11.二人の日常と三人の王族
王城・文官室――午後のひととき
「……なあ、ニー。」
「ん?」
「兄さんからの手紙、また来てたんだけどさ。」
イチが封筒を手に、眉をひそめる。
「“ナナ姉さんのこと、どう思ってる?”って。
“困ってるなら、兄としてできる限りの助言をする”って。」
「うちにも来た。“最近、ナナ姉さんと話す機会はあるか?”って。」
「……なんで兄さん、そんなにナナ姉さんのこと気にしてんの?」
「さあ……まさか、ナナ姉さんが兄さんに何か言ったとか?」
「うーん……。」
二人は顔を見合わせ、同時にため息をついた。
「……とりあえず、返事は“普通です”でいいよな?」
「うん。“特に問題ありません”って書いとこう。」
実兄の心配をまったく理解できない二人がここにいた。
王城・地下牢――夕刻
冷たい石の壁に囲まれた牢の中。
王の異母兄は、鎖につながれたまま、静かに座っていた。
その前に立つのは、王とセリナ王女。
「……なぜ、そこまでして王になろうとした?」
王の問いに、異母兄はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「……母のためだ。」
「……」
「私の母は、側妃だった。
正妃の子であるお前が生まれた時、
父の目は完全にお前に向いた。」
「……」
「母は、それが許せなかった。
“あの女の子が王妃になったから、私たちは捨てられた”と、
毎晩のように私に言い聞かせた。」
セリナが目を伏せる。
「……あの人、そんなに……」
「優しさなんてなかった。
愛されなかったことを、私にぶつけていた。
“お前が王になれば、すべてが報われる”と、
私に言い続けた。」
王は静かに目を閉じた。
「……それでも、兄上は母上を愛していたのですね。」
「……ああ。
だから、私は王にならなければならなかった。
それが、私の“存在理由”だった。」
しばし沈黙が流れた。
やがて、セリナが懐から小さな銀の瓶を取り出した。
「……これは?」
「毒入りのワインよ。」
異母兄が目を見開く。
「……私に、これを?」
「ええ。あなたの処刑は、まだ発表されていない。
もし、これを飲めば――“病死”として処理される。」
「……」
「王家の血を引く者として、
民の前で晒されるより、
静かに幕を引く方が、あなたにとっても名誉でしょう?」
異母兄はしばらく黙っていたが、やがてふっと笑った。
「……哀れみか?」
「ええ。哀れみよ。
でもそれは、あなたが“兄”だから。」
「……やはり、王はお前がなるべきだったのではないか?」
「それは、私が一番思ってるわ。」
「なら、なぜ――」
「だって、王になったら、好きな男を伴侶にできなかったもの。」
「……自己中だな。」
「自覚はあるわ。」
セリナはさらりと微笑んだ。
王は思わず吹き出しそうになり、咳払いでごまかした。
「……姉上、もう少し言い方を……」
「事実でしょ?」
異母兄は、そんな二人のやりとりを見ながら、
かすかに目を細めた。
「……あの頃の私たちに、
こんな未来があるなんて、思いもしなかったな。」
「私たちは、変わったのよ。」
王はそのまま何も言わずに姉を連れて、出ていった
異母兄は、銀の瓶を見つめたまま、しばらく身動きしなかった。




