローラは今14歳だ。
フローレス王国では16歳から結婚をすることができる。
あと2年あるとはいえ、花嫁修行として相手の家に引き取られてしまう可能性もある。
早めに行動をするべきだ。
ローラはとある人物に会いにいくため歩き出した。
王宮の廊下を歩いていると、何処からか歌声と人々の騒めきが耳に入ってくる。
……?何かしら。
そう思って廊下の端に寄り、窓から外を覗いてみる。
——目を閉じて、恐れることは何もない。
さぁ、世界を見渡してみよう。
陽の光を浴びる草木も、宝石のような川も、全てが君の手のうちさ。
望めばなんだって、いつだって君のそばに。
さぁ、世界を見渡してみよう。
幸せは君の手にあるのさ——。
丸みを帯びた洋梨型の楽器、マンドリンを抱えて石段に腰掛けて歌っている吟遊詩人と、その歌を聴く観衆たち。
人々は世界を知る吟遊詩人の歌に酔いしれ、手拍子をしたり口笛を吹いたりして盛り上がっている。
吟遊詩人の姿はよく見えないが、聞こえてくる歌声がそこまで男らしい低い声ではないことから、まだまだ若いことがわかる。
くだらない。
吟遊詩人なんて、ただ歌を歌うだけじゃないの。
何を知っているというの。
そう鼻で笑い立ち去ろうとした時。
「フェリス、今回はどこまで行ってきたの?どんな国だったか教えてちょうだい!」
「よーフェリス!久しぶりだな、旅はどうだ?なんか面白ぇモンでも見つかったか?!」
「フェリス兄〜、僕も外の世界を見てみたい!連れてって!」
演奏が終わるとともに、観衆が吟遊詩人に群がって行く。
若くて世界に興味津々な女性、昼間っから酒を飲み陽気な男性、キラキラと目を輝かせてぴったりとくっつく男の子。
その周りには、杖を持ち座っているご老人に赤子を抱いた母親など、老若男女が溢れていた。
何が違うのよ。
私と吟遊詩人、どちらも同じ人間なのに。
私も、出来るならあっち側に居たかった。
眉を顰め、ギリっと口に力が入る。
憎たらしい。
何もかも、あそこにいる全てのものと違うことが憎らしくて仕方がなかった。
モヤモヤとして気持ち悪い気持ちが心を占拠していく。
「うーん、そうだなぁ。あ!この前、東の方でお祭りがあったんだ。それがすごく賑やかでね、みんなにも見て欲しかったよ!」
皆にフェリスと呼ばれていた吟遊詩人は、顎に手を当てて一瞬考えると、すぐににこにこと笑みを浮かべてその時の様子を語り始めた。
屋台には見たこともない食べ物が並んでいただとか、美味しい料理を食べながら空に浮かぶ色とりどりの花を見るのが楽しかっただとか、ペラペラと身振り手振りを交えて語った。
屋台も、空に浮かぶ花も、見たことがない。
それどころか、あんなふうに穏やかな雰囲気で人に囲まれることだって。
あの吟遊詩人は、自分にはないものを持っている。
「ほぇー、すげぇなぁ!でも、お前さんそんなナリで1人旅なんて、大丈夫なのか?!危険な奴もいるってきくぞ」
酔っ払いの男はガッと吟遊詩人の肩を掴み、肩を組んだ。
「僕、そこそこ強いから悪いやつなんて吹っ飛ばしちゃうよ。それに、旅をしているとなんでも自分で決められるし、生きてる!って感じがするからなぁ。……旅をしていない僕は僕じゃないから、辞められないなぁ」
吟遊詩人はふんっと力こぶを見せつけるようにして、なんてことのないようにそう呟いた。
「はっはっはぁ!旅をしていないお前はお前じゃねぇのか!いいこと言うじゃねぇか!」
城の外からはまだ吟遊詩人と観衆がわちゃわちゃと話してるが、ローラには聞こえていなかった。
そこそこ強いから、悪いやつなんて吹っ飛ばしちゃうよ。
旅をしていると自分で決められて、生きてる!って感じがするからなぁ……。
その言葉が頭を支配していたからだ。
ピシャーン!!!と頭に雷が落ちたみたいだった。
姿形は見ていないけれども、皆の様子と吟遊詩人の声から、まだ若い少年だと思う。
そんな小さな子が、自立して、危険が身に迫れば自分でなんとかして、世界を旅するたびに生きていることを実感しているなんて!!
なんて健気なのかしら!
ローラは上気した頬に両手を当てた。
そう、ローラはすこぶるプライドが高い。
自分の生まれに誇りを持ち、何より自立心が強くて自分の幸せは自分で掴むタイプなのだ。
母であるミーナは王宮での生活に耐えられずに亡くなったにも関わらず、ローラは毎日苦しい思いをしつつも体調を壊すこともなく、今日まで生きてきた。
そして、生きるだけでなく自分の幸せを自分で掴み取ろうとするだけの余力すらある。
ローラは自分に足りないものがあれば、それを補うために努力を惜しまない。
彼女は努力の大切さを知っている人間なのだ。
何が言いたいかと言うと、ローラは努力家で自立していて自分で幸せを掴むタイプの人に弱いのだ。
吟遊詩人、フェリスのことを思い出して欲しい。
男らしくない低い声、楽器を演奏、世界中を1人で旅、そこそこ強い(らしい)。
自分とそう歳の変わらない子が、努力が必要な楽器で弾き語って、決して安全ではない世界中を旅して、安全のためにも鍛えている。
彼女の心を射止めないはずがない!
頑張り屋さんで自立してて自分の幸せにために動ける吟遊詩人!
とても良い。良いわ!
行先変更よ!!!
まずは吟遊詩人に会いに行かなくちゃ!
ローラは新たな決意を胸に、くるりと身を翻すとコツコツとヒールの音を鳴らして王宮の中を闊歩し始めた。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
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